12話:刺客
山本のクラスメート、前宮が作ったクッキーが美味しいと評判になり守山や高部までが欲しがっていた。男子がお菓子を作るというギャップ萌えが理由に。
特に守山は、いつも男勝りなところがあるのに前宮の前では子熊のような可愛い女の子へと変わっていた。前宮は、高部と守山に心を込めた手作りクッキーを渡す。
「色々と問題が起きてるみたいだけどめげずに頑張ってな!でも、何でこんなに美味しいって広まったのだろう…」
前宮はそんな素朴な疑問に対して少し考える。しかしその場で開けて1枚食べていた高部は前宮に話した。
「そりゃ手作りは何にでも変え難いものだしさ、まゆっちの心を明るくしてくれたからかな。これ美味しい!ココアと抹茶の風味がすごくちょうど良くて最高だよ。まゆっちはこんな美味しいの食べてたなんて…前宮!まゆっちの心救ってくれてありがとう!」
高部と守山は丁寧にお礼を言ってそのまま立ち去った。前宮は良いことをした気分でそのまま授業に取り組む。
山本たちの学校は、夏に行われる体育祭に向けて保健体育の時間はほとんど競技の練習やマスゲームの練習が行われていた。大トリはなんと言っても職員と保護者が参加するリレー。
山本はマスゲーム、クラス対抗リレー、徒競走、部活対抗リレー、演舞と最高に忙しいものだった。
「演舞の練習よりマスゲームの練習難しすぎるよぉ…可愛い振り付けだけど覚えてないのにマスゲームリーダー進行早いよマジで…」
マスゲームリーダーは大山、山本と同じクラスの下森舞と栗原梨恵だ。
下森は山本とは仲良しでクラスでは最もスレンダーな女子だ。たまに取り仕切る事もあるが、前宮と何度か衝突している。そして栗原は同じく山本と仲良しでもあり下森とも仲が良い。彼女も元は演舞に参加していたが、僅か1年で辞めた。そんな2人は山本のことを応援しているが、山本のマスゲーム振り付けの覚えれ無さに頭を悩ませている。
「まゆっちも忙しいの分かるけど頑張ろうよ!じゃないと本当に私たちも私たちですごく恥ずかしいからさ!」
下森は励ましながら山本に話す。
このマスゲームは高部、守山、鶴海も参加していて3人は既に覚えていた。山本は珍しくマスゲームの動き確認をしていると横から大山が現れる。
「女子のマスゲーム可愛いんだよなぁ。俺も混ぜて〜!!」
「おー大山じゃーん!気になる女子いるから踊りたいんでしょ?本番目の前になるから大山もさ、踊りに踊り狂って楽しもうよ!」
大山と栗原は和みながら楽しむ。
男子応援団の団長は心広く、踊りもアイドルの振り付けを一目見ただけで覚えるというスキルを持っているので山本は尊敬している。しかし、とある2人組の先生が女子マスゲームの練習をしている途中で止めにきた。
「大山ここにいたか!あなたとその男子応援団でお話があってきました。職員室へ来てください。嫌とは言わせませんよ」
半ば強引に腕を引っ張られて大山は、2人の職員によって職員室へ連れて行かれた。大山は去る前に栗原へ約束する。
「ちゃんと振り付け覚えとくから目の前で踊るれるように練習しとくわ」
「流石団長!ちゃんとミスなく出来てるかやるからには折角だから、厳しく採点するからね」
山本と栗原と下森はマスゲームの続きをした。
大山は、見覚えのない先生2人を前に何かしたのだろうかと心当たりを探していた。しかし、何をしでかしたのか分からなかった為話を聞くだけ聞くことに。
「えっと…そろそろ練習しないといけないので行っても良いですか?」
「ダメです。あなたには確認しておきたいこととその事実について責任をとってもらいますから」
そう言って幾つかの写真と生放送の時の言葉、そして大会議室で殴り合いを起こした時の話を根掘り葉掘りと話すことになった。
「僕はただ女子の団長守山、山本、高部、鶴海たちの思い出を潰したくないから男子応援団全員でフォローしただけです。あとは何も知りません」
「では、なぜ守山と2人で話をする必要があったのですか?その後嘉藤と思われし人が泣いている写真まで出ていますがこれはあなた2人が責めていた、この人がミスしたからチャットを用いて怒っていたというようにしたんですよね?言い訳なんかは聞きませんよ。応援団の言い訳は意味も話す権利もありませんからね」
