ひょうたんなんて大嫌い ★テーマ「瓢箪」
私はひょうたんなんて大嫌いだ。
きっかけは、些細なことだ。ある日突然クラスの男子の一人が言い出したのだ。
「お前ってなんかひょうたんのアレに似てるよな」
その言葉に、彼の友人たちがどっと笑った。確かに私は、歳の割に身体の凹凸がしっかりしていて、クラスの他の女子たちよりもお尻が大きい。
かと言って、特別胸が大きいとか、蜂のようにウエストが細いとかそんなことはまったくなくて。あのずんぐりとしたフォルムは確かに自分と似ていて、だからこそ嫌だと思った。
しかも、タイミングが最悪だった。
プール開きを終えたばかりの今は水着になる機会が多い。
「ほら、ひょうたんが来た」
「ホントだ。尻でかっ」
聴こえないとでも思っているのだろうか。少し離れたプールサイドの男子たちの嘲笑は、ばっちり私に届いているし、なんなら指を指していたことだって知っている。
そして、それをこらと怒った先生のせいで一気に彼らに注目が集まる。
「でも、先生だってひょうたんに似ていると思わねえ?」
大声で続けられた言葉に、私は泣きたくなる。お前たちにはデリカシーというものがないのか。私だって、クラスメイトたちみたいなほっそりした脚が羨ましいのに。
そして、腹が立つのは、言いだしっぺのあいつが、こんなつもりはなかったとでも言うように、おろおろとこちらを見ていることだ。
あいつのせいだ。敢えて怒鳴りこむようなことはしないけれど、私はこの恨みを忘れない。
* * *
クラスの気になる女子から、射殺さんばかりの鋭い視線を受けて俺はため息を吐いた。
俺だってこんなことになるとは思ってもみなかった。第一、気になる子の水着姿をさらし者にするなんて、そんなことを望むわけがないではないか。
彼女はちょっと、ひょうたんのゆるキャラに似ていた。
マイナーなキャラだけれども、とぼけた雰囲気が可愛いと、最近よくテレビに取り上げられていて、我が家では今年のグランプリはこの子かなと盛り上がっていた。そんな母と妹を横目で見ながら、俺は、話しかけるきっかけになるかもしれない、なんて思っていたんだ。
「お前ってなんかひょうたんのアレに似てるよな」
いざ、話しかけるとなると、緊張してキャラの名前なんて吹っ飛んでしまい、口をついたのは残念なセリフだった。
だけど、これで十分に伝わるだろう。
そんな期待は早々に打ち砕かれて。友達がどっと笑い、彼女が汚物でも見るような目でこちらを見たのは、完全に予想外のことだった。
それからしばらく経っても、彼女の怒りは収まらない。
俺は、ひょうたんなんて大嫌いだ。