特別な日【動作課題:皿を洗う→振り返る→鼻歌→窓を開ける】
創作スタンプラリー企画様のTwitter企画参加作品です。
「登場人物が同じ行動をするお話をいろんな人で書いたら解釈や表現の違いが出ておもしろいのではないか」という趣旨で、
今回の指定は、
皿を洗う、振り返る、鼻歌を歌う、窓を開けるの四つです。
リビングの机の真ん中に置かれた画用紙には、大小様々な丸や線が踊る。散らばった色とりどりのクレヨンは床にまで落ちて、きっと何本かはなかなか見つからないだろう。
だけど、もうギリギリだ。むしろ、間に合わないかもしれない。
いつもより散らかったリビングは後回しにして、キッチンの片付けを急ぐ。
内心焦りながら溜めてしまった皿を洗っていると、くいとエプロンの裾を引かれた。振り返ると、腰あたりに不服そうな顔が覗いている。
「あら、起きたのね。床で寝ちゃったからお布団に運んだの」
すると嫌々と首を振られ、太ももに娘が抱きついてきた。苦笑しながら手をほどき、かがんで目線を合わせると、うっすら涙を浮かべた瞳はさらに険しくなった。
「ん、どうしたの? 忘れちゃった?」
そうして、私は鼻歌でとある曲のひとフレーズを口ずさむ。
「たんじょび! パパ!」
「ほら、さっきメッセージが来てたもの。そろそろパパが見えるかもよ」
途端に機嫌を良くした彼女の手を引いて、下半分が曇りガラスの窓まで歩く。残念ながら、彼女の背では窓を覗くのも難しい。
ひょいと抱き上げて窓を開ければ、ちょうど夫がこちらに歩いてくるのが見えた。
「パパっ! パパっ!」
「ほら、しーよ? パパにはナイショなんだからね」
慌てたように口を抑えた娘が代わりに大きく手を振った。
冷蔵庫には不格好な手作りケーキ。クリームを塗るのもいちごを置くのも、全て彼女がやったからなかなか前衛的な出来だ。
ついでにいちごの三分の一はすでに彼女のお腹の中である。
「ただいま!」
玄関からの明るい声に、いつも通り応えると、娘が元気に駆けていった。