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16「タミのお下がり戦闘服」

 ミレンのお爺さんゼグは、筋肉隆々の厳ついお爺さんだ。


 体のあちこちには沢山の傷跡がある。きっと若かりし頃に実戦でついたキズなのではないかと僕は思った。

 家には色々な武器を所持していた。あれらはただのお飾りではないと思う。魔法が使えない代わりに、実戦術には長けているはずだ。


 僕は剣など扱った事は全くないため、これから襲ってくるであろう試練に立ち向かうためには、剣術の一つ位は習得しておかないとヤバイかなと少し焦っていた。

 出来ればイズミ先輩との親密度を上げるために、手取り足取り御指導願いたいところだが、今の彼女の足を引っ張る訳にはいかない。


 ごめんなさい、今の嘘です。


 生徒会長親衛隊(非公認)の僕は、剣道における彼女の教育・指導が致命的に下手なのを既に知っているのだ。

 その指導方法には一切の手加減が無く、体で覚えろ的なやり方。新入生は悉く打ちのめされて、退部者が後を絶たなかったという。それは学校内で伝説となりつつあるとの噂もあった。


 だから僕は、剣技については、ゼグにお願いしようと思っていたのだ。実際にそこまで話を持っていくにはどうしたらいいかと、悩んでいた。


「あのぅ、お爺さんの家には武器が沢山ありましたが、もしかして剣士さんだったり?」

「ああ、昔な。王族に仕える傭兵をやっておった」


 やった、王族仕えの兵隊さんだった。


「爺は剣の腕は凄いぞ、アタシは実戦に使える技を指導してもらっている」


 先輩は、まるで自分の事を自慢するように得意げに言った。


「いや―、このお譲ちゃんはなかなか筋がいい。さすが剣道とやらを習っておったと言うだけの事はあるのうガッハッハッ!」


 この二人はどれ程剣を交えて練習したのか解らないが、お互いリスペクトし合っているので相性は良いんじゃないかと思う。ちょっとヤキモチ。


「いや、まだまだだ。あのガリ男に一太刀も入れられなかったからな、爺にもっと剣を教わらねば」


 また先輩の表情が暗くなってしまった。


「お譲ちゃんの剣術はオレを超えておる。今以上に腕をあげたいならもっと上の剣士に教わった方がいい、もっともこの結界の中に腕の立つ剣士がいればの話だが」

「そうか、それは残念だな」

「オレが教えれる事はもうないぞ。まあ、後はいかに経験を積むかだ。それよりも、もっと問題なのが……」


 ゼグが僕の方をじっと視た。これは思惑通り指導してもらえる流れかも。


「若造や、今のままじゃチトまずいの。武器の扱い方から成っておらん」

「僕もそう思っています。このままでは先輩の足を引っ張ってしまいますから」

「うむ、同感じゃ。センスが無いのは罪だからの」


 そこまで言われるとちょっとショックだな。


「どれ、オレが明日から稽古を付けてやってもいいぞ」

「師匠! ありがとうございます。明日からお願いします」


 よし、これでゼグに剣の指導をしてもらえる。僕は一先ず安心した。

 先輩は僕の横で何かつまらなそうに、口を尖らせていた。


 僕はゼグに賭けてみたんだから、どうか鬼コーチじゃ無い事を祈っています。



 丁度、小屋からタミが戻ってきた。何やら服のような物を持っていた。


「小娘や。その服はボロボロじゃ、さぞ動きずらいじゃろ思ってな。ほれ、これをやろう。この老いぼれが若かりし頃に愛用していた戦闘服じゃ」

「ああ、タミさんはな一流の魔剣士だった。あんときは凄かったの」

「婆が若い時に着ていた? アタシとじゃ背格好も体格も違うだろう」


 確かに、今の二人の体格差では服のサイズは合わないだろう。


「何を言っておる。ワシが小娘の時には同じ位の背丈じゃったぞ。下手をすれば胸なんかはワシの方がもっとあったかもしれん」


 あ、胸の話には触れないほうが……これも親衛隊内ではタブーとされている事効だ。

 明らかに先輩の顔は不機嫌になっていた。


「タミさんの全盛期は、それはモテモテだったぞ。オレも言い寄っていればと後悔しとるわい」


 ゼグは顔をいやらしくにやけさせて、タミはしわしわの頬に手を当てて、少女のように眼を潤ませていた。


「ケッ! 大昔の話だろ」


 と、先輩。


「オホン、とにかく試着してみるがいい。特殊な素材で出来ておるからの、お主の能力にも余裕で耐えられはずじゃ」

「……そうか、では着てみるとしょう」


 先輩は戦闘服を受け取り、僕が治療していた部屋へ着替えに向かった。

 どんな姿になるんだろう。楽しみだ。



 タミは先輩の着替えが終わるまで、この領地が今に至る事情について語ってくれた。


「以前はここら一帯の領地は他所の地と同じで、人々は平和に暮らしていたのじゃ。 

 ここら辺は大きな山に囲まれておるが、3つの都市の商品や人が行き交う、商人達の大動脈であった。しかもこの国の中心部に位置していた事もあり、その恩恵は計り知れんかった」


