【書籍発売★感謝SS】女神のお泊り会
「領地を立て直したい嫌われ者のお色気令嬢は成り上がり貴族に溺愛される」いよいよ3月3日発売です❗️
応援してくださった読者の皆さまのお陰で、無事に2冊目を書籍化することが出来ました。
本当にありがとうございます。
「お義父さま、お義母さま、ご無沙汰しております」
結婚して半年ほど経ったある日。
僕とディアンドラは王都のカルマン邸を訪れた。
両親がどうしてもディアンドラに会いたいと言うのである。
「堅苦しい挨拶なんていいんだよ、ディアンドラ。僕の女神」
僕はディアンドラをソファに座らせ、自分もピッタリくっつくように腰かけた。
「ディアンドラ義姉さま! 相変わらず女神のように綺麗ね」
キャロラインもはしゃいでディアンドラに抱きつく。
そして親父とお袋は――ディアンドラの顔を見つめ、胸の前で手を合わせ感極まったようにこう呟いた。
「女神さま!」
はい、クイズです。この中で「女神」を違う意味で使っている人は誰でしょう?
コテコテの商人である両親(親父は生まれは貴族なんだけど)にとって、神とはズバリ『財神』だ。
商売繁盛を司る神様ね。
そして最近、両親はディアンドラを財神だと崇め奉っているのだ。
彼らにとって女神というのは美の化身ではなくて「財神様」ってこと。
なぜかと言うと、ディアンドラのお陰で、カルマン商会は莫大な利益を得たからなんだ。
あれはまだ僕たちが結婚する前のこと。
ネバンドリアから来た女性客と消費税のことで揉めたことがあった。
ディアンドラが機転をきかせ、その場を丸く収めたあのでき事だ。
あの客は大層ディアンドラがお気に召したらしく、以後度々やって来るようになった。
そしてディアンドラのアドバイスに従っていつも大量に購入していく。
それはもうびっくりするくらいに。
「せっかくだから、もっと高い商品勧めてみてよ、ダイヤとか」
思わず口をついて出たその言葉にディアンドラは眉をひそめる。
「嫌よ。私はお友達としてお買い物の相談に乗っているだけなんだから」
そういうところが気に入られたんだろうな。
分かるよ。僕も君のそういうところが好きだから。
ディアンドラによると、あの女性客はユラリアという名だそう。
そして、僕達が思っていたよりもカロニア語に堪能だったことが判明する。
ただ……壊滅的に発音がひどいのだ。
あまりに発音がひどいため、ずっとネバンドリア語で話していると思っていたら、ある時カロニア語だったことが分かり、ディアンドラは通訳を介さず直接彼女とおしゃべりを楽しむことができるようになったわけ。
僕はこのユラリアがちょっぴり苦手だ。
なんと言うか……偉そうなのである。
ユラリアはショッピングの際には必ずディアンドラを指名する。
百貨店の店員じゃないと説明しても聞かない。
ディアンドラは優しいので「お友達としてなら」と言って毎回付き合ってあげるんだ。
ユラリアの買い物のために毎月ヴェリーニから王都に出向くなんて、なんてお人好しなんだディアンドラ。
そして先月。
ディアンドラが財神と呼ばれるきっかけとなった、ある出来事が起こったーー。
「ロバート聞いて! お泊まり会に呼ばれたの!」
ディアンドラが嬉しさを隠しきれない様子で僕に飛びついてきた。
「ネバンドリアで戴冠式のお祭りがあるの。ユラリアのお家に泊まって一緒に見ましょうって!」
ネバンドリアに遊びに来ないか誘われたようである。
めちゃくちゃ嬉しそうだな、ディアンドラ。
「女の子のお泊まり会ってね、夜通しお菓子を食べながら、恋バナをするってキャロラインが言ってたわ。心配しないでね、私あなたのことを話……キャッ何をするの」
「可愛いなと思って」
ディアンドラの話を遮って唇を唇で塞ぐ。
「んんっ! もう! 聞いたわよ、あなた『エロバート』なんて言うあだ名を付けられているんですって?」
「…………」
店の女性客に付けられた、不名誉なあだ名だ。酷いよね。どうせならもっとカッコいいあだなにしてくれればいいのに。『愛の魔術師』とかさ。
「……コホン。ユラリアの家の場所は分かるのかい?」
「地図を手描きで書いてくれたわ。これを見せれば絶対分かるって」
チラッと見たそれはものすごくざっくりした地図だった。本当にこんなので分かるのか?
