第三十話 骸骨将軍戦
カイルを倒した俺たちは、とりあえず周りにいる骸骨たちを蹴散らしてから合流していた。
カイルを倒したと言っても、俺には全く倒した手ごたえがなかったんだけど、それは仕方がない。しかし、『狂化』を使うとこんな感じになるのか……マジで何にも覚えてない。
「とりあえず、このまま骸骨将軍を倒さないで先に進むという手段もとることはできますけど、どうします?」
モモカさんの最初の提案はそれだった。
そう。カイルの話が本当なら、次の階層へと進む階段の前には誰もいないことになる。
それだったら、先に進んでしまうというのも一つの手だ。ただ……。
「えー。倒しましょうよ。骸骨将軍」
アカリはそう不満そうだった。
「アカリに賛成だな。俺も」
「やったー!コウヘイさん好き!」
「はいはい。俺は別にお前みたいな戦闘狂だからってわけじゃないから」
軽い口調のアカリをそう言って受け流すと俺は話を続ける。
「モモカさんの言う通り先に進むのもありだとは思うけど、先延ばしにしたせいで新たなカイルが生み出されないとも限らないだろ?それに、骸骨将軍は敵の数によって強さの変わる魔物だ。ってことは今が一番攻め時だと思うんだよな。どうだろうか?」
俺の言葉にモモカさんは少し考えこんでいたようだ。しかし、すぐに決断を下したように答える。
「分かりました。行きましょう。確かに一日開けただけでも骸骨の数が増えるのは今までの例で分かっていますし、むしろ司令官がいなくなってそのスピードが速まるかも知れませんし。ここで倒した方が楽な可能性はあります」
モモカさんがうなずいてくれた。
「よーし、じゃあ突入ですね!」
「待て。もう少し話し合ってから行こう。向こうだってカイルがやられたことは分かってるだろうし、待ち構えているだろうから」
アカリがすぐに行こうとするのを俺は引き止める。
何も作戦を立てずに突入するのは危険だ。ここまで、どれだけカイルに困らされてきたことか……。魔物だからと言って甘く見ていると痛い目に合うということはよく分かった。
「結局、相手がどういった骸骨の種類を抱えているかよく分からなかったですしね……ただ、なんとなく予想はついています」
モモカさんがそう自信ありげにつぶやく。へぇ。そうなんだ。どんな予想だろう。
「本来、骸骨の軍勢と言うのは物理攻撃が主体のものと魔法攻撃が主体のものがバランスよく生み出されるという話を読んだことがあります。今まで、物理攻撃が主体の魔物が多かったことを考えると、敵は魔法攻撃が主体のタイプだと思うんです」
なるほど……。確かにここまで魔法攻撃が主体の魔物はかなり少なかった。だから、俺のさっきの作戦も実現したわけだしな。魔法攻撃が主体の魔物が多かったらそちらが『狂化』時の標的になったことも考えられる。そうであればさっきみたいにうまくはいかなかっただろう。
実際、カイルも俺の状況に気づいた瞬間に魔法攻撃が得意なものを生み出そうとしていたらしいし。
「で、そういうことだとしたらどういう作戦で行くつもりです?」
「それはですね……」
モモカさんの作戦は思った以上に簡単だった。
「いいじゃないですか!それで行きましょう!」
アカリも乗り気みたいだし、それで行こう!
それから俺たちは全員が素早く自分たちの配置につく。基本的な立ち位置は普段と変わらない。アカリが前衛。俺がそのサポートにいつでも回れるように少し後ろで待機。モモカさんは後ろの部屋にいてもらってスキルを使っておいてもらう。リョウコは今回の作戦では危険だからという理由で更に離れたところにいてもらっている。
骸骨たちが他の部屋にいないことは確認済みだ。まず間違いなく次の部屋に集まっている。だいぶ数も減らしてきたことだし、だいぶ弱体化しているだろう。
「よし、行くぞ!」
俺の声と共に、アカリは部屋へと進む。
「カイルはやられたようだな……」
その中では、骸骨将軍が堂々と俺たちのことを待ち受けていた。
ただ……。
「お前が、骸骨将軍?」
その姿に拍子抜けした。カイルに比べてあまりにも小さい。カイルは俺よりも少し背が高いぐらいで、立ち姿だけでみたら人間の紳士といっても差し支えないぐらいだった。それが、骸骨将軍は……こども?
