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松原の戦い・前


───────────────────────

1559年4月



 謀叛を起こし、4000の兵を率いて宇都宮へと向かっていた壬生綱房と、それを打ち破る為那須に兵を割かれ寡勢ながらも士気旺盛な宇都宮勢3000は互いの目標へと歩を進め、そして宇都宮城の西、松原にて遂に対峙した。


 両軍の大将、壬生中務少輔綱房と宇都宮弥三郎広綱が自軍より前に馬を進め、互いに向かい合う。そして大将同士が戦前の口上を述べる。


「逆臣壬生中務少輔(綱房)!今までの基様の行いは到底許されるものでは無い!それを父上(尚綱)は寛大ながらも許していたと言うのに反旗を翻すとは笑止!その首、討ち果たしてくれるわ!」


 と弥三郎が綱房を非難すると、綱房も弥三郎に向かって言い返す。


「『寛大ながらも許していた』だと?フンッ!お主ら宇都宮に儂を止めるだけの力が無かったの間違いであろう!力無き者は除かれ、力有る者が栄える!ただそれだけの事よ!……野州(栃木)に『麒麟児』と名高い宇都宮弥三郎!うぬが才に溺れ()()の兵で儂に勝てるとでも思っているのだろうがそうはいかぬ!お主が初陣を人生の戦じまいとしてくれよう!皆共、かかれ!真の戦を知らぬ青二才に戦を教えてやれ!」


「そちらがそのつもりならこちらは戦うだけだ!皆の者!逆臣壬生中務少輔(綱房)を討ち取れ!若い者共の力、老いぼれの壬生中務少輔(綱房)に見せつけてやれ!」


 そうして両軍から無数の矢が放たれ、戦が始まった。



 遂に俺の初陣だ。綱房と俺の命で後方に控えていた両軍が矢を放ち始め、そして矢が尽き始めた頃にはどちらも喚声と共に突撃を開始し、混戦になった。戦場の至る所から槍の音、指揮官らの怒声が聞こえてくる。


「……接近戦が始まりましたな。見た限り数で優る壬生勢に士気で優る我らが互角に戦っている様子。しかしいずれは壬生勢に押されることでしょう。いつ程になったら壬生勢にいる内通者に攻撃させるので?それとも森の……」


「いや、いい。このままいく。」


「……はっ。」


 こちらの兵数が少ないのを気にした高定が尋ねてくる。無論、数で劣るこちらが数を得ようとするなら得策なのだが、しかし壬生勢が数で優る分、壬生に加担した方が勝てそうだと考えた内通者が宇都宮に寝返らない可能性もある。寝返りのサインを出して、偽りの加担をしている宇都宮家臣達の兵力を徒に削る結果は避けなければならなかった。





 接近戦が始まってから2時間、遂に戦場に動きがあった。宇都宮勢を突破する壬生側の隊が現れ始めたのだ。宇都宮の軍勢は全隊戦い続け疲労が溜まってきていたが、壬生勢は数で優る為入れ代わり立ち代わり休息と攻撃を繰り返す事で宇都宮の軍勢を徐々に擦り減らしていた。


「弥三郎様!このままでは敗北は必至です!何か策を打たなくては!」


 高定が焦りを見せた様子で俺に問いかけてくる。それに併せて本陣に控える面々にも焦りの表情が浮かび始めた。


「大丈夫、策はある。……もうそろそろだな。兵をまとめ、北に移動しろ!途中で分かれても構わないから隊ごとに北の森へ入り込め!」



 


 綱房は俄に宇都宮勢が崩れ始めたのを感じた。宇都宮勢は徐々に北へと潰走を始めている。


「勝ったぞ!」


「勝利だ!」


 壬生勢のあちらこちらからそんな声が聞こえる。中には無断で追撃を始めている者もいる。


「我々も追撃するべきだ!」


「そして宇都宮弥三郎の首を討るのだ!」


 本陣に集まっている壬生方諸将のうち、血気に逸る者達が追撃するよう主張している。確かに、壬生勢にとっては宇都宮の跡取りを討ち今後の戦いを有利に進めることができる。だが綱房はこの潰走にどこか違和感を感じていた。


(いくら急ごしらえで少数だからといえ潰走時に一回も反撃が無いなどあり得るのか?……もしやこれは罠か!森に引き込んで手痛い反撃を食らわせるつもりだな!)


「各々方、これは奴らの罠かもしれぬ。奴らは森に引き込んで反撃を食らわせる気であろう。ならばわざわざ相手の罠にかかる必要などあるまい。ここは奴らを素通りし、宇都宮城を先に抑えておくべきなのではないか?」


 綱房はそう言って弥三郎らが仕掛けたであろう罠を回避する案を提示する。しかし最早戦に勝利したつもりになり、今後の壬生家による支配下でいかに影響力を強められるかしか考えていなかった諸将にその言葉は通らなかった。


「その様な事を言って我々に手柄を立てさせないつもりだろう!」


「汚いぞ!中務少輔(綱房)殿!」


 そこまで言われては綱房にも打つ手が無かった。そして壬生勢は勝ち戦に酔いながら手柄を求め弥三郎らの逃げ込んだ北の森へと向かうのだった。


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