17話:緊急事態
前宮の体調も山本がお見舞いに来るたびに活力と心も日に日に戻って、退院の日も決まった。
退院前日に前宮は山本に連絡した。
「やぁ…元気かい?主治医の片山さんには言わせなかったけど、明日退院になった。山本さんの笑顔と元気が体に行き渡ったのかもしれない。守山さんたちが付けてくれた絆創膏の傷も治って、傷もくっきりと跡は残ったけど塞がったよ」
「お!本当に?良かった…。心配だったよ。演舞の練習しながら前宮のこと考えてたからさ失敗しまくって森山に怒られちゃった(笑)でも前宮の回復はグッドニュースだから他の3人にも伝えとくね!」
前宮も山本も電話でしか声を出してなかったが電話の先はお互い顔が赤く、手が震えている。
初カップルの初めて起きた珍事件と言っても良いだろう。前宮は山本に電話をした後、和かに眠った。その山本も笑顔で寝ていた。予定通り前宮は退院した。退院してすぐに行ったのは学校だ。
そこでは珍しい事に女子応援団しか練習していなかった。
「山本!今退院してきた。今日休みの予定だったけどちゃんと退院したという報告をしなきゃいけないから学校にきた。そして、高部さんに守山さん、鶴海さんも心配かけて申し訳ない。全部で24人なのね、なるほど…。4人もそうだし他の20人の皆さんにも迷惑かけてしまったので、その練習での対応をしてくれたみなさんに感謝を伝えるべくアイスクリーム奢ります!高いものでも何でも良いんで…」
突然のサプライズに24人女子応援団は歓声が上がる。山本はニコニコして前宮の手を握りしめて話した。
「高部さんと守山さんと鶴海さんにしか言ってなかったのですが、私山本真由は前宮君と付き合うことになりました。私から告白してOKを貰いました!たまに練習の最中来てくれたりするかもしれないので、歓迎して下さい」
グラウンドには女子24人しかいないはずなのにその歓声はどこかのライブ会場のようにして、大盛り上がりした。山本たちの練習が終わった後、早速アイスクリームを買うためにお店へ向かう。その間守山と高部、鶴海は前宮と話をした。
「前宮君ってまゆっちのこと好きでそのまゆっちから告白受けたなんて良いドラマだね~!そんな青春したいわ」
「まぁ、偶然ですから。同じクラスでもあったから恋も出会いも偶然なのかもしれません。そんな守山さんも可愛いと思いますよ。特に今が1番その、オフな状態が可愛いなと思います」
守山と前宮との会話は、盛り上がって高部と鶴海は手を叩いて笑った。
「前宮君のボール借りてたけどあれ高いやつだってなみが言ってたけど、あれいくらぐらいしたの?」
「え、あれは確か12000円で買った記憶があります。極めてみようかなと思って折角なら大会公式の物が経験になるかなと思って買いました!あ、お小遣いで?と言われそうな気がしたので僕は投資家なので株で稼いでいます」
高部の質問に対して、またも衝撃な答えを出した前宮にもはや頭が上がらなかった。唯一あまり関わりのない鶴海も前宮に話しかけた。
「腕の傷はその、バレーボールしてた時に付けたの?なんか、傷跡がすごい付いてるけど均一になってるというか…」
「お恥ずかしいところお見せして申し訳ない…。自分で傷付けたものです。お話は聞いてたと思いますが、ツラかったり生きるのが嫌になると1瓶薬飲んだり腕に傷付けたりと止めれなかったりしました。それを止めようとしてくれたのが、一晩泊まってそこからお見舞いに来てくれた山本さんと守山さんです。鶴海さんにも心配をかけてしまいましたが、このように退院する事ができました。本当にありがとうございます」
そんな前宮のお礼に鶴海はいやいやと言わんばかりに頭を下げる。
24人分のアイスクリームが決まると、レジへ持っていった。
「えー、お値段は6200円ですが皆さんそれぞれで払いますか?」
「あ、僕が全部払うので大丈夫です。もし可能ならスプーンを付けてくれるとありがたい」
店員は目を疑ったが、前宮は軽々と払って応援団24人らは外へ出た。多種多様なアイスクリームが揃う中、高いアイスクリームを選んだ人は1人もいなかった。
前宮はそれをみて、遠慮せず選べば良かったのにと思っていた。
「前宮君の復活を祝って~!円陣組もうか。前宮君大声出せたりできる?最後にさぁいこう!って付けてくれると嬉しい」
山本が半ば強引に、前宮を円陣の中心に来た。
「こんにちは!初対面の方ははじめまして!前宮です。今日退院しまして、山本真由さんの彼氏という形です!1つ裏話をしますが、真由さんの病んでた時に練習指導が急に変わったと思った日ありませんでしたか?その日、私から真由さんにクッキーを作って渡しました。もし、病んでもうツラいって思ったら僕に作ってくれと頼んで下さい。球技大会もあると思うので、それも含めて頑張りましょう。ちなみに僕は、退院明けなので見学です。演舞成功と幸せを願って気合い入れましょう。さぁ行こう!」
時に笑いが起きて、時に怒号が響く女子応援団に1人のマネージャーが就いた瞬間だった。山本と前宮の手は固く握っていて、まさにカップルというより夫婦のように見える。
前宮の元に大山が走ってきた。
「おー!前宮じゃんか。本当に入院してたんだな…。下村から聞いたぞ。それは良いとして、大変だ!森田遼さんから連絡きたけれども俺たちが教育委員会へ行ったことがバレて退学証明書を発行の準備をしているらしい。森田遼さんもそれを阻止するべく、抗議してるけれどもかなりやばいぞ」
前宮は血の気がない青白い顔からさらに青白くなった。そして女子応援団24人は歓声から一変し、静かになる。
前宮は事実確認をするべく冷静に対応しようと必死だ。
「僕が森田遼さんに連絡を取る。大山君とと守山さんは校長の元へ!連絡を取った後、山本さんと鶴海さん、高部さんと僕で急いで市役所へ行こう。校長の元へは団長が行ったほうが説得力あるだろ?僕の体調は大丈夫。行こうか」
指示を出してそれぞれ動く。
練習後だったので団員は着替えて帰ることとなり、後の人らは抗議と連絡を取ることにした。