14話:球技大会
中間テストの週間になり、演舞を行う有志はテスト勉強しながらと疲れが溜まりやすくなっていた。
特に山本は授業中寝ている事が多く、テストの範囲を聞きそびれたりと大変なことに。しかし、そんな彼女の慌てぶりに対して救いの手を差し伸べる優しい人はいない。殆どの人は遊んでいたり、家で勉強するという人ばかり。
1人の男が紙に書いたメモを山本に渡していた。前宮だ。
「流石に疲れていては集中して授業受けるとか人の話など聞けないだろ?そうだと思ってテスト範囲と宿題の範囲全部メモしたから使って。僕はもうメモしてるからこれはそのまま渡すから自由に使ってくれ」
きっちりと仕事をする前宮に山本は、寝ぼけながらもお礼を言った。
「ありがとう!もし良かったらその範囲の答えとか送ってもらえたりできる?」
「もちろんだよ。家に帰宅した後送るから」
大山もその2人を見てすぐに前宮へ願った。
「俺もいいかな?さっきの時間寝ちまって…」
前宮は大山にグーサインして問題ないとアピールした。
中間テスト初日は前宮が1番手に教室へ入る。彼の得意教科は化学や世界史だが、そのほとんどは一夜漬けするというゴリ押し戦法を好んでいる。
「誰もいない教室で勉強できるのは集中しやすくて得しかないな。コーヒー買ったことだし飲みながら覚えようかな…」
教室がコーヒーの芳醇な香りに包まれる中、山本が息を乱しながら教室へ入る。前宮に挨拶した後、席へ行って慌てていた。
「前宮は今日のテスト勉強した?私、女子応援団の練習疲れで寝落ちしちゃった(笑)」
笑いながら話す山本に前宮は唖然とする。
状況を把握した後、前宮が夜中に書いていたものやどこが確実に出るかの詳しいものを山本に渡した。笑顔で声をかけた。
「この辺やってた方がいいぞ!点数の半分はここから出るから。あと、この辺は流石に難しいから省略しても問題はないはず」
前宮の神的一手による活躍で、中間テストを乗り越えた。
中間テスト終了したホームルームに下村充が連絡事項をとり行う。
「えー…体育祭の前に球技大会を行う事になりました。男子はサッカー、女子はバレーボールです。しっかり楽しんだ上で体育祭の練習が待ってますので疲れないようにしましょう」
一同は喜んだが前宮だけ喜んでいなかった。その理由を聞こうと山本は帰宅しようとしている前宮に応援演舞練習時の練習着に着替えて話をする。
「前宮さっき喜んでなかったけどなんで?私たちはもう卒業するわけだから楽しもうよ!それとも、森田遼さんの事を考えてるの?」
「森田先生のことならきっと問題を解決してくれるから心配はご無用さ。喜ぼうとしたけど、感情がハッキリと表せなくなってね…。ちょっとだけ疲れてるのかもしれない。今日は少し休んで明日また会おう。山本さんも怪我気をつけてな…今回は怪我しても前みたいにおんぶできないからね。人の目が流石にキツいから(笑)」
山本はふふっと笑う。おんぶしてもらった時がとても幸せそうな顔をしてた山本だったが、人の目を気にする前宮の恥ずかしさに山本は可愛いと思った。
いつものように守山、鶴海、山本、高部がメガホンを取って黒岩、嘉藤などの後輩の動きを通しながら檄を飛ばす。
「後ろもたつくな!さっきいい形だったのに勿体ないよ!もっと走れ!」
「そこスライディングするな!他の団員に攻撃して何になる?邪魔してんじゃねぇよバカタレが」
「5秒遅れてる!やり直しできないのにそれで良いのか?」
第2陣言葉の演舞開催!と言わんばかりに4人の檄は鋭い棘を後輩にこれでもかと投げてるようにも見える。大山と三國は練習後女子の方が終わってないのを見て近くに来て見ていた。
「おいおい…今年の女子応援団怖いぞ(笑)さすがの俺もここまでは出来ないな。まさにスパルタ」
「そうですね…嘉藤…完全に練習しながら泣いちゃってる。帰る時に慰めてあげようかな」
