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19話:球技遊戯

 またも前宮は出血により病院へ入院となり、山本はそんな前宮を看病するかのようにお見舞いへ足を運んだ。


「また来たよーって前宮君無理しないでよ。勉強遅れてるからそりゃ無茶したくなるし受験生だからって今は休まないと血を吐くよ!」


「分かってるけど負けられない…。山本は勉強に演舞と忙しいだろうけど僕は山本さんを守る身でもある。知は時に強大な力になる、だからこそ山本さんを幸せにしなきゃいけない」


 前宮は山本が知らない力を出して勉強をする。


 そんな山本にそろりそろひとついていくようにまさかの助っ人が現れる。


「まゆっち!前宮君のお見舞いに来たよー!こりゃまたデカい部屋だね。1人部屋って高いだろうし…。何かあったら前宮君に頼もうかな」


 なんとそこには栗原と下森が姿を現す。その手には袋を持っていた。


 流石の山本も開いた口が閉じれず、驚くばかりだ。


「え、付いてきてたの?梨恵ちゃんにしかも舞ちゃんまで…ハハハ、こりゃ一本取られたわ」


 山本は笑って誤魔化したが、前宮はよく来たと言わんばかりに常設されている冷蔵庫からお茶を2本取り出す。


「まぁせっかくだから良かったらどうぞ。椅子もあるし、何なら部屋広いから広々と使って大丈夫だから。住宅みたいな感じに言うのはあれだけど結構僕1人じゃ広すぎるんだよね…」


「確かに言われてみれば広いね。一緒に寝ようと思えば寝れるね。ねーまゆっちっ!」


 栗原は山本に抱きついて前宮と付き合ってるだろと言わんばかりに言葉でその秘密を暴こうとした。そんな中、担当医の片山が巡回のため部屋に入る。


「なんか騒がしいと思ったらこりゃまた元気な女の子がいるものだね。まぁそれは置いといて、山本さん丁度いい。前宮君の家族に伝える前に君に伝えておこう。本人にも伝えるものだから」


「え、あ、はい…なんだろう、嫌な予感しかしない…前宮の症状悪いのかな」


 山本は片山の後をついていった。その間前宮の部屋に残ってる栗原と下森はお茶を飲みながら話をする。


 山本は片山の部屋に入り、1枚のレントゲンを見せた。


「前宮君には後々伝えるが、人間じゃないくらい凄いよ。まず回復力がとても凄まじくてヒビの入った骨も短期間で再生されています。ただ喘息持ちのようで肺にダメージが加わっているので吐血が酷かった理由はこれに当たるかなと…。殴打されたところは回復してるから問題ないよ。回復しても吐血しやすい状態なので、前宮君に吐血があったら言ってほしい」


「分かりました。前宮の彼女として責任持って前宮君の看病と観察をしていきます。任せて下さい」


 片山は彼女という一言に緊張が緩んだ。詳しい話によると回復が異常で体育祭と球技大会の参加も問題ないという事だった。嬉しそうな山本だったが、吐血しないように見張っておく事になったので責任を感じていた。


 足軽に前宮の部屋に戻るとさっきまで居たはずの栗原と下森が居ない。


「あれ、舞ちゃんと梨恵ちゃん帰ったの?荷物もないし…。これお見舞いの品?なんだろう…開けても大丈夫?」

「開けてみようか。下森さんと栗原さんなら帰ったよ。マスゲームの練習が明日早いって言ってた。ていうか真由さんの演舞練習大丈夫なの?」


 山本は大丈夫だよと言わんばかりに笑顔で答えた。袋の中を開けてみるとゼリーの詰め合わせが入っていた。前宮はそれを見て退く。


「ありがたいけれども、僕はやめておこうかな…。ここ最近何食べても血の味しかしなくてね…真由さん食べてみなよ。後で君の感想を使って連絡してお礼を言うことにする」


「いや食べなよ!前宮君の体を大事にしなさい。じゃないと退院してもまた倒れるよ」


 前宮の口の中は血の匂いで満たされていたが、山本の強行突破により食べた。甘い果物の中に鉄のような味が舌の上でコロコロ転がる。山本は美味しいと言わんばかりに笑顔で食べていた。


 その後毎日のように山本は練習後病院へ行っては食べさせての繰り返しをした。前宮もなんやかんや言いながらも食べてくれた。食べてる時の顔を見ると、山本は何故か可愛いという感情が込み上がる。とある日の帰り道、山本は1人で歩いていた。