ディアンドラはネバンドリア語も話せないし、心配だ。
新しい国王の戴冠式。お祝いムードに湧く国民。
ここは一つ、城下で菓子でも配ってカルマン百貨店の宣伝をしてこようか。
うんそれがいい。綺麗な色のドラジェ数粒にカルマン百貨店のカードをつけて配ろう。
「僕も同行するよ」
「えー」
「何? 不満そうだね」
「そうじゃないけど……」
僕は笑いたいのを堪えた。
分かってるよ、女の子同士のお泊まり会に僕は邪魔者だからね。
「僕は城下の宿に泊まるよ。お泊まり会、楽しんでおいで」
「いいのっ?」
もう……可愛いすぎるだろ! あまりに可愛いのでその後キス責めにする。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
こうして僕らは戴冠式の前日にネバンドリア入りした。
長い海岸線が続く、明るく開放的なネバンドリアの王都。
街のほぼどこからでも紺碧の海が見える。
活気あふれる坂道の多い街。気さくで陽気な人々。
お祭りの前日なので、あちこちに花や旗が飾られていて華やかだ。
宿にチェックインするついでに、ユラリアの家の場所を確認することにする。
例の地図を取り出すと、フロントの従業員が固まった。
僕が受け取るはずのルームキーを棚に戻す。
そして僕とディアンドラを素早く現地の馬車に押し込めたのだ。あれ?
フロントの男は御者に何かを指示し、にっこり手を振って僕らを見送る。
ユラリアの家までこれで行けってことかな。
泊まるのはディアンドラだけなんだけど……ま、いっか。
宿には僕だけ戻ってくればいい。
「ユラリアの家の爵位って何かな? 苗字はなんていうんだ?」
「分からないわ……苗字はないって言ってたような」
「そんなはずはないだろう」
「そうよね……私の聞き間違いね、きっと」
馬車に揺られること数十分。
平らな地形のカロニアと違い、ずっと坂道を登る。
ユラリアの家は高台にあるらしい。馬も大変だ。
御者が窓をコツコツ叩いて到着を知らせてくれる。
馬車から降りると、そこは――どう見てもユラリアの家ではなかった。
青い海と城下町を一望できる、この街の一番高い場所――。
「ここ……王宮じゃないか」
「まあ! 観光しにきたと思われたのね」
ディアンドラは動じることもなく、物珍しげに王宮を眺めている。
「いいじゃない。ついでだから王宮を見学してから宿に戻りましょうよ」
「でもユラリアの家に行くのが遅くなってしまうよ」
僕達の姿を見て衛兵がぞろぞろやってくる。
この国の王宮は衛兵の数が多いんだな。
ええと、ネバンドリア語で王宮見学ってなんて言うんだったかな。
御者がネバンドリア語で衛兵に何かを伝えた。衛兵は僕らにビシッと敬礼する。
きちんと訓練されたいい衛兵だ。ディアンドラの胸をチラリとも見なかった。
街でナンパばかりしているカロニアの近衛兵とはえらい違いだ。
衛兵は無言で僕らの旅行鞄を持つ。
「あ、荷物は馬車に置いておいてくれ。すぐ城下に戻るから」
しかし衛兵はさっさと先に歩き出す。
僕のネバンドリア語が通じなかったらしい。
前後を衛兵に挟まれる形で王宮の廊下を進む。
ガイドをしてくれるのかと期待していたのに、いつまで立っても説明が始まらない。
「あの~」
こちらから質問してみようと考えた僕は、振り向いた衛兵の帽子についている飾りを見てあることに気づく。
…………ユラリア手書きの地図が書いてある便箋のマークと同じだ。
(こ、国章じゃないか!!)
待てよ。いや、まさか。そんな……。
「ディアンドラ!」
聞き覚えのある凜とした女性の声が廊下に響く。
途端に衛兵がビシッと廊下の両側に分かれ敬礼した。
「ユラリア!?」
「ヨク来てくれた。嬉シイ」
「え? ここは王宮よね? なぜあなたがここに?」
「ココ私の家」
(やっぱり……王女だったのか!!)
冷や汗が止まらない。
「えーと、一緒にお祭りに行くのよね?」
「タイカンシキにデル」
「戴冠式?」
「そう。ワタシの」
今なんて言った? ワタシノタイカンシキ?
……って『私の戴冠式』?
