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第二十九話 司令官戦決着

 私が一瞬『狂化』のせいで意識を失ったかと思うと、すぐにいつもと同じように戻った感覚を味わったその瞬間、私の目の前に映し出された光景に言葉を失った。

 コウヘイさんが物凄い勢いでカイルに向かって攻撃を繰り出していたのだ。

 あの勢い、完全に魔物だ。人間には見えない。

 私が『狂化』を使ってるときってあんな感じなのか……。

 初めて客観的に自分の姿を見た気になって、今までパーティーを組んでくれた仲間たちに深い感謝をした。

 本当にありがとう。あんな姿になった私を見たのに、少しの間だけだとしても仲間でいてくれて……。

 コウヘイさんにも感謝だ。初めて会ったときの私はあんな感じだったはずなのに、すぐに仲間として受け入れてくれて本当にありがとう。

 そう思わされるような勢いと破壊力だ。

 カイルの前にも骸骨(スケルトン)たちは何人かいるが、全てコウヘイさんの突進にぶつかると砕け散っている。


「ど、どういうことでしょうか……?突然……」


 カイルが呆然とした様子でそうつぶやいている。コウヘイさんの突然の『狂化』状態に戸惑っているようだ。


「今までの戦闘で彼がこんな状態になっているところは見たことが……」


 今までは使ったことがない方法を使っているんだから当たり前!

 モモカさんからの謎の声が教えてくれた方法は、単純だった。

 私の『狂化』をそのままコウヘイさんに移すという方法。コウヘイさんの能力である『交換(チェンジ)』を活用した方法だ。コウヘイさんの能力は全部バラバラにしか使えないから、私たちは『交換(チェンジ)』を使うことはないと思ってたから無視してた。

 だけど、こうやってそれぞれが閉じ込められたタイミングでは使えるんじゃないかって話だった。それは、私の『狂化』で賢さがなくなったとしても誰も被害を受けることがないから。

 私が『狂化』を使ったタイミングで『交換(チェンジ)』を使うことができれば、その瞬間の私の能力がそのままコウヘイさんに渡されることになる。そうすれば、『平均化』を使って二人で分けるのよりも強い攻撃力でコウヘイさんも攻撃できることになるというわけだ。

 確かに賢さはなくなるし防御力もモモカさんのをもらえなくなるから下がってしまうけれど、敵はこちらを倒すつもりで軍隊を作っているわけじゃないからそれほど影響はないだろうってことだった。

 実際、今コウヘイさんを攻撃する敵もいるみたいだけどそんなに影響はないみたい。

 本当にコウヘイさんの所にいるのは防御力に重点を置いた骸骨(スケルトン)たちなんだろうな。

 さっき、カイルは自分で好きな種類の骸骨(スケルトン)を作れるみたいなこと言ってたけど、防御特化型のタイプばっかりで固めてたんだろう。それがよくなかったんだと思うなぁ。


「くっ、このままでは……仕方がない『骸骨鎧(スケルトンアーマー)』」


 カイルが近づいてくるコウヘイさんを見ながらそう叫ぶと、周りにいた骸骨(スケルトン)たちがバラバラになってカイルの体に張り付いた。

 そのまま、その骸骨(スケルトン)たちはカイルの体を覆って鎧の形を作っていく。

 さっきの防御力の高いタイプの骸骨(スケルトン)たちの体をそのままカイル自身の鎧に変えたって感じかな?あれも、カイルのスキルだからできることなんだろうな。きっと。

 ただ、コウヘイさんはそんなことは構わずにカイルに近づいている。


「戸惑っている様子すら見せない……。彼の体になにが……?」


 そう。今のコウヘイさんにはカイルが何か変化したとしてもそんなことは関係ない。何と言っても、賢さがないんだからそんな複雑な思考ができるはずない。

 私の賢さゼロ状態がそのまま行ってるんだから。私はというと、普段よりも頭が回るぐらいだ。これはコウヘイさんの賢さをもらってるからなんだろうな。

 人は結構思考が邪魔することって多いらしい。何かが起こるとそれについて考えてしまって行動が遅れるなんてことはあるし、考えていると力が出し切れないものだ。

 だけど『狂化』状態だったらそんなことはない。ただ、自分が標的にした相手にだけ向かっていく。普通は、目の前に大量の骸骨(スケルトン)がいたら、その数を減らしてカイルのもとにたどり着こうと思うはず。