後に分かったのは、この2人は六田の手先で辞めたのにも関わらず捜査していた。2人の名は三武慎二と一嶋徹でどちらも数学の先生でもあり、三武は生徒指導部長という相手が悪すぎる人だ。
話を終えた大山は青ざめていた。その見た目は、幽霊のように魂のみ抜かれた状態だ。
「今度はこいつらが中止にしようとボイコットしてんのかよ…しかもよりによって生徒指導部長とか運が悪すぎる。どうしたらいいものか…」
大山は悩む。
運の悪いことに山本と栗原に出くわした。2人の前では明るい顔になろうと必死に頑張った。
「お!大山じゃん!話はなんだったの?」
「ん?ああ、練習場の時間で色々聞かれただけだから問題ない。ていうか、噂聞いたけど前宮のクッキー美味しかったんだって?もっと早く聞けばよかった!作り方教わって俺の好きな人にあげたいしさ」
大山は、前宮の話を取り上げて難を逃れる。山本は前宮のクッキーの味を思い出したのか顔が赤くなっていた。
「まゆっち、前宮のクッキー相当美味しかったんだね。感情が顔に出てるよ。それに赤いよ!まゆっち前宮のこと好きなんでしょ?」
「そ、そんな大袈裟な…確かに前宮君のクッキー美味しかったし元気出たけれどもクッキーだけで惚れるなんてそんな…」
栗原の熱烈な質問に山本はデレデレだった。自分が病んでいたことを話せば友人である栗原に聞けばよかったのにと喧嘩になる事が嫌だったから山本は、栗原の前では話さなかった。
栗原と別れると山本は1人甘酸っぱい恋を心から感じている。
「私のコンプレックスと言い、私のために作ってくれたクッキーと言い、前宮君…私のこと好きって言ってたけど、私も前宮のこと少し異性として気になってきたかな」
山本は青春の清々しい気持ちと共に前宮に対しての心が花開こうとしていた。
そんな前宮は大山と真剣な話をしている様子で偶然山本は通りかかっていたものも、話を盗み聞きした。
「大山から相談なんて珍しいな。まぁ、ジュース買ってきたことだし飲みながら話そうか」
「今日、山本と栗原と下森と女子マスゲームの話をしていた時に職員2人に呼び出されて男子応援団について色々言及されたんよ。その時に女子応援団に所属している人らが起こした問題を男子が帳消しにして、僕たち男子応援団が操作してるんじゃないかって疑われたのさ」
山本は絶句した。あの問題は、女子のせいなのに今度は男子のせいにして演舞の中止を求めようとしてきた。山本は、すぐに教室へ飛び行って話したかったが我慢する。
「なるほど…完全な名誉毀損ってとこかな。応援団も何度か問題起こしてた話は世話になった人たちからよく聞いてたけど、ここまで来るとはね…」
「いや、違う違う。今回のは全く違う。俺たちは何もしてないのよ。それなのに決めつけられてすぐに解散するように求められて、しかもプログラム見せてもらったけど演舞披露の記載がなくなってたんだよ」
山本は呆然と立っていた。あの話は嘘だったのだと…。校長は一体何を考えているのか、誰を信用すれば良いのか分からなくなっていた。
「それ、証言が取れてるなら今から一緒に行こうか。教育委員会に!」
「なぜに?」
前宮の考えに納得できなかった。
山本も大山と同じ考えでなぜわざわざ教育委員会へ言う理由が無いじゃないかと思われた。
「職員の必要なことって僕ら生徒を育てて、社会に出ても恥ずかしくないようにするのが義務のはず。青春は、そんな社会でも頑張れるように今しかできないことをして大人の階段を登るわけだ。踏み躙られるのは嫌だろ?だったら行くぞ!そして、廊下にいるのは誰だ?出て来い!盗み聞きされるのは嫌いなんだよ」
前宮が怒るとそこに山本が恐る恐ると出てきて泣きべそかいていた。流石に怒り口調が過ぎたのか、山本に向かって謝る。こうして、大山と前宮そして山本がついに教育委員会へ乗り出すという展開になった。
2人それぞれの練習が終わった後、前宮が指示したところに集合して向かう。前宮、山本、大山による最高の口論演舞が教育委員会にて始まりの火蓋が切って落とされることになった。