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越後


越後 春日山城にて



 春日山城では今、会議が紛糾していた。上杉家に同盟を求めに来たという使者を受け入れるか、否かで家臣団の意見が割れていたからだ。


「宇都宮方は自らの家柄から我々を格下と侮り、舐めてかかってているに違いあるまい!でなければあの様な小僧など使者として送って来ないであろう!」


 そう言って使者受け入れに対して反対を唱えるのは本庄実乃(さねより)


美作(実乃)殿の言う通りだ!」


「あの様な無礼者など切り捨ててしまえ!」


 これらの意見に真っ向から反対するのは直江景綱。彼は激昂する家臣達を宥め、一度会ってみるよう促す。


「本庄殿らの意見もようわかる。しかし皆様、よくよく考えてみて下され。前関東管領の上杉兵部(ひょうぶしょうゆう)少輔(・憲政)殿の養子となり、新たな関東管領となった御実城(おみじょう•謙信)様が関東に影響力を強めるよい口実となるではないか。」


「そうは言うが大和守(景綱)殿!」


……コトン


 実乃が反論しようとした時、上座から盃を置く音がした。と、ともに先程まで紛糾していた場が一瞬にして静まり返った。それは、この城の主、上杉景虎(謙信)が決断を下したときの合図だった。


「……宇都宮からの使者を受け入れる。中へ通せ。」


 その一言で、上杉家中の意見は決まった。それから間もないうちに、宇都宮からの使者、宇都宮弥三郎は広間に通された。


───────────────────────

宇都宮弥三郎



 やっべえええええええ!緊張と興奮で心臓がどっくんどっくんいって収まんねぇ!

 

 なんてったってあの上杉謙信と会えるんだ!興奮しないわけ無いだろ!しかしそれよりなんと言っても、



──場の威圧感が半端ではない。



 当然と言ったら当然だった。何故なら上杉家と交渉をする重要な使者だと言うのにその役目をまだ元服(成人)したかしてないかくらいの若造が担っている。隣に控えている付き人らしき男もまだ若く、経験不足と見られても当然だろう。

 そんな若者達が交渉をしに来た。これでは舐められていると考えられてもおかしくない。もしくは、何か策があっての事だろうと警戒されるかのどちらかだ。

 どちらにせよ、万が一でも宇都宮にとって悪い結果になる事態だけは避けなければならない。心してかからなければ。







「宇都宮家当主、下野守尚綱が嫡男、弥三郎広綱にございます。」


「宇都宮家の家臣、芳賀高定と申します。」


 場に、僅かながらざわめきが起こった。それもそのはず、同盟を結んでいる様な国ならまだしも殆どと言っていいほど交流も無く、しかも互いの本拠まではそれなりの距離も有るためたどり着くまでにはそれなりの危険が伴う。そのような場所にわざわざ跡取りを送り込んで来るとは誰も思わなかったからだ。


上杉弾正少(だんじょうしょうひつ)(・謙信)が家臣、直江大和守(景綱)と申しまする。今後ともお見知り置き下され。」


「……同じく本庄美作守実乃にござる。」


「斎藤下野守朝信でござる。遠路はるばる山を越え越後まで宇都宮家の嫡男自ら来られるとはありがたい事です。」


「柿崎和泉守景家にござる。名前だけでも覚えて下され。」


「……長尾越前守政景でござる。」


「……村上左馬頭義清と申す。」


 上杉家家臣が次々に名を名乗っていく。この際の家臣団の反応だけでも宇都宮からの使者に対してどの様に考えているかがおおよそ把握できた。

 と、場に今までに無いほどの重圧、威圧感が場に発せられた。そして上杉家家臣団の面々の表情が一斉に引き締まる。そして、奥座で一人沈黙していた男がおもむろに立ち上がった。





 ──思わず逃げ出したくなるくらいの威圧感、プレッシャーがのしかかってきた。全身から冷や汗が止まらない。

 

 そしてこう思う。これが、軍神かと。


「……上杉弾正少弼、景虎だ。下野(栃木)からの訪問、感謝する。」










 そう言うと景虎(謙信)は、手にした盃をこちら側に傾けた。


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