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1. 毒婦と呼ばれた令嬢

「婚約破棄23回の冷血貴公子は田舎のポンコツ令嬢にふりまわされる」の11話あたりから並行して進むお話です。そちらと合わせてお読みいただくと、別視視点で楽しめる様になっています。


「あなたとの婚約を破棄させてください」


月が綺麗な夜だった。

招待されてやってきた伯爵家の舞踏会。

私は賑やかな大広間を抜け出し、婚約者と二人で庭に出た。

そして噴水の前に差し掛かった時、上記のセリフを婚約者に告げたのだった。


「なっ!?」婚約者は寝耳に水といった感じで衝撃を隠しきれない。

「なぜだディアンドラ!?」


ーーごめんなさい。


「ひどいじゃないか! 僕は君を愛しているし、優しく接してきたつもりだ!」


ーーそう。13人目の婚約者である彼は決して悪い人ではなかった。


「プレゼントもまめに贈ったし、恋人として愛情表現だってちゃんと……」


ーーごめんなさい。ごめんなさい


「お、男か!? 男がいるんだな? まさかそいつとも寝たのか!?」

逆上した元婚約者はこれまでの紳士の仮面をかなぐり捨て抱きついてきた。

(「も」って何よ、「も」って!!)


「ちょっと! 離して! 嫌っ……」

抵抗したら、乱暴に髪の毛を掴まれた。

強引に唇を押し付けてくる。気持ち悪い。


「いっ……………………!」


私に噛みつかれた痛みで、元婚約者ははじかれたように体を離した。

そしてものすごい顔で私を睨み捨て台詞を吐きながら去って行った。





やれやれ。私は手の甲で唇を拭った。

元婚約者に恥をかかせないよう人気のない所を選んだのが裏目に出た。

でもキスだけで済んだのでまあよしとしよう。

13回も繰り返された婚約破棄の中ではもっと酷い暴力を振るわれたこともあったから。


悪い人ではなかったけど仕方がない。

だって私が求めているのは恋人ではないのだから。

私が求めているのは『領主』になれる人材なのだ。



ディアンドラ・ヴェリーニ、それが私の名前だ。

実家は王都から馬車で一日半のところにある海の近くの領地。

現在、婚活のため私一人領地を離れ、王都のタウンハウスに住んでいる。


私は一人っ子だ。

父は子爵だが、この国では女性は爵位を継げない。

どこかの貴族の次男か三男あたりを婿養子に迎えなければならないのだ。


実家は昔は裕福とまでは行かなくても、貧しくもなかった。

ところが、ある時から領地の農作物の収穫量がガクンと落ちた。

植える作物の組み合わせや順番を変えてみたり、肥料を投入してみたりあれこれ試したが一向に改善せず、むしろ悪化し続けている。

肥料の費用がかさんで、領民の生活が立ち行かなくなりつつあるのが現状だ。


父は私が資産家の令息と婚姻を結ぶことに全ての望みを託している。


でも私の考えは父とは少し違う。

私はお金よりも能力重視だ。

農作物の収穫量を増やせなければ、根本的な問題は解決しない。


領地運営ができて、赤字続きの私の実家の領地を立て直すことが出来る人ーー

私が婚約者に望む唯一の条件だ。

この一点さえクリアしていれば醜男だろうと年寄りだろうと構わないのに。


なのにどうしてこんなにも見つからないんだろう。


多分それは私が『下品で、エロくて、ふしだらな女』だからなのだろう。

勤勉で誠実で頼り甲斐のある男性はみんな清楚でか弱い女性を選ぶ。

私のところへは寄ってこない。


「私なにもしてないのにな……」ため息をつく。


世の中には能力がなくても「なんか憎めない」人というのがいる。

そして逆もまた然り。

私は何もしなくても憎まれる人らしい。


私は胸もお尻も大きい。

好きでこうなったわけじゃないのに。


挨拶をしただけで「誘っている」と言われ

転んだ老人を助けただけで「色仕掛けで誘惑した」と言われる。






本当に男ってロクでもない生き物だ。

この世に男がいなければどれだけ平和な日々が送れたことだろう。

そんなことを考えながら庭園を歩いているとーー



「奥様、それでパーティーの出席者は……なっ何をするんです!」

「大丈夫よ、主人にはバレないわ」

「い、いやそれは流石にマ…うぐっ!」

「んんんっ」


うっわ。最低。

不倫現場に出くわしてしまった。

キスしてる。


さっきの元婚約者の気持ち悪いキスを思い出して怒りが湧いてきた。

わざと足音を立てて通り過ぎる。

「キャッ!」気づいた人妻が顔を隠すようにして逃げて行った。

そりゃ目撃されたら困るものね。



残された男性のほうは驚いたように私を見て


見て…………


見て…………


……ってコイツいつまで見てるのよ!


「ディアンドラ・ヴェリーニ……」


背が高く肩幅の広い青年だった。

明るい褐色の髪と優しげな黄金の瞳をしていた。

あんな濡れ場を見ていなかったら好青年だと思っただろう。


「実物を間近で見たのは初めてだけど、へぇ〜……」

「は?」

「噂には色々聞いてたけど…へぇ〜」


どんな噂を聞いていたかは大体想像つくけど、それ全部デマよ。


青年はつかつかと大股でこちらにやってきた。

そして体がくっつきそうなくらい近くに立つと私の耳元に顔を近づけて


「今見たこと内緒にしてくれると助かるな。噂が広まると色々と面倒だから……ほら分かるだろう?」

妙に甘ったるい声でそう言った。


話をするのにこの距離感覚おかしくない? 近すぎでしょ。

それに何が「ほらわかるだろう」よ!

これって絶対私もそういうことしている前提になってるわよね?

風評被害も甚だしい。


「内緒にするも何も、あなたがどこの誰かも知らないから言いふらしようがないわ」

「そうか」青年はしばらく考えてから

「では改めて。ロバート・カルマンだ。よろしく」


そう言うと、無駄に艶っぽい表情でにっこり笑って自己紹介をした。





ロバートはキャロラインのお兄さんのあのロバートです。

(婚約破棄23回目の冷血貴公子………11話 嫉妬と失火 参照)

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― 新着の感想 ―
[一言] おー。ディアンドラの話ですねー。 これも面白そうだー! ロバート兄様…こんな感じなんすね(笑)
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