初陣
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宇都宮城にて
綱房らが広間から退出した後、尚綱が立ち上がり、弥三郎の方へと向かって来た。
「……やるべき事は全て為した。覚悟も決まっている。儂はこれから兵を率いて那須へ出兵し、中務少輔が挙兵し易くする。お主は芳賀、多功らの兵を率いて壬生を叩け。儂も那須を収めたらそちらへ急ぐ。……親として嫡男の初陣を見られぬのは口惜しいが、お主の考えた方策を行うにはこうする他あるまい。弥三郎、武運を祈るぞ。」
それだけ言うと尚綱は自らの戦支度の為に広間から出ていった。
尚綱が那須との戦に宇都宮城を発ってから3日後、当主のいない宇都宮城に壬生中務少輔謀叛の一報が入った。物見の報告によると綱房は親壬生派と手勢併せて4000余りの兵を率いて居城鹿沼城を発ちここ宇都宮城へと向かって来ているという。
とうとう俺の初陣が始まる。しかも最初の相手があの北条(と綱房)!これで心が高鳴らないわけない。だがそれと同時に大きな不安もあった。
──もしかしたら死ぬかもしれない
しかし、それを今考えても何も始まらない。頬を思いっきり叩いて気持ちを切り替える。
「高定!上杉に遣いを送れ!同盟に従い、宇都宮への救援を要請しろ!才助!徳雪斎に連絡をとって壬生からの遣いが北条までいくのを出来るだけ遅れさせろ!孫次郎!兵を宇都宮城に集めろ!」
「はっ!」
「りょーかいっ。」
「承知!」
さあ、俺の初陣の始まりだ!未来人の力、見せてやるよ!
……え?北条と最初から戦わないのって?やだよ、壬生と北条を一度に相手するの。そんなの出来るだけ短いほうが良いに決まってる。それに少し耐えれば謙信が来るんだから、わざわざうちらだけで大軍とぶつかって戦うなんて馬鹿馬鹿しい。
って事で俺も戦支度をする。鎧兜を着たあとは、人が集まるまで待機。
「皆のもの、今日は宇都宮によく集まってくれた!誠に感謝する!」
城に宇都宮家臣がそれなりに集まった事が確認出来た為、俺は突然の戦支度を命じられ、困惑する家臣らに向かって声を掛ける。
「本来ならばその労をねぎらいたい所だが今までその様な時の猶予は残されていない!」
その言葉に、家臣らがざわめく。それを俺は抑えると、皆に向かって綱房が叛いた事実を伝える。
「壬生中務少輔が我らに叛いた!北条の後ろ盾を得、奴らは今もここ宇都宮城へと向かって来ているらしい!」
家臣達のざわめきは更に大きくなり、心配の声も聞こえ始めた。それを抑えながら、話を続ける。
「それでだ!皆には壬生中務少輔を討つことに力を貸して欲しい!壬生中務少輔によって専横され、他国の横槍で永らく阻まれていた下野の静謐を果たす為に、皆の力を貸してくれ!」
しん、と場が静まりかえった。誰も口を開かない。
北条が後ろ盾にいる事を言ったのがマズかったか、それとも下野の静謐だとか大それたこと言ったのが間違いだったか。いずれにせよ失敗した、そう思いかけた時だった。
「それがし君島高胤、弥三郎様の想いに感動致しました!某も宇都宮、ひいては下野の現状を憂いておりました。我ら大須賀党、改めて宇都宮家に忠節を尽くさせて頂きとうございます!」
この声で一同の意思は決まった。その場に集まっていた者の全員が兵を出すことに同意し、綱房と戦うことを決めた。
よし、俺の伝説の始まりだ!北条も綱房もかかってこい!目にもの見せてやる!
……ゴメン、伝説は言い過ぎた。もうちょっと控えめに"俺の活躍"位で頼む。