私は死亡フラグからも溺愛フラグからも逃げたいのです!
「迷子の迷子のエリちゃんです♪」
路地裏で前世の子供の頃よく耳にした童謡をちょこっと替え歌したものを口ずさむ幼女が1人。
それが私ことエリザベス・シェフィールド、5歳である。
ふわふわとした薄い金の髪に海のような深い青の瞳、自分という贔屓目抜きで見ても人形のように可愛らしい顔立ち。どこからどう見ても美少女です。
しかも侯爵家の長女でしてよ。すごいでしょう。
これはリア充人生まっしぐらだろう。と予想されるが、そうは問屋が卸さない。
現在進行形で迷子というのもあるが、若干5歳にして人生の迷子なのだ。
前世のロクでもない男ばかり引き当てる私は人生に疲れてたのもあり二次元に逃避した。
初めは書籍を読み漁ったが、社会人になって数年の私では買える量にも限度がある。
そこで辿り着いたのがweb小説。
リアルの男はクソ、とばかりに転生系小説にハマり、悪役令嬢モノもたくさん読んだ。
その後実際の乙女ゲームを体験したくて乙女ゲームもやってみた。
あれね。悪役令嬢転生小説がたくさんあったけど実際に悪役令嬢がいる乙女ゲームって多くないのね。
そりゃそうよね。主人公は私たちのアバターなんだから二次元でまで虐められたくないもの。
でも、これだけ悪役令嬢転生モノが溢れてるんだから一度くらいやってみたいじゃない?
それで手を出したのが妹オススメの『光と闇のシンフォニー』というタイトルのゲーム。
ある日を境にして極端に昼間の長い国と極端に夜の長い国の二つに分かたれてしまった世界で暮らす人々の葛藤を描き、神に巫女として選ばれ呼ばれた少女とその仲間が世界を直す、という内容。
私は昼の国、エレンティアにある5大侯爵家シェフィールドに産まれた少女、という立ち位置。
一見するとすごく勝ち組である…が。
第三王子の婚約者まで上り詰めたが、最終的に巫女に危害を加えようとしたことで破棄され闇落ちした上で夜の国、ナイルデンを長い間蔑みまくっていたことによりその性格の悪さと潜在能力の高さを見込まれ世界の異変の元凶…邪神に巫女として操られる立ち位置にいる。つまり成敗される側である。
基本的に末路は封印か殺されるか、という感じ。
無関係な攻略対象のルートでも勝手に巫女に嫉妬して闇落ち邪神の巫女コースなので慈悲はない。
嫉妬して闇落ちコース行かなきゃいいとお思いでしょう?
ところがどっこい。というやつがある。
ぶっちゃけ私の性格が慈悲深く素直なら主人公である巫女召喚いらなかったんじゃ?ってレベルで潜在能力だけはクソ高い…らしい。
だからこそ巫女の対抗馬として邪神に目をつけられるのである。
それだけでも厄介なのに、攻略対象の半分から嫌われに嫌われまくっている。
亡き叔父の息子であり、ナイルデン出身の義弟をこれでもかと罵り虐め倒し亡き叔父、義母になった叔母を非難し続けた。叔母に至っては亡きものにしてるし普通に恨まれる。
幼馴染で義弟の従者は、元々私が拾った孤児で私の従者だった。
孤児であることを理由に尊厳を踏みにじるのは当たり前、当たり散らすのも当たり前、捨てられる際に持たされていたらしく隠し持ってた懐中時計も壊した。なお、これ壊したのも破棄の原因にあたる。
なぜなら幼い頃誘拐され乳母と共に殺されたと思われていた王弟だったと発覚するからだ。懐中時計の紋章で気付けポンコツめ!
