19「剣技の修行」
高台から戻ってきた僕達を迎えていたのは、厄介物を見るような人々の視線だった。
魔獣撃退を成功した晩は、それなりに感謝されていた。今朝方出発する時だって「お前たち、昨日はありがとな」と、声を掛けられていたのに。
高台から戻ってくると、集落の空気が一変していたのだ。
「……助けてもらった人達にこんなこと言うのも何だが、君達には直ぐにでもここを出ていってもらいたい」
と、集落の代表者が僕達に告げた。
魔王の支配下にあるモンスターは、ルールさえ守っていれば人々を襲う事は無いらしいのだ。そのルールってのは、一定距離近づかない・目を合わせない・大きな音を立てない。って、普通じゃね?
とにかく、現住民はむやみに襲われない。村や集落を退魔石なる物で防御する必要も無いとの事。
一方、先の大戦でこの結界の中に閉じ込められていた外部の傭兵や魔剣士などは、その殆どがモンスターに襲われ殺されてしまったのだとか。
モンスターが現住民を襲わない理由については解っていないらしい。
そっか、僕達は外来者だもんね。
僕達がここにいれば、魔獣に限らず今直ぐに他のモンスターが襲来してこないとも限らない。
彼らにとっての平穏な日常を壊して欲しくなから。
だから早いとこ此処から出ていってほしいと、人々が思う気持ちが伝わってきた。
タミとゼグは、僕達を庇って精一杯の説得をしてくれた。しかし、それでも住民達は折れてはくれなかった。
それどころか、「ゼグもしばらくは近づかないでくれ」と言われる始末。
申し訳なさそうにしていたタミにお礼を言って、僕達4人は集落を後にした。
*******
ミレンの家に戻ったら、早速剣術の修行が待っていた。
まだキズが癒えていないゼグは、構えや動き心得などを事細かく指導する役。
その教えを元に、実際の立会でイズミ先輩と合わせて確認といった流れ。
実戦的な手合わせは、基本をしっかり覚えてから……のはずだった。
この時の彼女の表情は、瞳がギラつき唇は常に半笑いの狂人に。夢に出てきそうな位の恐怖です。いや……実際数日夢に出てきました、マジで。
「若造よ、教え通りの動きを確認だ。先ずは動作を見てやるから、ゆっくりとやって見せろ」
ゼグの指示に従い、先輩と一緒に木刀を合わせる。
切先が触れた瞬間、先輩の狂気に満ちた太刀が飛んでくる。
「メエエェェェェェ―――ン!!」
いやいや、初っ端から容赦のない攻撃とかあり得ないでしょう?
してやったり顔の先輩と、地面にひれ伏す僕。
指導者のゼグは困り果てた顔で佇んでいた。
いきなりの実戦ブッ込みとは……ていうか、そもそも一回も練習動作ナシですよ。
さすがは先輩、新人クラッシャーの異名を持つだけの事はある。身をもって実感致しました。
だがしかし、だがしかしだ。
僕もやられっぱなしで成長しなかったわけではない!
先輩の理不尽な攻撃を受け続けた事によって判明したんだ。
僕に与えられた特殊能力が。
それを僕は《ヘヴンズタイム(仮)》と命名した。
ちょっとカッコいいでしょ。
あの魔獣を倒した時の感覚。敵対した相手の動作や、周囲の時間の進みが遅く感じられた現象だ。
相手を意識して集中すればするほど、その効果が大きくなっていく。
調子が良ければ、ホントに時が止まったんじゃないかと思う位まで引き出せた。一瞬だけど。
そんなスローな時間の中で、自分の体は自由に動けたんだ。逆に言えば、僕が瞬間的に超高速で動いているように見えるのかな。
とにかく、全ては集中力。
先輩の理不尽なまでの攻撃を受けまいと、意識を彼女の動きに集中する。
構えている木刀で受けるか、あるいは体をずらして避けるか。
相手がスローならどっちも出来そうだ。
でも、問題はこっから。
スローで迫ってくる先輩って、超魅力的なんだよね。
透き通るような瞳で、今は僕だけを見ているって。これぞまさに、天国の一時!
思考する時間も増えるから、邪な考えも入って来る訳で。
余計な事を考えると、スキル効果は即終了。
そうなると次の瞬間には彼女の木刀の餌食になっているという無様な結果に。
扱いが難しいな、これは。
そんな訳で僕の修行は、初歩的な剣技を一応習得。後はほぼスキルのお陰でなんとか乗り切りれた。
先輩の告げた予定より2日ほど過ぎてしまったが、超過酷日程を無事終了したのだった。
次の日の朝。先を急ぎたい先輩は、早朝から支度を整えていた。
僕はゼグから、片手で扱いやすい剣と護身用の短剣数本を譲り受けていた。
先輩みたいな長剣より、どうやら自分にはこの位の剣が丁度合っているらしい。
「若造よ。お譲ちゃんの事、しっかり守ってやれよ」
背中をドンと叩かれ、ゼグから激を貰った僕。
「イズミさん。本当は私も付いて行きたいのですけれど、お爺様と離れる訳にはいきません。どうが無理をなさらないで下さいね」
胸の前で両手を組み、先輩の身を案じるミレン。その瞳は少し潤んでいた。
僕と先輩の2人では、どちらも接近戦タイプなので後方支援は欲しい所。ヒーラー役としてミレンの能力は魅力的なのだが、か弱い少女を連れまわす訳にはいかない。
「道中で使えそうなヤツがいたら、無理やりにでも連れてくぞ!」
そう言うイズミ先輩の意見に、僕も渋々乗っかる事となった。
こうして、ミレンの家を出発した僕達2人。
一路近くの村を目指して、一歩を踏み出した。
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