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13話:黒幕

 バスに乗り、3人は教育委員会が発足されている市役所へ向かう。前宮はなぜこんなに応援団が振り回されているのか大山と山本に事情を聞く。


 しかし、大山と山本は疑問が一つ浮上する。なぜ前宮がこの件に対して加わろうとしていたのか…。そう思いながらも2人は前宮にあったことを全て話した。


「なるほど…。生放送が原因で反対派の推進が加速したってことか…そして何よりその生放送の前からもあったということか。一つの問題に対してこんなにねちっこく問う職員もおかしいな。僕の知り合いの恩師が勤めてる教育委員会は人権問題も取り扱ってくれてるから話をするだけしてみろ!何か変わるかもしれない。定期的に会うことがあるから今日その日だから良いかなと思って連れてきたわけさ」


 大山は理解できたが、山本は理解できなかった。


 そもそも前宮に何が出来るのか不安でもあったからだ。


「前宮は一体何をしようとしてるの?真由心配だよ…?だって君の問題は1人で突っ走って無理ばっかりするから余計心配になるしさ…」


 山本の忠告はさておき、市役所へ到着した。


 バスの料金は、気前良く前宮が3人分支払う。中に入るとよくある市役所の風景で税金を支払う人や、住所変更手続きをする人、そして税金を管理する公務員の人らがカチャカチャとパソコンに仕事の明細を記入している姿を一同は見た。


「このエレベーターに乗って7階へ向かうよ!そこでいつも僕の精神的な所を定期的に見てもらうために来てるところだよ。小学生の頃の恩師だ。誰よりも生徒や子供の話を聞いてくれる先生だから心配しないで」


 山本は咄嗟に質問した。


「え?前宮って精神疾患持ちなの?いつもあんなに美味しいお菓子をみんなに振る舞ってしかも、元気な姿で学校行ってるのに…」


「ん?山本さんの言う通り僕は元気なように見えるだろうけど残念ながら僕は精神疾患の一つ、自律神経失調症を患っているのさ。トラウマのせいで人間関係うまくできなくて、1人でいることが多い。ここではその話をして心の回復に努めているってこと。あの時のことでついでに話せばよかったかな…話せず申し訳ない…」


 前宮は元々虐められていて、山本に相談することが多く何度か救われている男子だ。山本などの女子相手に敬語を使ったり男子に対しても同様だった。大山から応援団に誘われた過去があるが、精神疾患の話をした事で手を引く。


「お話聞くことができなくて本当にごめん…そこまで深刻だったなんて…。気づいてあげられなくて本当にごめん」


「なぜ山本さんが謝る必要があるのさ?僕は誰かに迷惑かけるわけにはいかないんだ。だから、自殺を何度も何度も繰り返したわけ。もう信頼できる人に足手まといになりたくないし、迷惑かけるわけにはいかないってね。てか、なぜ山本さん泣いてるの?君はあくまでも話を聞いてくれた傍聴側の人間なのに…でもいつかは話さなくちゃいけないよねって薄々思ってはいたからね」


 泣いている理由を大山が代弁してくれた。


「山本が泣いていたのは誰よりも前宮の事心配してたからだよ。お前が何度かやばいことになったという話は山本からよく聞いた。喧嘩した事とか、仲直りしたとかそんな些細なことも知ってるぜ?お前のこと守ってくれる人いるわけだから自殺したらダメだよ!山本のことちゃんと守ってやれよ。その分恩返ししてやるのが男ってもんだろ」


 漢気のある説明をした大山だが、その間エレベーターは目的の階へ到着する。ホテル並みに高く、幾つかのエレベーターに乗り換えなければならないほどの距離だったので流石に3人は疲れた。


