表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/21

15「月下の決意」



 僕は夜空を見上げて、近づいてくるイズミ先輩に告げた。


「……今夜は、皆既月食なんです」


 先輩も腕組みをしながら欠けた月を見上げ、鼻を鳴らした。


「アタシもそれ位は見れば解るぞ」

「今朝やってたテレビのニュースで言ってたんです。今夜はスーパームーンで、皆既月食の天体ショーが見れるって」

「それがどうした?」


 僕は、胸の高鳴りを抑えられないでいた。


「……同じ何じゃないですか? 僕達の世界に起こる現象と、こっちの世界の現象が」

「ああ、確かに。それと王城山とどう繋がりがあるのだ?」


 先輩は今一つピンと来ていない様子だった。


「それだけじゃない! この地を囲む山脈も一緒、この暑い季節も一緒、多分時間の流れも一緒だと思います!」

「――――!」

「恐らくココは……並行世界パラレルワールドなのかもしれない」


 僕はこの時、少し迷いながらもその言葉を口にしていた。

 確証は無かった。でも、可能性があるとしたら『並行世界』の存在も否定は出来ないと思ったからだ。

 

よくある異世界の話しにしてはそれほどファンタジーに寄せていない(個人的な見解だが)。バーチャルゲームの世界ならこれ程の痛みを味わうだろうか。過去や未来にタイムスリップってのも有りだが、どうもしっくりこない。


 先輩は顎に手を当てて小考する。その手は黒い手袋を嵌めていて、甲に煌めく紋章がはっきり見えていた。


「マサキのその意見には少々疑問はあるが、やはり確認は必要だな」

「明日、明るくなったら調べてみましょう。出来れば、この平地を一望できる場所があればいいんですが」


 その話を聞いていたタミが、ゆっくりと近づいてきて口を開いた。

 片手にはランプを持っていた。魔光石と言う物で、明るく照らすらしい。便利。


「それならこの近くに王城山まで見渡せる小高い丘がある。そこに行ってみるがいいぞ」

「お婆さん、ありがとうございます」


 と僕はお礼を言った。

 タミは頭を振り、顔を皺くちゃにしてほほ笑んだ。


「じゃが、行くなら気いつけてな。危険だと思ったら、引き返す事も大事じゃ」


 そう言ってタミは家の中に戻ろうとしたが、何かを思い出したように足を止めた。


「ああ、小娘や。お前さんにあげたいものがあるんじゃが……」

「なんだ婆さん?」


 先輩は明らかに不審そうな顔をして訊き返す。

 お願いですから、もう少し愛想良くしましょうよ。


「ワシは思うのじゃが。これからの小娘には、今よりももっと厳しく困難な災いが、幾度となく降り掛かってくる気がしてならん」

「今更だがな」

「じゃから、ワシのとっておきをやろうと思うての……まあ、みんな家の中に戻って少しばかり待ってておくれ」


 そう言ったタミは歩く方向を変えて、僕の前を横切る。

 お婆さんはすれ違いざまに、小声で僕に言った。


「少年よ、小娘を助けられるのはお主だけじゃぞ」

「――――!」


 僕はタミのその言葉に、一瞬心臓が止まるほどの衝撃を覚えた。


 僕は、どんな事をしてでもイズミ先輩のために尽くしたい。その思いは変わらない。

 彼女の道を切り開くため、全力で困難に立ち向かうつもりだ。

 だって僕は彼女のことを、一番思っていから。


 だから今の僕は、どうしても先輩を助けられる力が欲しかった。


 タミは母屋の隣にある小屋に入って行った。


 僕はタミの姿を目で追いながら、一端気持ちを落ち着かせて、


「先輩、お婆さん何くれるんですかね?」


 彼女は、さあなと言って歩き始めた。少しは考えたら?


「マサキ、ちょっといいか」


 玄関の扉を開ける前にと呼び止められた。先輩が真っ直ぐこっちを見ていたのだ。

 僕は立ち止まり、彼女と目を合わせる。ドキドキ。


「お前に話しておきたい事がある」


 先輩何でしょうか、どんな告白でも僕は受け止めますよ。


「……あのな」

「はい」


 や、やばい。心臓がバクバクしている。


「おそらく今夜、闇組織がマサキやアタシに接触してくるはずだ」

「え?」


 なんだよー! 告白じゃなかった~!

 闇組織情報かぁ~~。

 でも凄く重要だな。うん。


「多分な。アタシの勘だが、そろそろだと思う」

「いや先輩、それってどうやって?」

「……奴らは色々とアタシ達から情報を引き出そうとしてくるだろう」


 あれ? 僕の質問はスルーなんだね。


「だがアタシは、奴らを信用していない。こんなことをした奴らを許さない……だから、今日ここで起こった事や、今マサキが話した事などを一切言わないでほしい」


 それは怒りにも満ちた表情で、僕に伝えてきたのだった。


「分かりました。安心してください! 先輩がそこまで言うなら僕は死んでも話しません。でもどうやって組織は接触してくるのか不思議ですけど」


 彼女は2度目の質問にも答えず、頼むと言っただけだった。




 そうだ! ここで今の僕の気持ちを伝えよう、先輩の事を思うからこそ言える言葉を。


「僕は……僕は、先輩にずっと付いて行きます。どんな試練があろうと、絶対に支えていきます!」

「フッ、生意気な」


 真っ直ぐ僕を見ていたその瞳が、一瞬柔らかくなった。


「マサキ、ありがとう」


 よし! 今は彼女の笑顔を見られただけで十分だ。



 僕は憧れの先輩を全力で支える決意をする。


 欠けた月に祈りを込めて、家の中に戻って行った。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