そんな性格が悪い女が婚約者なのだ、当然第三王子にも嫌われる。
そんなゲームのエリザベスにも情状酌量の余地がなかったわけではない。
ナイルデンを蔑むように仕向け、叔父と母を殺し侯爵家を乗っ取りに来たと唆したババ…侍女長がいた。
ちなみによくある話だが母亡き後に本当に乗っ取りを画策してたのは侍女長である。
母の死が認められず、その上乗っ取りされかけてると信じ込みずっと荒れ狂ってたエリザベスは感情のコントロールが出来なかった。その為、義弟も義母も憎くて罵った。それでも抑えきれない感情を従者にぶつけた。
母親から待たされたのだろうと察しのつく程度には頭が良かったエリザベスは羨ましさも相まって懐中時計も壊した。
それでも、改心しかけた時期はあった。
半年ほど共に暮していくうちに、そのお腹が膨れていることに気付いた。
初めはなんてデブなの。と蔑んだ。
けれどどう見てもおかしかった。
ある日、あの人のお腹はおかしくないか?とメイドに確認したら、お子様がいらっしゃるのですよ。と教えてくれた。
人よりも頭が良く、5歳にしていろんな本を読んでたエリザベスは全てを理解した。
常々実母は命は授かりものだと、大切なモノだと言っていた。命に貴賎はないと。
実母も叔父も同じ事故で死んでいる。
お父様も義母も命辛々生き残ったようなひどい事故だった。
なぜ愛する実母が死に、乗っ取りを画策するような女が生きてるのかと思っていた。
義母の中に新たな命が宿っていて、先に助けなければ助からないとわかったからなのだろうと理解した。
母が自分の命を犠牲にして守った新しい命がそこにいたのだ。
彼女はポロポロと泣いた。ただ静かに泣いてメイドを困らせた。
泣き止むとその足で義母の元へ向かった。
そうして聞いた。
ここに、母が守った命があるのですか?ここに私の妹か弟がいるのですか?と。
目を開いて驚いた後に、義母は頷きながらエリザベスの頭を撫でこう言ったのだ。
そうですよ。あなたの家族が増えるのよ。
その日2人でまた静かに泣いて笑い合った。
義弟は不審げに見ていたが、今までのことを謝らなければとエリザベスは思っていた。
母が守った命ならば、私も守ろう。そう決めた次の日肥えだちの悪く気分の悪い義母にあげようと、母と以前作ったことを思い出しながらおかゆをつくった。侍女長が手伝ってくれた。
2人に謝ろうと心を込めた。
その時のエリザベスはおかゆの中に毒を混ぜられてるなど知る由もなかった。
結果、エリザベスはこの二日のことを全て忘れ狂うことで自分を守った。
そうしなければ死を選びかねない状況だったから。
何事もなければ優しい母と厳格な父に愛されねじ曲がることもなく天使のような子に育っていただろう…と、対談記事でシナリオライターが言ってた。事故前は素直ではないが心根は天使のような子だったそうだ。
それを見た時エリザベスの救済ルートどこだ!!と叫んだものである。当然なかったが。
結論としてエリザベス悪役化は大体侍女長がわるいのである。
「ま、その侍女長はクビにしたけどね」
原作でのエリザベスの過去を思い出し独り言を呟いた。
私がこのことを思い出したのは事故後、義母とお父様が再婚し家に来てからである。
さっそく洗脳しようとした侍女長をしばらく泳がしてからお父様に質問した。
「ナイルデンは浅ましく罪人ばかりだから昼が貰えないというのは本当ですか?
お母様をあの人が殺して乗っ取ろうとしてるというのは本当ですか?」
それを聞いた途端にお父様は血相を変えた。
誰に聞いたか聞かれて侍女長と答えるとそのあとすぐにクビにされた。
義母と義弟に対しては罵ることはないが、近づかないようにしてる。
義弟は作中ではヤンデレな上に愛に飢えていたので悪役令嬢転生モノでよくあるフラグを作りたくない。
いや、義母死んでないしゲーム通り愛に飢えてるからはわからないけど。君子危うきに近寄らず、である。
でも、赤ちゃんを健やかに生んでほしいので、お父様に頼んで侍女を多めに、それとあまり肉ばかりでなくバランスよく食べさせてあげてほしい。太り過ぎは毒だから。と配慮してもらえようにはした。
原作では太り過ぎで体調くずしてたらしいし。
まだ家族として見れないから、私は近づきたくないしこんなことを言ったのを知られてお礼を言われたくないから内緒にしてとは伝えた。
おかげで干渉されることもなく本を読んでる。
従者には、私ではなく弟につけと伝えた。
関わりたくないから防波堤になれと遠ざけた。
彼に関しては既に八つ当たりしている分ある程度やらかしてるが、懐中時計のやらかしはまだなのでたぶんセーフ。
ちなみに第三王子の婚約者を決めるためのお茶会は気分が優れない、粗相をしかねないから欠席すると伝えてスルーした。
まだ決まってないそうだが選考中らしく、その候補者から私は除外されてるだろう。たぶん。
巫女になるのでは?という問題も一度黒々としているのでたぶん平気。というより前世の経験で男性不審なので巫女様のようにはなれないだろう。なりたくない。
問題は邪神の巫女にならないように、という点だが…こればかりは正直人間の力でどうにかなるかわからないので神頼みになると思う。