 そしていつものようにお風呂で演舞の練習をして動きを確かめた時、甘酸っぱい気持ちが上がってきた。体を洗っていたので服を着ておらず、流石の山本もこれには参った。


「この気持ち…何だろう。前宮君と付き合ってからこんな感じで気持ちが良い…。心配だからかな。退院したらデートする約束だし練習頑張ろ」


 お風呂から上がり、携帯のSNSを見て確認をしていたら前宮からチャットが来た。その内容は退院予定の日と球技大会のことだ。


「退院が明後日になった。そしてやっぱり吐血しやすくて球技大会は予定通り見学になるみたい。ご飯は鉄の味しながらも食べてるから大丈夫だよ。僕よりも演舞が心配だ。また病んだら大変だからね…」


 山本はクスッと笑った。心配性な前宮も可愛い、と。そして、退院の日を迎えて前宮はその日家にそのまま帰宅した。


 山本は演舞練習が終わった後に守山と高部、鶴海と練習する。


「前宮君、今日退院したよ。みんな心配かけて本当にごめんって言ってたよ」


「そんな心配かけたって私たちのために犠牲払ってるしさ、頭上がらないよ。あの後大丈夫だったのかな…」


「私なんてブラウスまで買ってくれたしさ…。あの時は本当に恥ずかしかったよ。六田の手で胸触られて丸出しされるのかなって思って後少しのところを前宮たちがギリギリで間に合わせたから本当に奇跡だよね…。その後に顔面ぶん殴った時の前宮かっこよくて失神しそうだったよ(笑)」


「いやそれめっちゃ分かる!お金もすごく持っててタクシー降りる時にお釣り要らないとか言って走ったからさ、前宮って本当に凄いやつだよ。両応援団の団長に任命したいくらいだ」


 4人はその時の話を笑い話かのようにしてバレーボールに打ち込む。


 大山率いる男子応援団も前宮と大山が一嶋と三武をぶん殴ったおかげで練習再開に辿り着くことができた。大山にとっての心配は前宮が球技大会に参加出来るのか、ということだ。球技大会当日になると体育服に着替えた生徒が一斉にグラウンドへ走った。


 しかし、前宮は体育服に着替えただけでそのまま影のある場所へ動き座る。


「やっぱり難しかったか…。まぁ退院したばかりだからね。おいみんな!俺がゴールキーパーするから任せとけ!」


 大山は自ら率先してゴールキーパーを行う。女子は栗原、下森もいるチームの中で山本は躍動した。


 時間を見ながら前宮のところへ走って様子を見に行った。


「前宮君大丈夫?血は吐いてないみたいだけど顔色悪いね…」


「大丈夫とは言い難いけど吐きすぎてキツいな…。明日お休みだし応援団もお休みだろうからデートしようよ。2人っきりで写真撮ったり楽しみたいからさ」


「分かった。その代わり、私たちのクラス応援してね!」


 そんな様子を見た栗原と下森はヒューヒューと冷やかす。山本は恥ずかしかったのかスポーツ飲料を飲んで心を落ち着かせていた。守山は山本を見て笑っていた。


 彼氏の横にいる彼女はとても可愛くてハプニングを面白がっている。勝利を重ねて山本のクラスは決勝へと駒を進める。前宮は声が出る限り応援した。


「スマッシュ打ち込め!真由ー!」


 栗原と下森は大爆笑した。山本の活躍により彼女たちのチームは優勝した。


 一方、サッカーが行われている大山の方は敗北した。相手がサッカー部しかいないクラスで苦しい展開となり、1点も入る事なく大敗した。


「大山すまないな…。少し殴られて血を吐いてからきつくてな。わりぃ」


「前宮、お前がいなかったら応援団は存続できてなかった。本当にありがとう。おい!山本来てるぞ。迎えにいってやれ」


 前宮に向かって山本は優勝したことを報告した。それも、ラグビーの突進かの如く前宮の胸に飛びついて喜ぶ。


「勝ったよー!前宮のボールで優勝できた。本当に本当にありがとう!明日楽しもうね」


 大山は明日何かあったのか確認したが演舞練習は女子男子共にお休みだったので察した。


 前宮は健康に気をつけるかのように歩いて教室へ向かって着替え、明日のデートプランを笑顔で考えていた。

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