 前宮はいつも通りのその恩師がいる部屋へ向かった。どんな人か楽しみにしていると、前宮は部屋へ入った。数十分経過した後、恩師と共に部屋に出てくる。


「君たちが前宮君の友人か?ここで話すのもあれだから僕の仕事している部屋に来なさい。お茶とかお菓子もあるからゆっくりしなさい」


 とても優しい人のようだ。その恩師の部屋に入ると教育委員会お墨付きの資格や教師免許などが飾られている。前宮の恩師はお茶を大山と山本に出して自己紹介した。


「自己紹介がまだだったね。僕の名前は森田遼と言います。小学校の先生をしていて、その時に前宮君と知り合った。話は前宮君から少しだけ聞いたからゆっくり話してごらん?解決までは時間かかるかもしれないけれども僕は教育委員会の幹部だから訴えれるところは訴えるよ」


 その言葉は今まで話を聞いてきた先生の中で最も安心できる、山本はそう確信した。そして今までの事を全て話した。途中、言葉に詰まりながらも自分の言葉で3人は出来る限りのことをした。


 森田は頷きながら聞く。


「なるほど…応援団の反対をしている人がいてしかも何がなんでも中止に持っていこうとしていたとな…。学校教育法に違反しているね。子供に対したいことを批判して今までしてきたことを反対するのは人格作成に違反するはずだ。そのテレビは僕も見てたけど前宮君のいる学校は頭だけでなく、こんなにも活発な男女がいるんだなと感心してたけれどもそれを反対する人がいるなんてな…明後日教育委員会の方で話し合いが市長と共にする予定だから話せることを話しておこう。今後も練習するだろうから僕の名前を出してほしい。そうすれば、僕の言うことくらいは流石に反対する先生も、僕の名前くらいなら聞いてくれるだろう」


 大山と山本に優しく話した森田は聞いた話をメモしてそれをファイルに閉じる。3人は市役所から出てそれぞれの帰路に着く。


 偶然なのか、山本と前宮の帰路が一緒だった。山本はこの状況に緊張して足元がおぼつかない状態だった。山本の手を前宮が差し伸べる。


「良ければ手を繋いで帰らないかい?もしかしたら緊張もほぐれるかもしれない」


「…うんっ」


 2人は仲良く手を繋いで駅まで歩くことにした。そして会話を始めると思いきや、山本は前宮に今日のお礼を言った。


「前宮君、今日は本当にありがとう。演舞の事を森田先生に話せて良かった。でも、自律神経失調症になったのって初めて今日知った…なんかごめんね、知って良いのかどうかずっと考えていたけど分からなくて…」


 前宮のことを心配していたからこそ出た言葉だったが、前宮は気にしていなかった。


「自分らしく頑張ってる姿見てりゃ応援したくなるのが周りの人間ってことだよ。それに…足怪我してるよ?ちょっと待ってて」


 前宮は自分の鞄から絆創膏を取り出し、山本のふくらはぎから出血していた箇所を丁寧に拭き取ってその絆創膏を貼った。山本は赤面する。こんな街のど真ん中でされたら、恥ずかしくて仕方がないからだ。


「前宮君!もう大丈夫だよ!まだまだ私は歩けるから…痛っ」


「だから、無理するな。そりゃ誰だって甘えたくない時だってあるが無理をするのなら話は違う。演舞も勉強も、悔いのないように頑張りたければ時に自分に甘える時間も必要になる。それは、山本自身もわかってるはずだ。よし、とりあえずこの絆創膏は消毒液が染み込んであるものだから治りも少し早くなるはず。歩きやすいだろうか?」


 山本は歩いたが、足の疲労が蓄積されていたのかフラフラとしている。前宮は許可を得る前に自身のリュックを前にして山本をおんぶした。


 ここで親が心配されて怒られるくらいなら、これくらいして怒られる方がマシだと。


「やめて前宮君!これ以上したら私、もう恥ずかしいよ…それにまだ前宮君、体調も完全じゃないでしょ?君こそ無理しないで」


「僕は男の子だ。君は女の子だから男はそれくらいしないとね…。じゃないと男が廃れる」


 前宮は泣きながらお礼を言う山本をおんぶしながら、彼女の乗る列車の停車駅までそのまま飛脚のように走る。

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