「我の姿に驚いているようだな。この姿に変えたのは貴様らなんだがな……。我は自身のスキルによって仲間より力を得ている。そのため、仲間の数が減少すればこうなるのは必然。まぁ、貴様らなど我の元々の能力だけでも倒すことなど容易だがな」
そう言って笑う。実際、本当に数が減っているのは確かなようだ。
この部屋の中を見渡しても、今までに骸骨がいた部屋の半分ぐらいの数しかいない。しかも。予想通りその半数以上が魔法を得意とする個体だ。
「さて、人よ、かかってこい。我の名は骸骨将軍。全力をもってお相手しよう」
そう言うとすぐに骸骨将軍の体が火に包まれる。
魔法か。
「これなら作戦通り行けそうだな。いけ!アカリ」
「言われなくてもわかってますよ!『狂化』」
明かりは俺の声と共に『狂化』を使用する。
そのまま、火に包まれた骸骨将軍に向かって一直線だ。
「なっ……」
目のまえに骸骨の集団が立ちふさがっているが見向きもくれない。
いや、何体かの骸骨魔術師には攻撃を繰り出しているだろうか。それでも、前に進む勢いだけは留まることがない。
「くっ、これはカイルを倒した……」
骸骨将軍も、カイルの倒れた経緯は知っているらしい。仲間の感覚をつなげる能力はこいつにもあるのかもしれないな。
それなら、『狂化』の恐怖もよく分かっているだろう。
そう、俺たちの作戦は単純だった。
『狂化』を使えばその場にいる魔力の高い者へと向かっていくことは既に分かっている。『狂化』を使った瞬間、攻撃範囲に入っているもので一番魔力の高い者、それは予想通り魔法を使える骸骨が大量に残っているとしたら、間違いなく骸骨将軍のはずだった。
そして、予想通りの光景が繰り広げられている。
周りには大量の魔法を使える骸骨の個体。そして、明らかにその身長とは不釣り合いなほどの魔力を抱える骸骨将軍の姿。
そして、その標的に対して一目散に向かっていくアカリ。
ああなってしまうと、俺が『平均化』を使わない限りアカリは止まらない。
誰が何と言おうと骸骨将軍を倒すまで攻撃をやめることはないだろう。それが『狂化』のスキルだ。
「くうっ、『火柱』」
骸骨将軍のその言葉と共に敵の周りに火柱が立ち上る。少し離れている俺のところも熱くなるぐらいだ。だけど、今のアカリの突進力を止められるほどの火の威力ではない。
さっきの俺の状態とは違う。賢さと攻撃力以外はしっかり俺のスキルで強化されているんだ。防御力はモモカさんの、魔力はリョウコの力で上がっている。このぐらいの炎なんて今のアカリには関係がない。
そのまま、突進が止まることはなく、骸骨将軍の体を引き裂いた。
「ぐはぁ。カ、カイルの策がまた裏目に出た形か……。我も異論はなかったが、貴様らのスキルをもう少し細かく分析できていれば……」
そう言って、骸骨将軍の息は絶えていった。
そのままアカリは、その他の骸骨たちに……向かわない!
やべぇ、俺の方に向かってくる。リョウコの魔力って4分割してもそんなにか!
素早く俺は賢さも『平均化』で振り分けた。
「あれ?あっ今、私コウヘイさんを攻撃しようとしてました?」
「あ、あぁ。間に合ってよかった……」
アカリが攻撃を仕掛ける前になんとか止めることができたようだ。
助かった……。敵を倒したのにその後で味方にやられましたなんて笑い話にもならない。
それから、その部屋にいる骸骨たちを倒して、俺たちは何とか戦いを終えた。
これにて、骸骨軍、討伐完了だ!




