伝説の鎧が瓢箪型ってマジですか!? ツイてない俺は瓢箪鎧で無双する ★テーマ「瓢箪」でハイファンタジー
テーマ『瓢箪』でハイファンタジーを書けないかと他人に無茶振りしたくなり、自分で応えた結果の話です。
その小さな村を、猿のような魔物が埋め尽くしたのは昨日のことだった。最初こそ、村人は手に農具を持って、戦おうとしたものの、数の暴力の前に早々に膝を折った。
村人は家の中に籠もり、じっと地獄のような災いが過ぎるのを待っていた。今は新月。最も闇の眷属の力が強まる時節である。
あと半月。いや、せめて四半月もすれば、魔物たちは弱体化し、村人たちの手で駆逐することもできるだろう。
しかし、なんとか家の中にあるもので凌ぐといっても、数日ももつものではない。
しかも、その間も田畑は荒らされ、家畜たちも襲われていくのだ。魔物たちが去ったとしても村人たちの未来は明るいものではないだろう。
そんな中、一人の少年がそろりと家の外に出た。歳の頃は八つ。幼い弟妹と行商に出た両親を待つ間に村を占領されたため、腹を空かせ喉を乾かした弟妹を救えるのは彼しかいない。
何か食べ物。せめて水を……。
昼間の魔の力が弱まる頃ならなんとかなるのではないか。
井戸で水を汲もうとする彼の背後には、血肉を求める十数匹の魔物が忍び寄っていた。そして、そのうちの一匹が彼に飛びかかる。
ひらり一閃。金色が彼の視界をかすめた。
彼の前に現れたナニモノかは、目にも止まらぬ速さで猿もどきを斬りつけ、彼の目には強烈な赤だけが焼き付いた。
「ギンっ! あいつらまだまだいるわよ」
「わかって、い、る、よっ、と」
鈴が転がるような可憐な声に目を上げると、羽根の生えた小さく美しい女がケタケタと笑いながら少年の方へと飛んできた。
その声に応えるように、金色の鎧の若者が次々と魔物を切り捨てていく。いや、あれは鎧なのか? ずんぐりとした形状は瓢箪に似て、腰回りが不格好に拡がっている。
「うわっ」
猿と戦っていた若者がコケた。好機とばかりに、その背に猿がどんどん群がっていく。そして、数匹はぎらりと少年を見、こちらに狙いを定めたようだ。
「ほらっ! お神酒を寄越しなさい! 私の加護がないと貴方って本当に運がないのね」
「うるせっ」
そんな場合でもなかろうに、楽しげな女に若者は瓢箪を投げ渡した。そして、即座にもう片方の手で砂を掴み、少年を狙っていた猿たちに投げつける。
しかし、自らに群がる猿たちへの対応が疎かになったせいで、若者が致命傷を負うのは時間の問題だと思われた。
「うふふー。楽しくなってきたっ!」
「そりゃ、よか、ったなっ」
自分と大して変わらぬ大きさの瓢箪を受け取り、きゅぽんと栓を外した女が、それを口にするとごくごくと喉を鳴らしていく。まさか飲み干すとでもいうのだろうか。あたりに強い酒の香りが一気に拡がり、少年は思わず咳き込んだ。
その刹那。きらり。辺りが輝いた。
驚きからまじまじと女をみやった少年がその頬を染めた。赤らんだ顔をして、ぺろりと口の周りを舐めた彼女はそれほどまでに妖艶であった。女性らしくくびれた腰を強調するような衣装もまた扇情的に見える。
しばし見惚れた少年は、怒りをはらんだ猿たちの鳴き声に慌てて若者をみやった。
すると、そこには態勢を崩した猿たちを、一方的に蹂躙する若者の姿があった。血飛沫を浴びながら、確実に獲物を屠る姿は、まるで金色夜叉である。
すべての猿を倒し切ると、金色の鎧を赤く染め上げた若者は、少年に隠れているように声をかけ、さらなる戦いへとその歩を進めた。
少年は、その姿をもう不格好だとは思わなかった。
若者――ギンがまとっているのは『繁栄の鎧』
かつての勇者が身につけていた世界を平和に導く末広がりの鎧で、夢を持つ者に幸福をもたらす――という素晴らしいものだ。
ギンは、実力こそ十分にありながらも恐ろしい程に運が悪かった。その彼が幸福をもたらす鎧を手にしたのは、ある種の運命であろう。
そして、彼を支えるのは、その鎧の守護精霊のヒサゴ。彼女は捧げられた酒を幸運値に変換する能力を持つ。不運なギンは、ヒサゴの協力なしではまともに実力が出せないのだ。
三つの末広がりの装備を集め、世界を平和に導くことこそギンの夢。三瓢子が揃うことで、その性能は最大限に高められ、今は弱っているヒサゴも本来の力を取り戻すことになるだろう。
大きな目標を前に、ギンの気がかりはただ一つ。
「せめて、このだっさい形状はなんとかならなかったのかっ!?」
「うっさいわね。この曲線美がわからない無骨者は幸運値上げてやらないわよ」
ギンとヒサゴの冒険は、まだまだ続く。
酔いどれ妖精の部分は、Twitterで反応いただいたけんじ様のアイデアを戴きました。ありがとうございます。