表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

青春の数、恋の数、感情の数

作者: コウヤトシ

一応の前編としてこちらもあります↓

https://ncode.syosetu.com/n0479gs/

 あたし、えりは昨日同級生の田中君に告白された。

 けれど、あたしの親友のあゆも同じ日に同じ人に告白されていた。

 あいつ、絶対に許さない。あゆとあたしをばかにしやがって。

 絶対に、許さない! 絶対にだ!


「えり、どうしたの? 凄く怖い顔してるよ?」


「あっ、ごめんごめん。で、なんの話だっけ? 田中君をボコるんだっけ?」


「え?」


「え? ……あ、いや、ごめん、間違えた」


 無意識に心の声が飛び出てしまった。


「話戻すけど、あゆは本当に田中君のこと気になってたの?」


「うん……。落ち着いてて優しそうだから、なんとなく、だけど……」


「そっか。好きではないんだよね?」


「自分でもよくわかんない……」


 あゆは考え込むように机に突っ伏した。

 あたしと違って、あゆはきちんと考えているのだ。付き合った後のこと、告白を断った後のこと、それぞれ想像して答えを出そうとしている。

 ならばあたしはあゆの手助けをしなければならない。

 田中君の本心を聞き出してあゆに伝える。それがあたしの課せられた使命だ。

 あたしが彼をボコるのはその後でもいいだろう。


「あゆ、放課後まで返事はしないでおいて」


「え、う、うん」


「田中君の本気度を確かめてくる!」


「え!?」


 あたしは席を立ち、彼の方へ歩みを進める。後ろであゆが何か言っていたが、耳にとめず進んだ。


 ――キーンコーンカーンコーン。


 と、一時間目のチャイムがなったのであたしは引き返した。



***



 お昼休みになり、あたしは再び田中君の席へ向かった。

 彼は既に前の席の女子と話していた。名前はさき、だっただろうか。

 朝も彼女と話していた。まさか彼女も告白されたなんてことはないと思いたい。


「田中君、ちょっといいかな?」


「ん? ああ、えりか」


 彼はあたしの方を向くと、何か納得したような顔をした。


「ごめん、さきちゃん、また後で」


「あ、うん」


 彼はさきに断ってから席を立った。そのままあたしは教室の外へと導かれた。

 先程まで話していた彼女を一瞥すると、寂しそうな表情をしていた。


「田中先輩!」


「ん?」


 教室を出るとすぐ、彼は下級生の女子に呼び止められた。


「かよちゃん、どうかした?」


「あ、あの、一緒にご飯食べませんか?」


「ああ、わかった。また後でそっち行くよ」


「は、はい!」


 かよ、という下級生は笑顔で返事をして、機嫌良さそうに去っていった。

 なんなのだろうか、これは。

 まさか、ね。


「あの子、誰?」


 まるで浮気を疑う彼女みたいな声が無意識に出ていた。


「図書委員の後輩」


「ふーん」


「さ、えり、あっちで話そうか」


 あたしは彼に促されるまま、学校の屋上に向かった。


「――ここなら邪魔されないかな」


 屋上に着くと、彼はそう言ってあたしと向かい合った。


「で、何それ?」


 田中君は顔の前に腕を差し出し、防御の構えをしていた。


「ん? いや殴られるのかなと思ってさ」


「へぇ~、よくわかってんじゃん」


 あたしは腕を回し、戦闘準備と威嚇を開始した。


「お手柔らかにお願いします」


「ふざけんな! ……と言いたいところだけど」


「え?」


「そんなことをしに来たわけじゃない」


「あれ? そうなの?」


 彼は心底意外そうな顔をしていた。


「あゆに告白した件について話に来たの」


「あゆちゃんのこと? なんでえりが?」


「……さっきから気になってたんだけど、なんであたしだけ呼び捨て?」


「ちゃん付けされるの嫌いだよな?」


「まあそうだけど」


 最初から決めつけられるのはなんかムカつく。


「ほら」


「やっぱ殴っていい?」


「えりちゃんごめんなさい」


「変わり身早っ!」


 あたしは呆れて、はぁ、とため息をついた。


「呼び捨てでいいよ、もう」


「わかったよ、えり」


 彼は、最初から分かっていたよ、と顔で語っていた。やはり後でボコろう。


「で、あゆのことだけど……君は本当に好きなの?」


「ん? 当たり前だよ」


