第二十八話 作戦計画
正直、どうすればいいのかはよく分からなかったけれど、モモカさんのスキルの効果はまだ問題なく届いている。その影響で、俺自身は相手に攻撃されてもほとんどダメージを受けることはない。かといって、俺の攻撃も相手にダメージを与えることはない。つまり、どこまでいってもお互いにダメージを与えることはできないということだ。
「これでは、俺もお前たちを倒せないけど、お前も俺たちを殺せるわけじゃないだろ?どうするつもりだ?」
「別に私は皆様を殺したいわけではありませんから。皆様には我らを倒せないと倒せないと認識していただいて退いてもらおうと思っているだけです。つまり、お互いが永遠に倒せないならそれで構いません。実際、そちらのお嬢さんを閉じ込めているその鉄格子も、先ほど別のお嬢さんを閉じ込めた扉も、私の魔力により発動しているもの。私が死ぬか魔力を注ぐかするだけで開くことが可能です。逆に言うとそれ以外で開ける手段はありません」
そう言ってカイルは笑う。
確かに、このままだと俺はどうすることもできない。
そうなってくると退くのもありか……?
「私は諦めませんよ!」
ユイの声が聞こえる。ユイはどうやら、どんどん敵を倒しているようだ。
俺が攻撃力の『平均化』を切ってから、ずっとユイは攻撃を繰り返している。実際、鉄格子の向こうでは敵が倒される音がずっと響き渡っていた。
ユイ自身の攻撃力だけでなく、ずっと『狂化』を使用しているため、それで威力は強化されている。その状態なら骸骨たちを倒すこと自体は問題なくできるようだ。
部屋の広さを見る限り『大剣化』を使える大きさではないのが厳しいところだけど……。
「私の攻撃は効いてます。このまま、倒し続ければ必ず勝てます。私一人で骸骨将軍を倒しに行けば……」
「かかか。それはありえません。我が将軍はそっちにはいませんから。お嬢さんが向かうことができるのは下の階だけです。かといってお嬢さんにはエビルゴーストを倒すことはできないでしょう?つまりは手詰まり。皆様が退いていただけると仰っていただければすぐにこちらは軍を退きますよ。まぁ、私がそちらの鉄格子を開いたところで攻撃されたらひとたまりもありませんが……そこは皆様を信頼するつもりですのでご心配なく」
骸骨将軍はこちらにいるのか……。それだと、俺が闘わなければどうしようもない。ただ、実際倒すための方法が想像つかないのは間違いないわけで……。まだ一度も骸骨将軍とは対峙していない。つまり相手がどれほどの強さなのか正直言って全く分からない。
現状の攻撃力で俺が倒すことのできない骸骨たちを抱える軍隊を持っているということになると、明らかに実力はそれ以上。俺の攻撃が通る相手だとは全く思えない。確実にそんな敵を倒すことはできないだろう。
「ユイ……ここは降参した方が……」
俺がそうユイに向かって話しかけようとしたその時だった
(諦めないでください。まだ手はあります)
突然、頭の中に声が響いた。この声は、モモカさんの声だろうか?どうして、俺の頭の中に声が聞こえるんだ?
(はい、私です)
頭の中のモモカさんの声が、俺の心の中の疑問に答えるようにそう告げる。
一体どういうことだ?
(リョウコちゃんのスキルです。実際に試してみるまで分からなかったので確信はありませんでしたが、スキルの名前を聞いた段階でどんな魔法でも再現できるんじゃないかと思いまして。遠くの仲間と交信を取れる魔法を作り上げてほしいとお願いしたところ、できたようです)
え……?でも、リョウコのスキルは魔力の消費量がすさまじくてすぐに魔力を使い果たしてしまうんじゃ……。
(それは、そういう魔法を作っているからです。実際、範囲攻撃魔法は限界まで魔力を消費するものしか使えないのではないかと……その辺も試してみないと分かりませんね。今回のものは、それほど遠くの仲間と交信するわけではないので、魔力の消費量も少ないようです)
(ボク、大丈夫。全然元気。こんな魔法が使えるなんて思わなかった。使えないか聞いてくれたモモカさんのおかげ)
攻撃魔法以外での使えるようなスキル名だとは思っていたけれど、本当に使えたんだな。このタイプなら、確かに、仲間との距離次第で魔力の消費量は変わりそうだ。その辺も、今後の実験次第ってところではあるかもしれない。
しかし、攻撃以外にも魔法を作り出せるとなると、実際使用の幅はかなり広がるんじゃないか?
