2「僕が探し求めていた人が側にいた!」
「ワァ~~~~~~っ!」
僕は絶叫を発しながら目覚めた。酷い夢を見ていたようだった。
――って、ここドコだろう?
今度は知らない部屋の、ベッドの上に寝ているようだけど。
そもそも、町の中を歩いていただけなのに、
気が付けば、林の中を疾走する女の子に担がれて、見た事も無いモンスターに襲われそうになるなんて……ありえない。
「目を覚まして早々、うるさいやつだな」
あれ? この声は、夢の中の女子の声?
ま、まだ幻聴が聞こえるだなんて。
「おい! 無視すんじゃねえよ、北澤マサキ!」
いや今、ハッキリ聞えた。
しかも僕の名前を知っているぞ。
僕は声のする方へ顔を向けた。
そこには、椅子に腰かけ足を組んでいる、見るも美しい女の子の姿が……って!
「お、お、お、小野イズミ先輩!」
まさかとは思ったが、間違いない!
僕の憧れの先輩、我が地元高校が誇る創設以来初の女子生徒会長『小野イズミ』だ!
彼女はなぜかRPGで言う村人NPC風の服装だった。綺麗な長いストレートの黒髪、綺麗に整った清楚な顔立ちに、それほど主張していない胸にスレンダーな体、そして個人を特定するにあまりにも特徴的な黒手袋。
彼女の事を四六時中思っている僕が、見間違う事など100%あり得ない。
誰もが憧れているカリスマ的存在の女性。
僕が1度でもいいから会話をしてみたいと思っていた夢の存在でもある。
それが今、目の前に現実となっている。夢でなければ……
いいや、たとえ夢であってもいい。ああ、神様ありがとうございます。
こんなにも早く彼女に遭遇出来るなんて!
一週間程前に行方不明となった小野イズミ。その彼女を探し出そうと友人宅に向かっていた僕だったが、なんだか都合のイイ話。
これも生徒会長親衛隊員(非公認)の成せる業か。まいったぜ!
とにかく、先輩の無事が確認出来たので一安心だ。
「…………」
いけない、何か会話をしなければッ!
「せ、先輩。無事だったんですね」
やばい、緊張で声が震えている。
「あんな事でやられてたまるか!」
「え、何のことです?」
「お前こそ何の話を?」
「あのぅ、先輩が失踪した件ですが……」
「ああ、それな」
何故か一瞬不服そうな表情を見せた彼女だが、直ぐに元通りに。
あぁでも僕は、小野イズミと会話してるぅ。感激です!
「ぼ、僕たち心配したんですよ。先輩がいなくなっちゃって、皆大騒ぎだったんです」
「そうか……そうだよな、あれから1週間だからな」
「ですよ――。でも安心しました、先輩の元気な姿を見れて」
僕の安堵の声に、なぜか先輩の表情は曇っていた。
「……安心した……か、今度はマサキも行方不明になったんだぞ」
え、何言ってるんですか?
僕はいまこうやって先輩と会う事ができているのに、それ程広くないこの部屋で……こんなピクリとも動かない体で……二人きりで……って、あれ?
もしかして、僕も拉致られたぁ!
そして体が麻痺してるぅ!
「あ――言っとくが、アタシ達は拉致監禁されてはいないぞ」
いや先輩、意味がわかりませんよ。
行方不明になった人間が、拉致監禁や殺害遺棄、まさかの自分探し以外に何があるというのですか!
「異世界だ、それも魔法の世界。そこへアタシとマサキが召喚されたのだ」
――えッ! 何それ。
いやいや、冗談でしょ。やだなぁ先輩、僕を騙そうとしても駄目ですよ。そんな話信じられる訳無いでしょ……ってあれ?マジ、マジなの、マジで言ってるの?
先輩の表情を伺うが、真剣そのものだった。僕も一端心を落ち着かせて考えてみた。
何か思い当たる事は無いか、前日から変だった事……
あ、確か親友A君とLINEしていて、『明日イズミ先輩捜索しようゼ』って突然切り出してきたな。あれって、お互い小野イズミが心配だから言ったのかと思ってたけれど。
そうか。 解りました先輩! これはドッキリですね。親友A君のサプライズ的な。
そうですか、ハハッそうですよね。そういう事ですよね。
安心して下さい先輩、僕は最後までこの企画にきっちり付き合いますよ。
しかし、親友A君のサプライズには参ったな。既にイズミ先輩を探し出していて、まさかここまで仕組むとは……この心遣い、ヤバい目から涙がこぼれ落ちそうだよ。
よし、だったらネタばらしの瞬間は、最高のリアクションをカマすから期待していろ親友A君!
そうと決まれば、話を会わせるしかないでしょう。
「巷でよく言うファンタジーワールド……みたいな」
「まあそんなところだ」
意外と合ってた。
先輩は困惑の表情を浮かべて、話を続けた。
「アタシもこの世界に来てから今まで色々と調べてきたが、どうやら異世界で間違いないと思う。いや、あるいはバーチャルゲーム世界かもしれないな」
「どっちの可能性もあると……」
「ああ、アタシはこの手の世界感には疎いのでな」
まあ無理はないと思いますよ。普通に考えたらあり得ない事ですから。
そんな彼女の発する言葉に力が入ってきていた。いい感じです先輩!
「だが確実に言える事は、闇組織の陰謀で間違いないという事だ!」
闇組織? また謎ワードが出てきた。
「その悪意ある闇組織に、アタシ達はここに強制召喚させられたんだ!」
白熱の演技。僕も信じきった顔をして真摯に頷く。
「そこでだ、マサキ」
よし、キタ!
「まずは、その動けない体をどうにかしないとな」
そうだ! なぜ動けないのか解らない僕の体。首から上は自由だから、きっと何かに拘束されていると思う。ここは一先ず先輩の話に乗るしかないだろう。
「あはは、動けない。どうしたもんですかねこれ」
僕の困った表情をみた先輩は、目を細め唇の端を吊り上げた。
「今なら、アタシの好きにして良いという事かな」
などと言い放ったのだ。
ああ、構いません。全然構いません。先輩の好きなようにしちゃって下さい。こんな僕の体で良ければどうぞ遠慮なく。
顔が熱くなっているのが自分でも判った。今たぶん助平顔。
シャキン!
………って、えェェエエェェェ!
隠し持っていた長剣の切先を、僕の喉元に突き付けてキタ――!
「さあ、知っている事を洗いざらい話してもらうぞ!」
先輩の顔が怖い、まるで下手人を裁く金四郎の如く。
ちょ、ちょっと待ってもらえます?
確かに、先輩には言えない秘密はいっぱいありますよ。ねえ親友A君!
近頃は、ストーカーまがいの事をやっていたかも知れないです。それはA君も一緒だよ。
「事と次第によっては、貴様を許す訳にはいかないからな」
「えっと……その、な、何をお話したらよろしいので?」
まずい、まずいぞ。下手な事を言ってしまったら、それこそ僕はもうお終いだ。
言葉選びは慎重にしないと……
それよか、早くネタばらしに来てよA君!
先輩が。「闇組織は――」と言ったところで、ガチャッと扉が開く音がした。
やった――――! ネタばらし!
さあ来い! ドッキリを明かすのだ、僕の親友A君ッ!