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5%の冷やした砂糖水  作者: 煙 うみ
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3.3 艶然

私が言葉に詰まってしまって、バーに流れる音はBGMのジャズだけになった。


彼が、先に沈黙を破るように苦笑する。


経験とセッティングがものを言う対人職同士、この場では彼が何枚も上手のようだった。



「いきなり話しかけちゃってすみません。来ていただけて嬉しくて。


お連れ様も、先生ですか?」


「あはは、同僚ですー。仕事帰りに、飲みに行こうって感じで」


「ありがとうございます。楽しんでいただけたら何よりです」



彼の頭が一瞬消えたかと思ったら、もう一度現れて、カウンターの向こうから、長い両手がすっと伸びてきた。


生ハムとオリーブ、違う種類のチーズが2種類盛られた小皿が2つ。


真子が顔を輝かせて私を見る。

彼女は生ハムに目がない。


「これ、僕からの奢りなので。お口に合えばどうぞ。先生方、ゆっくりお過ごしください」


にっこりと笑う。


バーの暗い照明の下の笑顔は、男性とは思えない妖艶さをたたえていた。



彼はゆっくりとまた頭を下げ、医者の私たちに背を向けようとした。


医者じゃない私が、いつか友人の死に目を腫らして渇き切るまで泣いた私が、突然に顔を出す。



こういう人間の()()()()には、心を乱されるから嫌いだ。


数日前に初めて会ったというのに、自分の分身のように錯覚してしまって嫌だ。



「星羅?」


不思議そうな声をあげる真子の横で、私はバーのスツールから半分腰を上げ、カウンターに乗り出した。


行儀悪いのは知っている。でも今言わないと消えてしまう。



「あの、待ってください。」



私にはこういうところがある。


衝動的な積極性。


相手の気持ちなど置き去りにして義足の親友に迫った夜も、破滅的な感情の波に突き動かされていた。


パンドラの匣は、もうこの手で開けないと誓ったはずなのにーーー



「お話、もっと聞かせていただけますか・・・?」



彼がこっちを振り向く。




黒い瞳が、また、あの日と同じように濡れていた。


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