 だけど、今のコウヘイさんは違う。

 とにかく、この場で最も魔力の高い敵にそのまま向かっていく。もし障害物(骸骨(スケルトン))があってもただ体当たりしてぶっ壊すだけ。

 少しその体当たりで体から出血しているようだけど、そんなことは関係ない。ただ、何も考えずにカイルに向かっていく。

 たぶん、さっきまで私が頭の使える状態で『狂化』を使っていた時よりも今のコウヘイさんのほうが強いと思う。

 というか、本来はそれが『狂化』の力なんだろう。

 何も考えずにただ、敵を倒すためだけに行動する『狂戦士(バーサーカー)』それが私のスキルなんだから、それはある意味では当たり前だ。

 いくら攻撃力が変わらなくても、ちゃんと頭が生きていて考えられる状態ではあんな突進はできないし、あんな破壊力をもつことはできないだろう。

 だから、『狂化』なんだ。

 ただの攻撃力を高める魔法とかスキルなんかとは全然違う。

 客観的に見てはっきりと私自身の能力がどういったものなのかが分かった気がした。

 まぁ、今はあの状態で戦う機会はほとんどないと思うけどね。


「くっ、骸骨兵士(スケルトンソルジャー)!」


 カイルがそう叫ぶとカイルを守るように骸骨兵士(スケルトンソルジャー)たちが現れる。

 あんなにすぐに骸骨(スケルトン)を作り出せるんだ。カイルのもすごいスキルだなぁ。

 まぁ、そんなの関係ないんだけど……。

 コウヘイさんは、今生み出された骸骨兵士(スケルトンソルジャー)なんか見向きもしない。

 そのままカイルに近づくと、持っている剣で思い切り攻撃を繰り出した。

 硬い骸骨(スケルトン)を鎧にしているからか、カイル自体には攻撃が通った様子はない。

 だけど、攻撃の衝撃自体は受けているみたいで、その場に倒れこんだ。


「な、何故……。どうして私のことしか攻撃するつもりがないんだ……?」


 カイルは一生懸命考えているようだ。


「はっ……。そ、そうか……骸骨魔導(スケルトンマジシャ)……」


 カイルが何かに気づいた様子でそう言おうとしたその瞬間、倒れこんだカイルに向かってコウヘイさんが剣を縦に振り下ろした一撃が当たる。

 そのまま、砕け散るカイルの身体。


「くわっ!」


 そんな声と共に、カイルの身体は完全にバラバラになる。


「これが、お嬢さんの本当の力ということですか……。全て納得しましたよ……」


 カイルはまだ生きているようだ。そんなことを言っている。

 実際、全て理解できたんだと思う。

 攻撃が当たる直前に作り出そうとしていたのは、骸骨魔導士(スケルトンマジシャン)

 魔力の高い骸骨(スケルトン)だ。それが作り出せていたら、この場で最も魔力の高い敵はそいつになっていてコウヘイさんの攻撃はそちらに向かっていたかもしれない。


(突然、自分の知らない状況に遭遇したせいで冷静な判断ができなくなっていたんでしょうね)


 ん?モモカさんの声だ。

 あぁ、私がずっと色々考えていたのが全部モモカさんには伝わっていたんだろう。それで、状況が分かったってことかな?


「ただ、まだ我が軍には将軍がいます。皆様に我らが将軍を倒すことができますかね……?」


 最後までそんなことを言っている。倒せるに決まってるじゃないか!

 このままカイルが死ねば私たちが全員で合流できるだろうし!


(なんとか、作戦成功みたいですね。あっ。こちらの扉が開きました)


 モモカさんの声がそう言うのと同時ぐらいのタイミングで私のことを閉じ込めていた鉄格子も消滅した。

 カイルが完全に死んだということだろう。


「はっ!おお。うまくいったみたいだな」


 コウヘイさんの『狂化』の時間が終わったみたいで、意識を取り戻してそう言っている。


「じゃあ、『交換(チェンジ)』解除!」


 コウヘイさんがそういうことで、私の体に力が戻った感覚がある。


 はぁー、倒せてよかった。


「落ち着くのは早い!まだ、こんなに敵が残ってるじゃないか!」


 コウヘイさんは何かに気づいたようにそう叫ぶ。

 そう、周りはまだ骸骨(スケルトン)だらけ。確かにカイルは倒せたけど、コウヘイさんはカイル以外見向きもしなかったから、まだ敵はけっこう残ってるんだよね。


「と、とりあえず倒すぞ!」


(あ、じゃあ私もスキルは使いっぱなしにしておきます)


 モモカさんの声がそう響く。

 よし、とりあえずここにいる敵を全員倒そう。

 それから、次はボス戦だ!


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