7.3 吐露
「義足もそのうち作る予定だけど、どこまで歩けるようになるかわからないし。
悠馬のことは大事だけど、身体障害者の恋人なんて、正直重いじゃないですか。
無理ですよ。そんな思い、させられない。」
----この人は事故の被害者だ。
----この人は、患者だ。
そう考えて自分を鎮めようとしても、彼の羅列する理由の1つ1つに、違和感の塊が押し寄せてくる。
「悠馬も、こんなおれ見たら手を引きますって。
そんな思いするくらいなら、綺麗な思い出のまま残った方がいいじゃないすか。
・・・寄ってたかって邪魔しないでくださいよ」
きっと二人の交際は、周りに認知されている類のものではないだろう。
彼の死を信じられずに、誰にもその心中を吐露できずに、
灼けた喉に眠り薬代わりの酒を流し込む暗い夜が、悠馬には幾つあったことだろう。
こいつに言えなかった言葉を沢山数えながら。
一緒に行きたかった場所の景色を夢に見ながら。
「いや、・・・会わない、のは最悪しょうがないとしても」
私の口が勝手に喋り始める。
「一応、将来考えて本気で付き合ってたひとなんでしょう?メールとか電話とか。
生きてるか死んでるかまで秘密にしろってどーゆーことですか。
悠馬さんの中の自分を殺そうと思ってるってことですよね?
ちょっと趣味悪すぎませんか・・・。」
声がうわずっていくのを止められなかった。
「人がひとり死ぬってどういうことかわかってます?
誰か親しいひと亡くしたことあるんですか?そのときどういう気持ちでした?
死んだって言われても希望を捨てられずに待ち続けちゃうひとの気持ちって、
今まで一度でも考えたことあります??」
「悠馬の今後の人生、ぶち壊したくないんだよ・・・わかるだろ」
山本拓也が、遠くを見つめるみたいな目をする。
いや、わからない、と心の中で呟く。
「麻酔から目が覚めて、足が無いのを見て、あいつの目の前から消えようって決めたんだ。
悠馬には俺の人生は背負わせない。あいつはまだやり直せるんだから・・・」
彼の陳腐な言い分に、怒りが際限なく湧いてくる。
本気で死ぬ程には追い詰められていなかったくせに、
死んだふりをして恋人の前から消える?
そんなことを友人に本当に死なれた私の前で、ましてやお前の死に絶望して自分を傷つけた悠馬の前で言うんじゃない。
絶対に。