え……えええええっ!
ユラリアはネバンドリアの王女だった。
そして明日からは女王になる。この国初の女王だ。
彼女には弟がいる。もともとはこの弟が王になるはずだった。
ところが弟は王位を放棄する。
女性に王位を継がせたくない古い考えの父王と、進歩的な考えの姉弟との間でちょっとした諍いがあったのだが、ユラリア派が勝利し、即位することとなったのだそうだ。
あまりの展開に、僕は卒倒しそうだった。
翌日。厳かな空気の中、戴冠式が執り行われた。
来賓は各国の王族などの偉い人ばかり。
式典の後はパーティーだ。
僕とディアンドラは明らかに場違いで、なるべく目立たないよう隅っこにいた。
「ロバート・カルマン、なぜお前がここにいる」
不意に誰かに声をかけられる。
振り向くとアドニス・バーンホフが立っていた。
「バ、バーンホフ~!」
この時ほど、見知った顔に会ってホッとしたことはない。
バーンホフは国王陛下に随行してやってきたそうだ。
「すぐに調印したほうがいい協定なんかもあるしね。新女王との面談の議事録も取らなきゃだし」
すごい……慣れてるんだな、こういう場所に。
そんなバーンホフも、新女王陛下とディアンドラの仲を聞いて絶句していた。
「カルマン百貨店もネバンドリアに出店するんだろう?」
「は?」
「そうだ、ちょうどいい。ネバンドリアの建設省と商務省の大臣に顔をつないでやるよ」
そういうと、バーンホフは横にいたネバンドリアの大臣をつかまえ、流暢なネバンドリア語で何かを話し始める。
「今度使節団を送り、カルマン百貨店を見学したいそうだ」
「は……、え」
「会頭にネバンドリアの商業組合と会って欲しいそうだ。調印の時期についてはーー」
「あ……ああ」
展開が早すぎてついて行けない。
あれよあれよという間に、ネバンドリアのカルマン百貨店進出の計画が具体的に動き出してしまったのだった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
数日間ネバンドリアで過ごした後カロニアに戻った。
そして、一連のでき事を聞いた親父は泡を吹いて倒れた。
カルマン商会は上を下への大騒ぎとなる。
ずっと南へ販路を広げたいと思っていたのだ。
何の足かがりもないところから始めるはずだったネバンドリア進出。
それがいきなり女王陛下の親友ポジションからのスタートとなるとは。
そもそもの発端はあの日、見知らぬ外国の女性客だったユラリアと消費税で揉めたこと。
もしディアンドラがあの場にいなかったら。
想像しただけでゾッとする。
ユラリアは気分を害したまま店を後にし、二度と訪れなかったに違いない。
そう。ヴェリーニ領の港湾計画も王都との鉄道建設も、元を辿れば全部ディアンドラがきっかけなのだ。
「ざ、財神だ。彼女はうちの財神だ!」
興奮した親父がわめく。
「ロバート、お前の唯一の功績は彼女と身内になったことだな。ありがたや」
うちの財神て。ふざけんなよ親父。
ディアンドラは僕の女神なんだから。
「――それでね。ユラリアの部屋で珍しいフルーツを食べながら恋バナをしたの」
ディアンドラは念願のお泊まり会を実現してご機嫌だ。
「王配を探さなきゃいけないから大変なんですって」
すごいスケールの恋バナだな。
ディアンドラ本人はいつも通りのんびりしている。
「君はすごいな。僕もう情けなくて人間やめたくなってきたよ」
「うふふ。何もそんな」
ディアンドラが可愛く笑い、上目遣いで僕を見上げる。
「とりあえず今日のところは人間をやめるよりも、ロバートをやめてエロバートになってみるのはどう?」
「…………!」
女神だ。
まったくもって最高の案である。
また惚れ直してしまうではないか。
「君って人は……一体どこまで僕を惚れさせれば気が済むの?」
瞬時に機嫌を直した『エロバート』は甘く微笑むと、後ろ手で寝室の鍵を閉めたーーーー。
【 完 】
もう、投稿してから随分経ってしまっているので、ストーリーを覚えていらっしゃらないとは思いますが……(^^;;
「殿下が一目惚れした令嬢の正体はあなたの護衛騎士です!」に出てくる隣国の王太子の姉がこのユラリアです。
王太子が王位継承権を捨てて平民の女の子と駆け落ちしたので、姉が女王として即位した…と言う設定です。




