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5「この家にお世話になろう」

 

 体の自由を取り戻した僕は、色々と辺りを見回してみる。


 とりあえず今いる部屋。

 何も無い天井、板張りだけの床、壁に鏡が1枚掛けてあるだけで、なんとも殺風景な部屋だった。


「なんというか、シンプルな部屋ですね」

「ミレンと爺が住んでいる家だからな」


 先輩、なんだか失礼な言い方だと思います。あ、僕も同じか。

 ミレンは夕食の支度があるので、今はここにいないのでセーフ。


「アタシは今、この家で厄介になっている」


 そうだよね、先輩は異世界に来て1週間。さすがに野宿っていう訳にはいかない。

 僕も野宿は御免だな。だったら、


「僕もお世話になろうかなぁ」

「この家の主は筋肉質の爺だぞ、自分で交渉するんだな」

「ええ―、一緒に頼んで下さいよぉ」


 ミレンのお爺さんは、もうすぐ帰ってくるらしい。

 先輩の話によると、あの猿の様なモンスターの群れと奮闘中との事だ。大丈夫か?

 かなりの強者なので心配するだけ無駄だからと、先輩は太鼓判を押していた。


 そんな凄い人物と交渉なんて、僕の精神は耐えられないと思う。


「ところで先輩」

「ん、なんだ」

「この世界から元の世界へ帰る方法って知っているんですか」

「いや、知らない」


 ありゃ、手掛かり無しなんですね。それは困った。


「ただ、闇組織か1番目の少女が知っている可能性がある」


 う―ん、闇組織はちょっと難しいと思いますよ。そもそもこっちの世界に来てくれないとね。

 気になるのは、1番目の少女か。それって、僕達は2、3番目って事?


「そうだ。マサキは覚えているか、2カ月程前に町立病院から少女が消えた事件」

「覚えていますよ。先輩の時と一緒で、かなり大騒ぎになりましたからね」

「……そ、そうか」

「そうですよ! 町のみならず、学校中が大変でしたから。外出禁止令も出てましたからね」


 そんな僕は、その禁止令を破ったから、今現在こうなっている訳で。

 ああ、僕も行方不明になっちゃったから、今頃皆で大騒ぎになっているんだろうな。


「それは心配する人がいればの話だろ、ハッハッ!」


 って、酷い先輩。


 でも、僕の親友A君は直ぐに警察に届けてくれたよね。信じているから。

 おっと、1番目の少女の話だった。


「そう、その少女はアキという名だ。この世界に来て一度だけ遭遇した」

「で、どんな感じでした?」

「あれは正気じゃ無かった」

「え、なんで?」

「解らない。悪魔に取り憑かれたか、殺戮を楽しんでいるのかそんな感じだな。その時はアタシも意表を突かれてどうしようもなかった」


 それはそれで結構厄介なのでは。その少女は何の躊躇いもなく攻撃してくるんでしょ、ヤバくない?


「だからアキを捕まえて、正気にすれば何か情報を得られると思うのだ」


 今は何処に潜んでいるか見当がつかないらしいので、偶然の遭遇に期待なのだとか。

 異世界なんだから、何処か近くに預言者とか、占い師とかいないんですかね。そしたら手っ取り早く見つけられるのに。


 いや待てよ、帰る方法教えてくれんじゃね。僕って頭イイ~。



 *******



 とりあえず体の調子が良くなったので、僕は家の外に出てみることにした。


 ミレンに、家の周りだけにして下さいといわれた。どうやらこの家の周りには、魔物やモンスターから守るために『退魔石』という物で結界を張っているらしいのだ。

 結界の外に出たら、命の保証は出来ませんと脅された。


 そんな事言われると、まあまあ怖いよね。家の周りをグルっとする位にしておこう。



 そろそろ夕方なのに暑いなあ。こっちの世界も今は夏か、ヒグラシが鳴き始めていた。


 木造の平屋の家は、魔法の世界では至って普通の一軒家だった。

 そんな家でも、二人で暮らすには十分以上の広さがあるようだ。居候出来るように、ちゃんとお願いしようっと。


 家の近くには井戸があり畑もあった。キュウリ、トマト、キャベツなど幾つかの野菜が育てられている。畑の奥の方には西瓜も見えた。この暑さだし美味そうだぞ。


 家の周囲を見回しても大きな木々に囲まれていて、遠くの景色が見えなかった。林と言うほど木々は密集していないが、それぞれの木が大きいため外周の様子を見ることが出来ない。唯一この家と繋がっている一本道があるだけ。紛れもない一軒家だし。


 ただ全く何も見えない訳ではない。大きな木々の上に山脈が見える。太陽の位置から推測すると、この山脈は東側と西側、両方に聳え立っている。

ただし、それは自分のいた世界での常識であって、この世界では方角の概念が違うかもしれないしな。


 だが僕はふと思った。この山々を知っている、何処かで見た記憶があると。

でも今は思い出せないなあ。



 更に歩いていると、足元に小さな木の枝が落ちていた。

 僕はそれを手に取って見る。何となく魔法の杖に見えなくもない。


 魔法の杖(仮)を正面に構えて、精神統一。


 感じる、体の内側からエネルギーみたいな何かが、湧き上がるような気がする。


 よし! 映画で見た超有名な魔法使いの呪文を唱えてみるぜ!!


「%&#$+<&#―――――ッ!!!」



 何も起こらなかった。



「何をやっとるんだ、若造」


 突然大声を掛けられ、僕は心臓が飛び出るほどビックリした。

 野太い声のする方を向くと、そこには猪を抱えた筋肉質の老人が立っていた。


2019年3月24日投稿


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