人生の岐路 ★テーマ「ここは俺に任せて先に行け!」
メモリアさんの飲酒企画に触発されて勝手に書きました(飲酒なし)
「こっ、ここは僕がなんとかするからミカちゃんは逃げて……っ!」
悲痛な覚悟を秘めたようなハルトの声にミカは目を瞬かせた。自分の前には震える両手を広げて自分を庇うように立つハルト。
その前には尻尾を振った気の好さそうな犬がいる。
ついこの前の春、小学校にあがったばかりの二人は初めて二人だけで近所の公園に来ていた。そこでふと気付くと、首輪とリードをつけた小型犬がこちらに近づいてきたのだ。
真っ白い毛並みにつぶらな目をした犬は、テリアだろうか。
可愛いな。飼い主さんはどこだろう。
犬が好きなミカが考えたのはそれだけだった。だけど、どうもハルトにとっては一大事件だったらしい。
すっくとブランコから立ち上がったハルトは、ミカの前に両足を広げて立った。
そこで冒頭に立ち返る訳だが、ミカは震えるハルトを気の毒に思った。
自分にとって犬は可愛い存在だけれども、ハルトにとっては違うのだろう。ミカの母は犬嫌いで、犬を怖がる人がいることは知っていた。まさか、ハルトがそうとは思っていなかったけれど……。
「大丈夫。ここは私に任せてハルトくんは帰って良いよ」
そう言って、前に出ようとしたミカをハルトは必死に押し留めようとする。まるで二人の前にいるのが、ライオンであるとでも言うように。
はっきり言って格好悪い。
けれども、その震える手を、立ち向かう勇気をミカは心から格好良いと思った。
「ぼっ、僕は逃げないっ」
いや、逃げてもいいんだよ。
ミカは心の中で呟いた。普段はのんびりやで、ぼんやりとしたハルト。まさか自分を庇ってくれるなんて思ってもみなかった。
まったく犬が怖くないミカにとっては平気でも、ハルトにとっては辛いだろうに。
「いたっ! ごめんなさい。この子、子どもが大好きで」
やってきた飼い主さんが、リードを持とうと膝を折ると、犬はその膝に足を乗せてぶんぶんと尻尾を振った。
* * *
「で、新郎のハルトくんは今でもミカさんのために犬に立ち向かえますか?」
友人たちのふざけたインタビューに大真面目な顔で応えるハルト。その顔はすでにかなり飲まされて真っ赤だ。
「当然です!」
嘘だろ、正直に言え、と、野次が飛ぶのをミカはくすくすと笑いながら見つめていた。
「では、ミカさん? ハルトくんは貴女を守ってくれると思いますか?」
その問いに、少し考えると、ミカは口を開いた。
「そんなときは、どちらかが先に行くのではなく、二人で並んで立ち向かいたいと思います」