帰路
「弾正少弼殿、数日の間でしたが、随分と世話になりました。もう少しここにいたいのはやまやまですが、そろそろ戻らなければなりません。これまでの心遣い、誠に感謝しております。」
「……こちらこそ今回の同盟は願ったり叶ったりだった。盟を結べたこととても嬉しく思っている。では、一年後にまた再会するとしよう。」
宴会から数日の逗留の後、上杉家の元を辞し俺達は宇都宮へ帰路につく事となった。
「弥三郎様。無事に上杉家と盟を結べて良かったですな。拙者も誇らしい限りです。」
道中、高定がそう言って誇らしげに言うが、こっちとしてはすげぇ恥ずかしかったぞ。お前の宴会でのひでぇ有り様が。
「いんやー、弥三郎様の弁説、裏から聞いてたけど凄かったっすねー。」
と、軽い口調で俺を持ち上げてくるのが今回宇都宮まで出張ってもらう上杉家所属忍者の才助。忍者のイメージをこいつがことごとくぶち壊して来やがった。まずお喋り、て言うか騒がしいって時点で忍者に向いてない気がする。あとは派手な事ばかりしたがる。てかそれってもはや忍べてないからね。
そんなもんだから謙信に忍者連れていいかって聞いてこいつが現れたとき、三度は尋ねたね。「ほんとにこいつ、忍ですか?」って。
まあ、謙信曰く「腕は確か」らしいから大丈夫だと思うんだが。
何はともあれ、宇都宮家の北条家との対決に謙信を巻き込む事ができた。これで多分ボロ負けはしない筈。外の問題はこれで終わり。それよりも内の問題の解決方法を考えなくては。
恐らく、綱房は俺ら宇都宮の軍勢が那須に進軍し始めたら反旗を翻し、北条とともに俺らを押し潰すつもりなんだろう。そしたら俺らは上杉に助けを求め、謙信が駆けつけてくる。
つまり、俺らに必要なのは上杉が助けに来るまで壬生と北条の猛攻を凌ぎ時間を稼ぐ事だ。時間を稼いで稼いで稼いで攻め手を疲労させ、そして上杉と共に最後に叩き潰す。これが理想。
その為には何をするべきか。それは簡単。宇都宮領内にガチガチの防御陣地でも作ってそこに引き付ける。まあ、そんな上手くはいかないだろうけど。
あとは森や山に潜んで補給線をぶった切る事だね。それで北条・壬生を飢えさせ、後方撹乱で疲弊した所を叩く。これが一番安上がりで簡単な策だとは思う。
ってことで、要するにゲリラ戦術を行う為に、上杉家から忍者を貸し出してもらった訳。
ん?貸し出してもらったのる引き抜いたんじゃなくて?情報筒抜けじゃないの?だって?
いやぁ、だって引き抜けるならそうしたいけどそれで上杉との関係が悪くなったら困るし?あと上杉を攻撃するつもりはないんですよーっていうアピールになるかと。
まあ、可能ならいろいろなエサで引き抜く気満々だけれどな!
「おー、弥三郎様、城が見えましたよー。あれが殿の居城で?」
気付くと、もう宇都宮城の近くにいた。
「ああ。ここが宇都宮だ。どうだ、いいとこだろ?」
「そうっすねー。やー、越後よりは暖かそうだ。」
「それは、まあ。宇都宮の方が南にあるからな。それはともかく、これからはよろしく頼むぞ、才助。」
「若様に頼まれたならしゃあねえな。ま、期待以上の働きはしてやるから見てなって。」
「どうかな?俺の望みは高いぞ〜?」
そんな軽口を叩いていると、しばらくして迎えの家臣がやって来た。徳雪斎と綱継だ。
「弥三郎様のお帰り、皆が首を長くしてお待ちしておりましたぞ。ささ、早う城にて皆共に顔をお見せ下さい。」
「皆が交渉の結果を知るのを心待ちにしております。早く中に入りましょう。」
そう徳雪斎と綱継に急かされ、城へ早足で向かわされる弥三郎。その後を高定と才助は後ろに付いていった。
「……なかなか面白そうじゃないの。宇都宮弥三郎様よ。」