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元服


1558年 宇都宮城にて



(伊勢寿丸)様!支度はお出来になりましたか!」


「あー、勿論。支度は終わった。」


「上様、服装が乱れておりまする。これではまだまだ支度が終わったなどと言えませぬぞ……。」


「上様、徳雪斎殿の言うとおりです。あまりにみっともない。こんなようでは我々家臣達に呆れられて背かれてしまいます。そもそもそのような口調では威厳も何もあったものではありません。もっと品のある口調を……」


「だーっ!徳雪斎も高定もそんなことでいちいちうっさいわ!公の場ならもうちっと畏まった態度とれるわ!」



「「"公の場"だけでは困るのです!普段から次期当主らしい態度をとっていただかなければ!」」


「あまりに相応しくない態度をとるようでは、一部の家臣(壬生とか綱房とか)に廃されてもおかしくないという事を忘れずに(徳雪斎の方を見つつ)」


「その通りですな。我が兄(壬生綱房)は何分野心が強いですからな、二代前のように廃されてもおかしくはありますまい。」


「あー、わかったわかった。ほら、着付も完璧、礼儀も完璧、これで良いだろ?」


「……まあよいでしょう。さあ、皆様を待たせております、上様。早いところ広間へ赴きましょう。大事な元服の日なのですから、家臣たちを待たせる訳には行きません。」


「そうですな。某はまだ申したい事がありましたが……家臣を待たせている訳ですから、これ以上長引かせる事は罷りならんでしょう。」


「……俺への負担は無視かい……」


───────────────────────


「皆のもの、今日は我が宇都宮家にとって喜ばしい日となった!我が嫡男、伊勢寿丸がこの度元服する!」


「真ですか!」


「おめでたい事でございます」


 宇都宮家臣らが次々に祝いの言葉を述べる。皆が祝辞を言い終えると、尚綱は満足そうに頷く。そして、嫡男伊勢寿丸を呼び寄せると、家臣たちに向かってこう宣言する。


「伊勢寿丸はこれより名を改め、弥三郎広綱となる!お主ら、弥三郎をしかと支えるように!」


「「「「「「ははぁ!」」」」」」



 まあ、こうして元服した俺こと伊勢寿丸改め弥三郎なのだが……



「いやぁ、『野州の麒麟児』とも噂された弥三郎様が元服するとなれば、宇都宮家も安泰ですな!」


「『野州の麒麟児』弥三郎様がご当主となった暁にはこの宇都宮家も更に興隆することでしょう!」


「はっはっは!まあそう褒めそやすな。弥三郎も困っておるだろう。しかしまあ、それだけ期待をかけているのは同じだがな!」


「「「はっはっは!」」」


 ……家臣と親父(尚綱)に期待されすぎてて困る。


 いや、確かにね?将来生き延びるために早いうちから漢書読んでみたり武術の稽古してみたり、ちょっと大きくなってからは小姓達と山に狩り行ってそこで模擬演習してみたりしたよ?でもそれくらいで『野州(栃木)の麒麟児』だなんて、大袈裟だわ!

 結局その後の宴会で皆が酔いつぶれるまでずっと家臣にも親父(尚綱)にも絡まれ続けた。


───────────────────────

宇都宮弥三郎


 あの親父(尚綱)が自らの眼を失った戦から9年が経った。その間俺は前述の通り鍛錬を重ねただけでなく何人かの信頼できる家臣を得た。

 一人目は芳賀高定。こいつは我が宇都宮が世に誇る精兵、かつて宇都宮氏をあの楠木正成に『坂東一の弓取り』と言わんしめた『紀清両党』の一角、芳賀氏の当主である。

 ちなみに皮肉が凄い。あと武勇の家だと言うのに謀略が専ら得意。


 次に多功孫次郎綱継。こいつは『宇都宮家中一の侍大将』と言われた多功石見守長朝の孫。じっちゃん長朝さんは勿論、親父さんの房朝さんも武勇に優れており、こいつ自身も強い。それに頭も切れる。また同年代だから初めに会った時から意気投合。将来の宿老候補だ。


 最後に壬生徳雪斎周長(かねなが)。こいつはその苗字からわかるように野心剥き出しのジジイ(壬生綱房)の一族で、綱房の弟だ。

 また、兄の綱房とは違い親宇都宮派のため俺の言うことを良くこなしてくれる。更に、大野心家の(綱房)のことをよく思っていないようで俺と一緒に(綱房)を追い落とす計画を練っている。

 それになんと言ってもこいつ、山歩きの達人で幾つもの抜け道を知っており更に一流の情報収集屋でもある山伏、その一大修行地である日光山を実質的に支配しているのだ!

 つーまーり!これは宇都宮が独自の情報網を手にし、壬生の情報網を断ち切ったも同じなのだ!後は周長が壬生家中に留まり、綱房(クソジジイ)に虚偽の情報を流したり隠したりすればほら簡単に情報統制の出来上がりだい。


 まあ、そんな訳で信用出来る家臣をゲットしたんだが、まだまだ安心は出来なかった。宇都宮の位置は南に北条、北に上杉。東にも佐竹がいる。これから宇都宮が生き残っていくには、これら外の事も考えなければならない。

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