 横でタミの話を訊いていたゼグが、割り込んできた。


「そうだったな。そのおかげでここの人達は贅沢な暮しをしていた。たまに盗賊や山賊に狙われていたが、3つの都市と国家の援護がおったから心配要らんかった」


 要は、大金の流れ道。それに肖った人々が、こぞってここを拠点にしていたのか。


「じゃが10年程前にアーリマンと名乗る男がやってきてからその全てが始まってしまった。その男は自ら神と名乗り6人の幹部を従え、この地を恐怖という支配で人々を苦しめていった」

「交流を失った都市と経済を侵された国も黙っとらんかったぞ。奴らの支配を崩そうと連合軍を結成した」

「強力な魔法使いや一流の魔剣士をこの地へ投入したのじゃ。その数は千を超えていたであろう」


 しかし、結果は連合軍の惨敗。アーリマン勢の強大な魔力には敵わなかった。瞬く間に、ここら一帯が血の海と化してしまったらしい。


「じゃがの、アーリマン勢とて無傷では無かった。強大な魔力がほぼ尽きかけていたのじゃ。

 一説には国家側にもアーマリンに匹敵する程の人物が1人いたとか。そやつが直接アーマリンと対峙していたとの情報もあるのじゃ」


 とにかく痛手を負ったアーマリン勢は、自らの回復に時間を費やす必要があったらしい。、そこでア―マリンは残りの魔力で、強固で広大な結界を張った。この領地ごと外界から隔離してしまったのだ。

そして、今度は世界を征服する力を付けるために、6人の幹部達と共に王城山に籠り魔王城を築いてた。より強大な力を付ける準備をしていると言う。


 うんうん、こういうファンタジー世界には鉄板のお話です。


「それからごく最近まで、アーマリン勢の主だった動きは無かったんじゃ。しかし、2カ月程前から魔物や魔獣どもの動きが活発になってきた。そして今日、6人の幹部の内のひとりザリチェが姿を現した。いや、もう他の幹部達も活動を始めておるかもしれんのう」


 もしかして2カ月程前といえば、アキがこの世界にやってきた頃かな。


「ワシの記憶の限りでは、幹部達の強さはあんなものじゃ無かった。もしかすると、アーマリンは未だ完全に復活をしておらんのかもしれん。奴らを叩くならアーマリンが復活しきる前の今かもしれんのう」


 僕達の目標は、魔王アーマリンを倒す事だ。そして元の世界に戻る事で間違いない!

 だとすると、タミの言った通り魔王達の力が完全に復活していない今が狙いどきなのかもな。

 まあ、そんな甘い話ではないとは思うけれど。


「おっと、着替えに少々時間がかかっているようじゃのう。どれ、ワシがいって看てくるとしよう」


 確かに、あれから結構時間が経っている。

 タミは先輩が着替えている部屋に行ってしまった。



 今は、お爺さんと二人だけ。



 肉じゃがみたいな料理を取って食べたゼグ。 僕も同じものを摘まんで食べてみた。うま!


 二人は直ぐに部屋から出てきた。


 先輩は少し頬を赤く染め、恥ずかしそうに立っていた。

 僕は先輩のその美しい佇まいに、目を奪われてしまった。


「先輩! すごく似合ってますよ」


 それは赤を基調とした騎士調のコスチュームで、スカートの丈は短く綺麗な足が眩しい。へその部分は大胆に空いていてセクシーさを強調していた。


 若き日のタミさん。抜群のセンスです!

 更に顔が赤くなって、ちょっと上目使いの先輩。素敵です。


「そ、そんなにジロジロ見るな」


 だが、一番目を引いたのは谷間を強調した胸の作りだった。

 あれ? 先輩って谷間が出来るほど胸あったっけ?


「うんうん、よ――似合ってるわい。ワシの若いころに瓜二つじゃ」

「いや―若造よ、これ程の娘と一緒なら何も言う事はあるまい。ガハハッ!」


 ここまでは良かった。ここまではね。


 最後にタミがネタばらし。


「特にそのブラの部分、神がかっておるじゃろ。特注じゃったからの」

「……成程な」



 僕とゼグは、この暑い部屋の中で、凍りつきそうな空気と戦いながら震えていた。



 ********



 床に就く前、暗くなった部屋の窓から夜空見える。


 月食は進み、月は全て隠れていた。


 ぼんやりと暗く真っ赤な血の色のシルエットが、闇夜に浮かび挙がっていた。


「闇組織ってなんだろう……」

 

 今日知った情報やこれからの事、色々考えなければ。



 だが疲れた体は、僕を深い睡眠へと誘った。

 


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