7.6 吐露
「僕の一目惚れだったんですよ」
押し問答の結果、私たちが悠馬に付き添って、山本拓也の検査終了まで待つということで合意した。
本当なら日中は病棟か研修医室にいるのだけれど、悠馬を関係者ゾーンに引き摺り込むわけにもいかず、
かといって本来面会謝絶の院内に置いておくわけにもいかない。
真子と相談した結果、エントランスのある外来棟と、病棟のある第二棟との間に広がる中庭のベンチに今、私たちは座っている。
厳密にいうと勤務中の研修医が居ていい場所ではないのだが、
今日はふたりを引き合わせるにあたって何個ルールを破ったのかわからないし、
あと1-2時間仕事をさぼったところで、良心が更に傷むことはない。
PHSの着信がないかちらちらと気にしながら、いつのまにか盛り上がっている和やかな会話に耳を傾ける。
「へー!それで付き合ったんですか?最初のデートはどこいったんですか?」
「えぇ・・・最初のデートか、いつだったっけ・・・
んー、付き合ってからだと映画とかですかね。
家に来るようになってからは宅配ピザ頼んで家でDVD観たりして、映画館も行かなくなりましたけど。」
「え~、素敵~!じゃあ、記念日とかのデートどこいくんです?誕生日とか!
大人のお付き合い、参考にしたいです!」
「大人っていうほど特別なもんじゃないです。
あ、でも、拓也はああいう感じなんで、結構かっこつけるんですよ。
記念日も夜景見える高層ビルで祝ってくれたりして。
僕なんかは正直ちょっと恥ずかしいですけどね。花束とか出てくると、うわぁってびびっちゃう・・・」
「あはは、そんな感じします!拓也さんめっちゃキメキメでドヤ顔で花束出してきそう!
でも家では半袖短パンでだらだらしてそう~」
「あ、わかります?元アメフト部なんで、学生の頃の練習着とか未だに着てて。
僕ら28なのにもう、早く他の買えって言ってるんですけどね」
全然困ってなさそうな顔をして笑う。
真子と話している悠馬は、どこか解けたような柔らかい雰囲気を漂わせていた。
愛する人が結局生きていたことに安堵したのか、
それとも秘めていた関係について誰かに肯定してもらえるのが嬉しいのか、
はにかんだ微笑みを浮かべる様子は、歳上だというのに実年齢よりもずっと幼く見える。
やっぱり印象がころころと変わる。
不思議で綺麗なひとだ。
「ああ見えて気を許すといいやつなんですよ。
でもふとスイッチ入ると攻撃的になるのが困るんですよね・・・
今日もなんか、申し訳ないです・・・」
悠馬の顔が心配そうに曇ったのを見た真子が、悠馬の背中を親しげに叩いた。
「いいんですよ!今話してくれてるのでチャラにします!なのでもっと話してください!!」
悠馬が、真子の頭越しにちらりと私の方を見る。
聞いてますよ、という顔をして笑いかけると、片方の眉をくいっとあげておどけた表情を返してくれた。
(・・・さっき私がぶちぎれたことは内緒にしておこう。)
秋も終わりかけだというのに今日は気温も高く、降り注ぐ暖かい日差しが私たちの全身を包んでいた。
木漏れ日が揺れ、草のそよぐ小さな庭で、私たちは悠馬の紡ぐ恋の物語にゆっくりと浸っていた。