女子の演舞練習終了後、山本の携帯に連絡が来ていた事に気づいた。茶化すかのように守山と高部、鶴海が弄りまくる。
「おやおや?もしかして、彼氏とか?」
「それともクッキー作った前宮から?」
「はたまた、前宮からの着信か?」
流石の弄りに山本は笑いながらそれは違うと言わんばかりに手を振る。
3人と別れた後、携帯の連絡を見た。そこには前宮からチャットが送信されていた。森田遼から連絡が来たということだ。
「森田先生から連絡が来たよ。やっぱり、反対している先生の中に脅されて渋々反対してた先生もいたらしい。下村充って人がどうやら関係があるみたいだから気をつけてね…僕はまた森田先生のところへ行って話をするからこの話は大山とか山本さんの友人に一応話しておくことを勧める。それじゃまた後で…」
山本は現実を受け止めきれなかった。
下村が黒幕だなんて…山本は家へ帰宅した後、自主練習を行い前宮に電話をかける。
「もしもし、今日送ってくれた森田先生からのやつは本当のことなの?というより、私たちの学校やばくない?」
「残念だけど本当らしい。自分の部下を犠牲にしてまで止めたがっているという話だ。今のところ、六田と三浦が追放されてるがその2人を操っていたのが下村ってことだ。すまない…心身共にキツくて…ちょっと抗精神安定剤を飲ませて」
前宮の症状が明らかにおかしいと見た山本は前宮の隠してることはないのかを確認するべく、問い詰める。
「ねぇ、私に話してないことあるでしょ?前宮君の症状が前より悪化してるし、自律神経失調症と診断される前か後のどっちかで何かしてたでしょ?話せれる範囲でいいから話して。真由、前宮君のこと心配だよ」
その一言に前宮は重い口を開ける。
「薬を1瓶飲んだり、自分の体に傷を付けたりした。毎日長袖の制服を着てたのはそういうこと。腕に傷があるわけさ…見せれば誰かにいじめられて晒される。そんな毎日を苦しみながら過ごしてたってことになるかな。球技大会開催決定の時喜ばなかった本当の理由は、夏の体操服を着て行う球技大会のクラスマッチにて自分でつけたその傷を見せたくなかった」
山本は本当にいつか前宮が死んでしまうのではないかと本気で心配になった。予定にはなるが応援団の演舞練習と並行して球技大会の練習をするという、体力的にも精神的にもやられるスケジュールへと化した。
球技大会開催決定の知らせを受けたテスト後は守山と同じ団員で最も見せ場となる技の最終確認を行った。その技は最初のところから手足共に動ける最大限の速さで合わせて集合しての繰り返しを行う、体力がいくらあっても足りないと言っても過言ではないものだ。檄を飛ばした後、守山に球技大会の事を歩きながら話す。
「あー私たちのクラスもそうだったよ!でもいきなりすぎて体力的に大丈夫かなと思う部分があるよ。どうすればいいものが…」
「なみ!それならさ、練習後にバレーボールの練習しようよ!ちょうど4人だから2人対2人で分けれるしさ。でも、ボールが無いな…」
肝心な事を忘れていた。山本は傷口に貼っている絆創膏を剥がして貼り直し着替えた後、持ち帰らなければならない教科書を教室に忘れたという事で山本は教室へ戻る。
棚を見ていると誰のか分からないバレーボールが置いてあった。それも、まだ新しいものだ。
「え、これ誰の?使っていいのなら使いたいな…この棚は誰が使ってる棚なのかな。えっ…前宮のボールなの?そういえば昼休みに男友達と遊んでたっけ…」
不幸中の幸いと言っていいものか分からないが、前宮が昼休みに遊んでいるバレーボールを見つけてすぐに守山へ伝える。
「なみー!私のクラスにバレーボール持ってる人いたよ!!前宮君のだけど許可もらったほうがいいかな…?」
「それは良いね!許可をもらった上で使うのが良いから前宮に言ってから使おう。それにしても、あいつこんな時に限って都合よく準備よすぎだろ(笑)」
