10話:禁じ手
休校となった学校で山本は違和感を覚えた。そして、その違和感を守山たちに話すが…
山本たちの傷も少しずつ癒えてきたが、心は深い傷によってズタズタになっていた。
反対派の職員相手に大山、高部、守山、鶴海と大喧嘩をしたからだ。
「はぁ…なんでこんなことになったんだろ。足もそうたけど色んなところ触られたり殴られたりと大変だったからな…。休校となってる期間はみんなどうしてるかな」
山本の心配は演舞が本当に開催されるのかという事と自分達の反乱で退学処分されるのではないか?というものだ。
しかし、その心配よりも大きな問題は山本のようにあの時の喧嘩で女子として触られたくないところを触られたトラウマは高部、鶴海、守山も記憶に植え付けられたようだった。山本はコンプレックスを抱えていてそれを職員の手によって自尊心も傷つけられた。
守山が私たちに何かあったら話してくれ、と生放送終了後に言われていたことを思い出し、山本は4人だけのグループ通話を行う。
「みんな元気?山本です。少し相談があってグループ通話を開始したよ。ごめんね…」
山本が冒頭に一言謝る。しかし守山、高部、鶴海は嬉しそうだった。
「ふふっ…まゆっちが私たちのグループチャットで通話するなんて珍しい!でもあの時のこと覚えてくれてただけ嬉しいよ」
守山は明るい声で話した。山本は相談の内容を話し始めた。
「3人はあの時、職員相手に喧嘩したけど女の子として触られたくないところ触られたりした?私、コンプレックスなところ触られてとてもそれがトラウマで…」
山本は涙ながらに話す。守山はこう話した。
「なるほど…あの時の喧嘩はそもそも大山がしたことだから責めるなら大山に責めよう(笑)でも、あいつがしてくれたからなんかスッとした気分かな。でも、私たちもコンプレックスなところ触れられたけどその時はもう自分だけでなく後輩たちのためにっていう思いがあったから気にせず職員殴ってたかな…」
守山は、相変わらず血の気があって山本はむしろ安心していた。
このような人と親友になれたことに感謝していた。
「私もまゆっちと一緒に大山の上に乗り掛かってきた職員蹴りに蹴ったよね…でもあの時、鷲掴みされて声が出そうになったけど我慢したかな…。三浦の前で恥ずかしい声出したくないし、自分たちの女子応援団男子応援団のためにという思いが強くて守りたいからこそ、あの行動が出来たし我慢できたかな…」
鶴海はクラスのマドンナでもあった為、意中の人だと言う男子もいた。
そして我慢をして自分の恥ずかしい姿を見せないために戦っていたという事実に山本は尊敬していた。
「私は何も出来ずでそもそも喧嘩嫌いだから離れてたかな…。でも、どうしたらいいのか分からなかったしまゆっちと鶴海は確かに高年の男性職員に触られたくないところ触られてたからそれを見て怖かった記憶はあるよ。反対派の職員ってそこまでして諦めさせようとしてたんだなって思うと気持ち悪い」
高部はあの一件で職員に対する考えが変わり、休校期間はその記憶でやられていた。
山本自身のコンプレックスは鶴海と同じだが、反対なものでもあった。それは自分の体に対するコンプレックスだ。
「もう男の人って本当に嫌い!体目的っていう人が多いから無理だもん」
山本の本音に守山は慰める。
「確かにそれは分かるよ。まゆっちのこと好きだって人もいるんだろ?でもその人体目的かもしれないし分からない恐怖があるから嫌なのは私たち3人もとても分かるよ。誰だって痴漢や触られたくないところ触られるのは苦手だよ。嫌な事に対して克服しろって言われたら無理だからね。教育委員会に話をしてわいせつ行為だと主張しよう!私たちがいるから大丈夫!」
山本は守山からの慰めに少しだけ元気が出た。通話終了後、山本は自分のコンプレックスを見つめる。
あの時のトラウマが蘇って全身に電撃が走り、倒れた。部屋着に着替えた後、大山誠也の容態を気にしていた。
「大山君大丈夫かな…?大分殴られたり蹴られたりとダメージ受けてるから私たちよりも辛いだろうし…。でも、私のこと好きだって人がもし体目的だったらどうしよう。連絡とってみようかな」
山本は自身のことが好きだという人に連絡した。その人は大山と山本と同じクラスで心優しい青年だ。
「前宮君起きてるかな…連絡取れますように」
山本のことを好きだという人の名前は前宮涼太。テストの時は朝早くから居て、テストの情報や授業内容をよく聞いている少年だ。色んな女子に対して優しく、バレンタインのお返しは喜ばれるものを渡すことで有名らしい。
「ん…?山本さんこの時間帯に何か用だろうか?珍しいな…」
チャットで前宮から返信が来た。山本はつかさず自分のコンプレックスを含めて話を進める。
「実はね休校になってる原因が応援団の解散要求をされて大山が職員と喧嘩しちゃったの。私たちも応戦した時、女の子として触られたくないところ触られちゃったんだ…。それでね、私のコンプレックスのことで聞きたいけど私のこと好きなのって体目的なの?」
ストレートに包み隠さず聞いたが、前宮からは意外な返答が来た。
「大山のやつ流石だな…同じ塾だけど男気溢れてるって有名だよ。山本さんそんなことがあったわけか、そりゃつらいな…。山本さんが好きな理由は体目的ではないよ。笑顔可愛いし、一緒にいると明るくなれるからさ」
「そうなんだね。大山君すごいや…。じゃあさ、男女で体力テストしたの覚えてる?胸の大きさとかすごく見られたけど私のって正直どれくらいあると思う?」
もはやピー音流したくなる内容だった。山本はドキドキしながら返信を待つ。
「体力テスト…あー…普通に大きいと思ったよ。どれくらいあるのかって言われると流石に僕は男の子だから答えにくいかな。でもそんなの僕は関係ないよ。好きな人にそんなの要求しているやつ、流石に頭イカれてるぜ?だってそいつらこそ変態だからさ」
前宮の正論に理解した。
「確かにそうだよね。でも実際はそんなに大きくないけどそう言ってくれるの前宮君だけだよ。ありがとう」
「それに、山本さんは今はどうなるか分からないけど演舞があるだろ?集中して頑張れ!最後なんだからさ…。僕は応援してるよ。コンプレックスなんか僕は関係ない!本当に好きなのならその人のために守りたいし、僕は山本さんの事本気で守りたいもの」
前宮の心強い言葉に山本は泣く。自分のことをここまで守ってくれる人は今までいなく、自分一人で抱え込んでツラくて泣いていたからだ。山本はお礼を言ってゆっくり寝た。
休校期間である1週間が終わりを告げて男女の応援団はともに、演舞の練習を開始する。
「前宮君の一言、本当にありがたかった。その言葉信じて最後まで悔いのないように頑張ろうかな!」
山本は前宮のおかげで元気だった。そして、休校期間明け初の練習場に向かって全体練習をした。守山より声が出ていて、なぜか高部たちは嬉しそうだった。
練習後教室に向かって座ると担任が入る。体育祭の事について説明が始まり例年通り演舞が入っていた。山本は嬉しそうだ。
「今回反対をした僕含め13人だけども今日で担任を解任することになりました。理由は演舞に対して反対したというのもあり、生徒の自由を奪った責任を取る為です。申し訳ない」
妥当な罰に山本は思わず前宮の顔を見てニコッと笑う。前宮もその笑顔に頷き応える。
担任の後任は、校長の下村充が校長の仕事をしながら緊急で取る事になった。