7「薪割りって意外と難しいな」
次の日、朝食を早々に終えたゼグは、近くにあるという集落に出掛けて行った。
僕は昨夜ゼグに頼まれた事を実行するため、気合い十分に家の外へ。
「う――ん、これかぁ。結構あるよな」
それは、高積みされた丸太の山。
これを割って薪を作る仕事だ。
どうやらこの家では、炊事やお風呂の火力は薪によって賄っている。
というか、この世界の生活スタイルがそうなのだろう。電気やガスなど無い。
魔法の世界では常識なんだな、多分。
薪割りは、地味なのに結構疲れる作業。でもお世話になってますから、しっかりやりますよ。
「え~っと、道具は……これだな」
幾つか立て掛けてあった道具の中から斧を選択。
すると後ろから先輩が、
「昨日、爺が持っていたのはこっちだったぞ」
先輩が指差したそれは、紫色の血糊が付着した斧だった。ゼグはそれを武器として使っているのかな。
「先輩それは木を切り倒す斧です。薪割りはコレを使います」
「へえ、使い分けがあるのか」
「一応ね。別にコレじゃなきゃって訳ではないですけど、効率良くやるならって感じです」
そして僕は、薪割り用の斧を持ち上げた。
「あれ?軽い」
通常は、刃の付いた鉄の部分は重く、重心バランスが偏っている。
でもここまで軽いと、重心バランスは気にならい程だ。
「ほう、マサキもそうか」
「先輩これって」
「どうやら異世界に召喚されたアタシ達は、身体能力が数倍にもなっているらしいぞ」
なんと、異世界に来て初のチート情報ゲット。
僕は手に持った斧を軽く振ってみた。凄く扱いやすい。
「これなら思った以上に薪を作れそうです」
「ふ~~ん、まあ頑張れや」
先輩は手をヒラヒラさせて、家の中へ戻っていった。
って、おい!
そこの資産家のお譲さま! 少しくらいは手伝おうとは思わんのかい!
しかたなく僕は一人で薪割りを始めた。
実は薪割り、得意なんだよね。
いまどき薪割りなんてする?って思うかもしれないが、ド田舎のお宅では薪の需要は今でもあるのですよ。
僕の家には薪ストーブがあって、冬場に向けて薪を作り溜めしておくのが北澤家の恒例行事。
小さいころから薪割りを手伝っていたんだ。
でも最近になって、薪割り機なるメカを購入。技術の進歩って凄いよね。
炎天下の中、黙々と割っていく。
しかしこの服装、改めて見ても超ダサイ。
まるで『農作業やってくれ』位の地味な作業着。これは女の子が着るには厳しいなあ。僕だって他に着る物が無いから仕方なく。
早い事、この世界に合った服装を手に入れないとだな。
でも何で僕はこの服装になっていたんだろう。
労働をするには、さすがに真夏の日差しは厳しいな。
熱中症には気を付けて、とりあえずお昼までは頑張ろうとバンバン丸太を割っていった。
時々ミレンが畑の手入れに出てきて、「マサキさんがんば」と笑顔で声を掛けてくれる。冷たい飲み物も持ってきてくれた。やさしいなぁ。
よし、もう少し頑張ればお昼かな。
そんな事を考えながら淡々と薪を作っていると。
「マサキ、楽しそうだな」
「わっ! びっくりした」
丸太に腰掛け頬杖を付いて、僕をジっと見ている先輩がいた。
「別に楽しくはないですよ。いつからそこ居たんですか?」
「ああ、30分程前かな。ミレンがお昼の準備をしだしたから……暇」
結構前から居たんだ。
いやいや、せめてミレンのお手伝いして下さい!!
何もしない、そんだけ徹底していると逆に清々しいですけどね。
それから暫く僕の薪割りを眺めていた先輩が、ぼそりと呟いた。
「アタシたち、こんなにのんびりしていて良いのだろうか……」
「う~~ん、アキでも探しに出ます?」
「……ああ、そうだな。でも、どうだろう」
ええ!? どっちなんですか!
僕は薪割りの手を止めて、先輩の方を向いた。
彼女の視線は、斧を捕えていたのだ。
「それって剣を振るのと大して変わらない様にみえるな」
おや? もしかして薪割りに興味津々なのですね。
「剣を振るのがどんな感覚か、僕は知りませんけど。やってみます?」
持っていた斧を、先輩に渡した。まんざらでもなさそうだ。
「こ、こうか?」
斧を上に構えた。
「はい、そこから丸太の中心目掛けて真っ直ぐ振り落として下さい」
「――――――――」
「………先輩?」
「――精神統一だ」
いや、薪割りに何もそこまで。
「行くぞ! えぇぇぇぇいっ!!」
先輩は力いっぱい斧を振り下ろした!
それは超高速で目標目掛けて降りる。力の入った彼女の表情と合わせると、まるで大鎌を振る死神のようだった。恐ろしい。
だが直後、スカッッという空を切る音が聞こえた。
「……薪割りって意外と難しいな」
「…………」
この後、丸太が割れる様になるまで、暫く時間を要しました。
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昼食まであと少しの時に、その事件は起こった。
薪割りに熱中していた僕達の側へ、集落の男が血相を変えてやって来たのだ。
「ハァハァ――、ミレンは居るか!」
全速力で走って来たのだろう、大きく肩で呼吸をしていた。
「はい、あのどうかしました?」
「ゼグさんが、ゼグ爺さんが大変だ! 魔獣にやられた!!」
2019年3月24日追加投稿