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23話:リハビリ

 山本の負傷でまたも止まってしまった女子応援団。


 入院先の夜日高度医療センターでは、前宮ただ1人、山本の看病に徹した。


「足の傷ひどいな。前に僕へしてくれたように絆創膏を貼るから。もう、自分を責めすぎて無理したらダメだよ…」


「涼太、ありがとう。私、何か不幸に見舞われすぎだよね。その度に前宮は協力してくれたわけだからさ。でも、前宮もODというものとリスカというものをしてた事実に気付けなかった。私はそれがツラかった。最後に恩師の森田さんも死んでしまった…涼太君に私たち応援団のことで迷惑かけちゃってるね。本当にごめんなさい」


「考えすぎだ。どんなことが起きようとも僕が守って見せる。真由さんは真由さんのするべき事があるはずだよ。それは、時間かけて足の傷から復活して最後の女子応援団応援演舞をすること。きっと森田さんもそれを願ってると思う。学校は休むからその分真由さんの治療と応援に回る。復帰するまで僕が真由さんの足になるから!」


 前宮の発言に驚いた山本だったが、嬉し涙を流す。


 彼の人生を投げてまで世話をしてくれる人は、彼女自身の人生でいなかったからだ。今の2人を比喩的に表すとしたら、山本真由という名の傷付いた心を前宮涼太という名の絆創膏でこれ以上壊すまいと守っているような状態だ。前宮は、何度か家に帰宅しては病院へ向かうという荒技を見せる。


 仮眠室へ行っては山本の様子を見ていた。この日は、安静にしていたので動かなかったものも痛みと孤独に耐えていた山本は自分の不甲斐なさに泣く。


「こんな時に限って怪我してしまうし、他の団員に迷惑かけちゃった。どんな顔で彼女たちの前に出れば良いのさ…?こんなにツラいの人生で初めてだ」


 1人悲しく泣いている山本の目の前にそっと前宮が現れて、彼女の肩に優しく触れる。


「団員に迷惑なんてかけてないよ。むしろ、気付けなかったことに申し訳なさを感じていると思う。真由さんは僕が守るから大丈夫。1人じゃ寝れなさそうに見えるから僕がそばにいるよ。ゆっくり寝ると良い。僕は大山たちとチャットで連絡取りながら起きてるから」


 前宮の優しい発言に落ち着いたのか、山本は数分後夢の中へ誘われた。


 前宮は大山と連絡を取って山本の容態などを伝えた。


「とりあえずそんな感じだ。女子の方も見てると思うが練習具合はどうだ?」


「団員は相変わらずだけど、守山たちあまり元気ないな。話さない方がいいかもしれないけどお前、学校来てないけど良いのか?」


「良いよ。今ここで何も出来ずに終わって後悔するよりも何かしらの事でフォローした方が後々自分にとって後悔しないと思っている。守山たちがもし、僕の連絡先知りたがっていたら教えてあげて。僕を通して話す方が気が楽だと思うからさ」


 大山からはOKのスタンプが送られ、そのまま就寝した。


 前宮は事前に買ったアイスコーヒーを口に含みながら山本の様子を見守る。朝日が登る10分前になり、前宮は眠った。その時、前宮の方に触れるような感覚があった。声が聞こえた。


「前宮君。山本さんの事頼んだよ!君が山本さんの未来を照らす光だ」


 聞き覚えのある声だったが、起きた時は誰もいなかった。奇跡の瞬間なのか、偶然なのか分からなかった。


「今の声って森田先生…。もしも天国からわずかな時間でここに降りて話をしたのなら、その内容受諾します。責任持って山本さんの事守るので私たち2人を見守ってください」


 そう述べた後、前宮は自販機へ行ってアイスコーヒーを購入した。30分後、コーヒーを飲み干して部屋に戻ると山本は目を覚まして体を起こしていた。


 前宮の視線に気付いたのかすぐに目が合い、挨拶した。


「おはよう涼太君。もしかして、夜中ずっと起きてた?」


「まぁね…。少し嬉しいこともあったしさ」


 笑顔の前宮に理解できない山本だったが、彼女にとって壮絶なリハビリが幕を開けた。


「さて、リハビリルームへ来たけどこりゃ大きいな。片山さんが担当だから僕は外で…」


「ダメ!涼太君いないと嫌だから一緒にいて。1人じゃ怖いからさ…」


 山本は車椅子に乗ってそれを押している前宮というシチュエーションだったが、片山に会った後リハビリが開始された。


 歩行訓練を行った時、山本は声を出して痛みに耐えていた。


「痛い…。一歩が踏み出せない。バランス取れない。怖いよ…」


 山本が泣き出しそうになった時、片山から一つ提案をした。


「じゃあ前宮君が手を握って歩いてみたらどうだ?臨時で君が担当してくれるかい?」


「僕…ですか。分かりました。守ると決めたからには最後まで守りたいのでやってみます」


 前宮は山本の手を握って歩行訓練を行う。


 痛みに耐える山本に前宮は励ましながら歩く。もう一度復帰するために支えている姿はとても絵になるものだった。


「よし、よく頑張った!泣くなよ…もう。そりゃ初日はキツいよ?だけどねここまで歩ける人はそんないないから誇れるよ。服も汗で濡れてるから部屋に戻った後、着替えておかないとね…」


「分かった。褒めてくれてありがとう。多分、涼太君学校行って私1人だったら心折れてたと思う。私のためにありがとう。もしよかったらまゆっちって呼んでほしい」


「それって、女子の仲で呼ばれてる名だけど良いのかい?まぁまずは車椅子に乗って部屋へ戻ろうか」


 山本は部屋に戻った後、看護師の手伝いで汗だくの服を脱いで着替えた。時間がかかったようなので、荷物をよく見たら下着から全部着替えたようだった。


「キツかったな…。元々一晩居るつもりだったけど、まゆっちを1人にしたくないから僕は1週間後が退院予定の日までずっと居るから。だから安心してほしい」


「本当にありがとう!すごく痛くてツラいけど頑張る。応援して欲しい」


 相変わらずラブラブな2人だった。その後、山本は汗と涙を流してリハビリを重ねるごとに歩き方が元に戻り、退院前日には外出の了承を得るほどにまで回復した。


 2人は病院の食堂へ足を運ぶ。


「病院の食堂で祝うのはあれだけど退院おめでとう!演舞の練習は具合を見ながらになるだろうけど僕がいるから大丈夫だよ!」


「本当に今日まで世話してくれてありがとう。涼太君から下着見られたりと恥ずかしかったけど、ここまで回復したのは涼太君のおかげだよ!お母さんに伝えておかないとね」


 2人は笑って退院日を迎えた。花束を受け取り、そのまま学校へ向かった。バスに乗り手を繋いで歩いた。


 そこに待っていたのは守山率いる女子応援団だ。


「まゆっちおかえり!そして前宮君もまゆっちのお世話してくれてありがとう!」


「みんなただいま!心配かけてごめんね…。もう無理しないからまた練習しようね」


 拍手で迎えられた女子演舞は1つの大家族のようにも見える。ほぼ寝ていない前宮はフラフラだ。


「涼太君、ずっと起きてて私の看病とお世話をしてくれたの!本当に申し訳ない…」


「そうなんだね!少し寝てみるのはどうかな?日陰だし、バッグを枕にして寝な?」


 前宮は頷いて日陰のあるところへ向かってゆっくり目を瞑って夢の中へ行った。


 その寝顔は可愛かったのか、守山と高部、鶴海と山本はクスクス笑いながら写真を撮っていた。

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