6「ゼグ老人御帰宅につき」
帰って来た老人はゼグと名乗った。
僕とゼグは、挨拶をそこそこに家の中に戻った。
「おかえりなさいませ」
とミレンの弾む声が聞えた。
ミレンと先輩は玄関直ぐの大部屋でテーブルの椅子に座ってティータイム中だ。
どうやらミレンは夕食の支度を終えて、一息ついていたのだ。
そして、猪を抱えた老人が目に入ると彼女達は大喜び。
「爺は、そんなもの捕っていたから遅くなったのか」
「すまんすまん。モンスター共はサクっと倒したんだがな。帰りに偶然コイツと遭遇しちまったもんだから、捕まえるのに必死になってな」
「今夜の分はもう作っちゃいましたから、猪は明日にしましょうね」
なんだかイイ雰囲気。まさに平和だよね。
そんな和やかな空気とは裏腹に、この部屋の至る所に物騒な物が沢山ある。
装飾品や武器類が壁一面に掛けてあって、主に長剣や短剣が多かった。更に部屋の角には、まだ数本の剣とか斧や、それってどうやって使うの? って物が立て掛けてあったのだ。
猪を抱えたゼグと、夕食の準備をするミレンはキッチンの方へ。
テーブルに頬杖をついていた先輩が、何か収穫あったか? と僕に訊いてきた。
「いいえ、これといって。遠くに山脈が見えた位でした。おそらく東西に」
「ああ、あの山な、アタシはどっかで見た気がするのだが……」
「僕もそうです、少しだけ気になりました」
「高台か開けた場所に行ってみたいな、全貌が見えれば見当がつくかもしれない」
ここが異世界というからには、僕達が住んでいた現世とは何もかも違うのは確かだろう。でも記憶の隅で何かが引っ掛かっているような気がした。気のせいかもしれないが。
そうこうしている間に、夕食の準備が整った。
皆で手を合わせて「「いただきます!」」これ、一緒なんだね。
そうだ、僕はこの家にお世話になろうと思っていたんだ。
僕は思い切ってゼグに相談してみた。
「おお、そうか。色々と手伝いをしてくれさえすれば、構わんぞ」
やった、交渉成立。
「なんせそこにふんぞり返っている小娘は、何もやらんからのう」
せんぱ~い! お譲さま育ちだからって、なんちゅうことしてるんですか!
仕方無いから二人の分を、僕が働きますけどね。
とにかく、宿の心配は何とかなった。
「そう言えば先輩。さっき外で魔法使えるかなと思って、小枝を杖代わりに真似ごとやってみたでんすけど」
「何か起きたか?」
「全然何も起きませんでした」
「ああ、それな。アタシたちMPゼロらしいぜ。ついでに付け加えると、使えるようになる見込みもゼロらしいぜ」
「え!!」
まさかの事実発覚であった。
魔法の世界に召喚されて、魔法が使えないってどういう事!
「魔法を扱うにはその人の持っている魔力がひつようなんです。魔力は訓練でその容量や力量が決まってくるのですが、魔力そのものを会得するには年齢制限があります。あ、個人差はありますけど、大体8歳から10歳までです。それ以降はどんな努力をしても魔力を会得することは出来ないんです」
ええ! そんな縛りあんの?
魔法チート能力で、夢の異世界生活が。
じゃあ、魔法の世界に来た意味ないじゃん、と僕は落胆した。
「私たちが青い瞳なのは、魔力を会得している証みたいなものです。赤ちゃんの時はイズミさん達みたいに瞳が黒色です。で、幼少時期に教育を受ければ、誰でも魔力を得られて青い瞳に変わっていきます」
「ああ、だから集落の人達は皆青い瞳だったのか」
「そうですイズミさん。魔力が強力な人ほど明るい青色になっていきます」
「じゃあ、目の色具合で大体の力量が判るってことですか」
「ええ、目安にはなると思います。あとは得意な魔法が人によって異なりますから、一概に瞳の濃さで判別できない場合もあります」
「俺は黒色だから、一切魔法は使えんぞ」
ああ、確かに。ゼグの瞳は真っ黒でした。
そんな爺さんは突然何か思い出したようで、両手をポンと叩いて、
「おぅそうだ。俺は明日、集落に行かなければならない。お前達、留守を頼むぞ」
そう言って、急いで食事を終わらせようとしていた。
「わかった、任せておけ」
と、何故か自信満々に答える先輩。
「気を付けて行って来て下さいね」
女房みたいに言う孫のミレン。
「それと、若造。お前に頼みたい事がある。この家に寝泊まりしたいのだろ」
ゼグが僕に頼んだ事、それは……。
2019年3月24日追加投稿