(その辺は、おいおい確かめていきましょう。現状は、今の状況の打破の方法を考える方が先です。先ほどまでそちらの話を聞いていましたが、カイルのスキルを考慮すると、彼がいないところに突然敵が作り出せるというわけじゃないみたいです。それなら、私の方に敵が来ることもありませんし、ユイさんの方の敵が増えることもないと思います。それなら何とかなるんじゃないでしょうか)
そう言ってモモカさんは作戦を説明し始める。……確かに、その方法ならなんとかなるかもしれない。実際に試してみないと分からないことではあるけど、そんなのは今までだって同じだった。実際成功する確率が全くない作戦ってわけではなさそうだし、試してみてもいいだろう。
このまま敵を倒せずに結局退きましたって話よりはましであるように思う。
せっかく、ここまで来たんだ。やってみるか……。
ユイには……話は届いてるのか?
「分かりました!モモカさん、さすが!私はじゃあ先に頑張りますよ!コウヘイさんも待っててください!」
ユイの言葉が俺に届く。
いや、今の状況だったら頭の中で思うだけでいいはずだろ。そんな叫んだら、カイルにも話が聞かれてしまうじゃないか……。
「ん?モモカさん?突然そんなことを言って、どういうことですかね?」
カイルがユイの言葉に対して、そう言って首を傾げている。なるほど、やはりカイルにモモカさんの声は届いていないようだ。仲間にしか声は届かないようにできるタイプのスキルのようだ。
ユイはカイルの疑問などお構いなしに『狂化』を使って次々と鉄格子の向こうにいる敵を倒している。カイルが向こうにいないということは、そのうち敵の勢いは止まるだろう。そうなったら俺の出番だ。それまでは何とか時間を引き延ばして……。
「ユイは聞いてくれないみたいだな……。カイル、とりあえず待ってくれないか?ユイも向こうの敵を全員倒してどうしようもないことが分かれば諦めてくれるだろうし……」
「仕方がないですね……。私としては我が軍のものが倒されるのを黙ってみているというのは気分が悪いのですが、私もここからではどうすることもできませんし……。そちらのお嬢さんが暴れ終わるまでこちらで待たせていただきましょう」
そう言ってカイルは佇んでいる。全く動く気配もなければ骸骨を動かす様子もない。本当にユイが向こう側を制圧するまで待ってくれているようだ。モモカさんの声がカイルに届いていないのは間違いなさそうだ。
このままいくと、計画通りにうまくいきそう……なのかな?
「コウヘイさん、やりましたよ!こちらは見事に制圧しました!」
ユイの叫び声が俺に届く。確かに鉄格子の向こう側には骸骨はいなくなったように見える。俺はカイルの様子を確かめる。
「……確かに……。向こう側の我が軍は全員そちらのお嬢さんに倒されてしまったようだ。私には向こう側のことは今、どうすることもできませんから……。それでは、交渉の続きと行きましょうか?」
カイルは、俺が交渉に応じるつもりだと思い込んでいるようだ。普通だったらそうなると思うが、俺はさっきモモカさんからの作戦を聞いて意見を変えている。さて。それではいくかな。
「ユイ、よろしく頼む!」
「はい、いきますよ!『狂化』」
ユイには『狂化』を使ってもらう。現状、俺は『平均化』を切っている状態。完全にユイのスキルそのまま。賢さはゼロになり、攻撃力だけが極限まで高まっている状態だ。更に、防御力も含めて完全に振り分けない状態になっている。
この状態で俺が使うのは、これだ。
「さて、カイル。申し訳ないけれど交渉の余地はないんだ。これから、俺は捨て身の作戦に出る。覚悟してくれよ?『交換』」
その瞬間、俺は意識が完全に切れてしまった。