守山節が炸裂する。でも、クッキーの件と言い前宮には大きな借りをしてしまった山本だったので少し申し訳ない部分があった。山本は帰宅後、すぐに前宮へ電話をした。
しかしいつもなら電話に出るはずなのに出なかった。
「お風呂か、ご飯か、勉強してるのかな…。と言ってもそもそも時間午後11時の時点で起きてる確率低いよね」
その2時間後、前宮から電話が来た。
すぐに山本はその電話をとって話をしようとしたが前宮の言動がおかしかった。
「山本さん…ごめん。また親と喧嘩しちゃった。考えを認めてくれなかった。それでね、また過剰に薬飲んで死のうとして吐いてた」
「なんで自殺する必要あるの?私には死ぬなって言って自分だけ死のうと抜け駆けするのは許さないし病気以外は絶対許さない」
山本は前宮の借りを返す意味で怒る。
こんなに良い人が死ぬなんて、絶対に嫌だという彼女の本心が声のみだけど垣間見えていた。
「少し吐血しちゃったけどとりあえず生きてるから大丈夫…僕に結構電話をしたようだけど何かあったの?着信履歴が山本さんのだけで満たされているよ」
「球技大会の練習で前宮君ってバレーボールを棚に入れてるよね?それ借りることって出来ないかなと思ってさ…」
山本は死ぬ寸前を歩いていた前宮にバレーボールのレンタルを求めた。ゲホゲホ言いながらも前宮は答える。
「問題ないよ!じゃんじゃん使って欲しい…ヤバい、血が出る血が出る…もう切ってもいいかい?流石に苦しい」
前宮の苦し紛れな声に山本は電話を切った。通話後青ざめてしまい、前宮のことが心配になった。あんなにゲホゲホと咳をしながら話している前宮は始めての事だからだ。
「前宮君…明日来た時はちょっとだけ寄り添ってみようかな。前の恩返しをしなきゃ」
山本は前宮のことを守ると覚悟を決めた。
その翌日、前宮は休んでいた。大山は遅刻しながらも教室へ滑り込み、いつもとは異様な教室の様子を目の当たりにする。
「あれ?前宮サボりか?ここ最近ってよりも結構休んでるよな…球技大会どうするんだろ。ゴールキーパーはあいつしかいないからな…」
大山が心配していると山本が全てを話した。
「夜中前宮君と電話してた。でも様子がおかしかった。親と喧嘩してその時に、薬を過剰摂取して吐血したらしい。声からして相当苦しそうだった。すごく心配…」
山本は前宮の心と体の回復を祈った。
そして放課後、いつものように演舞の練習が終わった後バレーボールの練習を守山、高部、鶴海と楽しくした。守山はボールの感触を確認しながらアグレッシブにスマッシュする。
「このボールめっちゃ良いやつじゃん!流石前宮だわ。これ普通に買ったら六千円はするはずだよ!前宮金持ちだね」
感謝しながらレシーブとスマッシュ、サーブをこなす。山本の瞳は涙が汗と共に溢れながらも、練習をした。異変に鶴海は気づき、介抱するようにして山本の背中をさすりながら事情を聞こうとする。
「まゆっち!練習の時から変だよ。なんで泣くのさ。ゆっくり話してごらん、私たちはその話は秘密にして誰にも話さないからさ」
「実はね前宮に借りる為に電話したんだけど、その時の前宮の声がすごくやばかった。本人の話では親と喧嘩して自殺しようと薬を過剰摂取したってこと。そのせいでゲホゲホと血を吐いて苦しんでたわけ。今日来るかなって早朝練習が終わって教室にてずっと待ってたけど前宮君は来なかった…。どうすれば良い?もしも本当に来なくなって死んじゃったらどうすれば良いの?」
山本は錯乱していた。
自分の演舞パートを覚えたり勉強についていく為に食らいついて、かつ球技大会のバレーボール練習という過酷な毎日の中、前宮の自殺未遂が起きたという事実に山本は精神的に追いつけなく、声を出して泣いている姿を見て守山たちも同様に涙を隠しきれなかった。