そんなこんなでとりあえずフラグを粗方叩き折った私は自由を謳歌するためにこっそり家を抜け出してお散歩に出ようと決めた。
あと、目標達成したので次の目標を何にするか決めかねてたので自分探しをしたかった。人生の迷子なのである。
お散歩してもいいじゃないか。
こっそり出ようとしたが見つかったので、子供なら出れる穴があったから護衛は振り切らせてもらった。
そして振り切るのに専念した結果本当に迷子になったのです。アホか。
前世フラフラと一人で出歩く癖があった結果やらかしたのである。
「んー…どうやって帰ろうかな…これ…」
侯爵令嬢だから事件になったら洒落にならないしこっそりお家の外周を歩くだけで終わらせようとしてたんだけどな。
目の届く範囲に人がいないので、とりあえず人気のあるところに行こうと決めて、来た道を戻ることにする。
それで護衛に見つかっても既に一人で散歩という目的は果たしてるしいいかなと思った。
「迷子の迷子のエリちゃんです♪私の行く道どこですか♪」
また童謡のメロディに乗せて替え歌を口ずさみながら来た道へと振り返る。
すると
「なんで替え歌歌ってるんだ?」
ボソリと呟いた声にハッとして少し先をよく見ると栗色の髪の可愛らしい男の子とその横に長身の青年が立っていた。
後ろは盲点だった。
「あら?私はエリちゃん、あなたはどなた?」
「俺はエド、君は俺と同じと思っていい?」
私の問いかけに少し苦笑いを浮かべた後に答えと質問を返された。
同じ?と思ってコテンと首を傾げる。
脱走中のことかしら?でも、お供連れてるから脱走中ではないでしょうし…と考えたあとハッとする。
今私は前世の子供が口ずさむメロディで替え歌をしていたのだ。
「ニホン?」
「そう。嬉しいな。気まぐれに歩いてたら君と会えるなんてこれは運命を感じてしまうね。
君はどこの子だい?俺たちが送ってくよ。迷子なんだろう?」
どこか嬉しそうに爽やかな笑みを浮かべながら、隣の男性にいいだろう?とエドは問いかけていました。
ですが…
「いえ、結構です。知らない人についてくとか怖いです。何より運命とかいう男は信用できません」
君が運命だ!とか、浮気なんて最低だよね。俺はしないよ。とかお付き合い前にいう男は信用しません。
そういう男に限ってやらかすのです。胡散臭いのです。前世の経験的に。
彼はエメラルド色の瞳をクリクリとまん丸くさせて驚いてました。
私は前世の私と違ってチョロくないのですよ。なんとなく、胸の中でふふんと鼻を鳴らす。
「でも、君は迷子なんだろう?一人でだと危ないよ?」
彼は心配そうに尋ねてくれますが、私はフルフルと首を横に振ります。
「来た道自体はおおよそ覚えています。グルグルと歩き回ったので何度か通る道もあるでしょうが、帰ることは出来るので大丈夫です」
「だが…」
片道記憶できるとかほんとエリザベスは優秀だ。
侍女長による悲劇が起きなければ大成…できたかな。
いや、癇癪持ちだったしなぁ…。
そう思い少し悩んでいると慌ただしく駆け寄ってくる足音がした。
「お嬢様!みつけましたよ!!」
よく聴きなれた少年の声が聞こえてハッと視線を移す。
そこには少し息切れした従者くんことエリオスくんがそこにいた。
エリ仲間である。
「あら、エリオス。探してくれたの?」
「当然探しますよ。護衛が血の気ひかせて捜索手続きしてましたから。
周囲を振り回す言動は謹んでもらいたいモノです」
少し不満気にこちらを見て伝えてくるエリオスくん。
美形だし、迫力があるなぁ。
そんなことを思いながらエリオスの側にととっと駆け寄ると、エドたちの方に振り返る。
「お迎えが来ましたので心配はご無用です。お気遣いくださり感謝いたしますわ。
それでは、ごきげんよう」
小さな体でちょこんとカーテシーをしたあとに、エリオスを促して歩いていくことにした。
「最近大人しくしてたと思ったら何しているんですか…」
その一言を皮切りにお小言という名の文句が並ぶ。
最近小言の許可を出した上で癇癪が鳴りを潜めたからってそれはもう怒涛のように。
だってお散歩したかったんだもの、仕方ないじゃない。
プイっと顔を逸らしてついていく。
そういえば、第三王子の瞳もエメラルドに似た色だった気がする…髪の色は違うけど。
まさかカツラをかぶった第三王子だったなんてオチはないわよね…?
そんなことをチラッと思い浮かべながら帰路に着く。
お家に着いたらお父様と義母に物凄く怒られた。義弟はすごく冷たい目で見てきた。
護衛があわや首騒ぎになってたので、そこだけは夜お父様に謝り倒してやめてもらった。
ごめんね、ひとり散歩したかっただけなんだよ…。
王宮で第三王子にあった時一悶着があるのはまだ先のお話である。
溺愛フラグも死亡フラグからも逃げたい、恋愛が苦手な転生者が特に改善するとかでもなく距離を置くだけで逃げ切ろうとする。
昼の国と夜の国のある乙女ゲーが舞台。
犬のお巡りさんの替え歌させる。
それを転生者に聞かれる。
ということ以外何も決めずに描きはじめたらエリザベスがもう勢いよく飛び出して地の文がえらいことになりました。
悪役令嬢時のエリザベスちゃんの設定、全然考えてなかったのにこんなに重くなるとは思ってませんでした…
悪役令嬢時代の方のエリザベスちゃんに救済がほしい