「あ、あたしにも最初告白したのに?」


 あたしが少し照れながらそう言うと、彼は真剣な眼差しをこちらに向けてきた。


「えりのことも本気で好きだから」


「だ、だからって、すぐ相手変えるのはおかしくない!?」


「高校生活を充実させるためなんだ! この限られた時間を生きていくには仕方ないことなんだ!」


 彼は力強く主張した。


「それに二股はしてない! えりに断られてからあゆちゃんに告白した!」


「で、でも……」


「俺は先延ばしにして後悔したくないんだ!」


「だからって……」


「俺は本気で好きな人にしか告白しない!!」


 彼のその言葉は屋上に響き渡った。

 普段の彼からは想像できないほど鬼気迫るものだった。

 あたしはもう何も言い返せなかった。

 言葉だけならどう考えても無茶苦茶な説明だ。

 それなのに、あたしは説得されてしまった。

 あたしは彼の熱にやられてしまったのだ。

 昨日からあたしは彼にやられっぱなしだ。


「えり、好きだよ」


「なっ!?」


「だけど俺は立ち止まれないんだ」


 彼は今にも泣きだしそうな、悲しみに満ちた表情をしていた。


「3人のことはもう振り返らない。今はあゆちゃんだけを見る」


「は?」


「じゃあな、えり」


「ちょ、ちょっと待て!」


 あたしは彼の肩を掴み、引き留める。


「3人ってどゆこと?」


「え? さきちゃんとかよちゃんとえりのことだけど?」


「もしかして全員に告白したの?」


「ああ、そうだけど?」


「いつ?」


「昨日」


「全員?」


「そうだよ」


「歯を食いしばれ」


 やっぱり田中君は最低だ。



***



「えり、田中君と何かあったの?」


 教室に戻ってくるなり、あゆにそう問われた。


「え? 何にもないよ?」


「田中君のほっぺた赤くなってない?」


「あー、あゆに惚れてるから赤くなってるのかもねー」


「も、もうっ、からかわないで」


 あゆの頬も赤く染まった。

 可愛い奴め。あいつとは大違い。


「それで……田中君と何話してたの?」


「あー、うん、それなんだけど……」


 あたしが田中君のことを悪く言うのはいくらでもできてしまう。それによって彼とあゆを遠ざけることも。しかしあたしにそんなことはできない。二人は本気なのだ。本気でこのことに向き合おうとしている。


「田中君は本気であゆのことが好き、みたい。それは間違いないよ」


「そっか、よかった……」


 あゆは安堵の表情を見せた。


「田中君は本気であゆが好きだし、本気であゆと付き合いたいと思ってるよ。それだけは確認してきた。……後はあゆが考えて、決めな」


「うん、ありがと!」


 あゆはすがすがしい笑顔でそう言った。

 もう答えは決めていたのかもしれない。

 その答えも、なんとなく、あたしにはわかった。


「はぁ……」


 あたしは複雑な気持ちになっていた。

 彼はあたしのことが本気で好きだった。それも間違いないのだと思う。

 どんな形であれ、あたしのことが気になっていた。気になってくれていた。

 だけど彼はもうこちらを振り返らない。

 この先彼とあたしがどうこうなることもない。

 あたしの青春が終わった、そんな気がした。


 ――いや、まだ終わらせない。終わらせてたまるか。


 彼が立ち止まらないように、あたしも前に進めばいい。

 高校生活はまだまだこれからだ。

 これからいくらでも楽しめる。

 それに恋だけが青春というわけでもない。

 色んな青春を楽しもう。


「よしっ」


 あたしは気合を入れた。

 しかしこれから青春を楽しむにあたり、気掛かりなことも残っていた。

 田中君があゆを悲しませないかだ。

 彼は最低な男だから、すぐに浮気でもしそうだ。浮気でなくとも、最低な言動はするだろう。するに違いない。

 そうすればあゆは彼に幻滅するかもしれない。

 あゆが彼と別れてあたしにチャンスが………じゃなくて、それでは困る。

 あゆには幸せになってもらわないといけない。

 であれば、これから彼を近くで監視していこう。そしてあたしが更生させていくしかない。

 あたしにとって、これが当面の課題だ。

 

 昨日の告白からあたしは彼に翻弄され続けたが、今度はこっちが翻弄する番だ。

 その決意と同時に、あたしは彼に視線を送る。


「覚悟しとけよ、田中君」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