12「イズミとザリチェの攻防」
イズミは剣を振る。
左、右、突き、なぎ払い、多彩な攻撃を仕掛けた。
だが、黒服の男ザリチェはそれを全て躱す。
「おや、お弟子様への指南は良いのですか? あのボロボロの様子では、直に食われてしまいますよ。まだ武器の使い方がおぼつかない様ですし、しっかりお教えになった方がよろしいかと思いますが」
「ふッ、弟子か。つい先程、初めて会話したばかりだけどな」
「これは失礼致しました。では尚更、お守りになってさしあげないと」
「心配無用だ、アイツならもう大丈夫だ!」
「信頼して居られるのですね、彼は幸せ者ですね。うらやましい」
「ああ、ありがとう。お礼にアタシの剣をたっぷりくれてやるよ」
「私としては、あまり頂きたくはありませんね」
「レディーのプレゼントを断ると、ろくな死に方をしないぞ!」
イズミの剣が更に早くなった。
しかし、ザリチェは緩い動作で見切ったようにギリギリでかわし続ける。
筋力の無さそうな細身の体、顔色は悪く体力も無さそうな風貌。最小限の動作で彼女の攻撃を避けている。
「クッ! 気持ち悪い奴め、これならどうだ!」
イズミは大きく踏み込み、距離を一気に詰めた。と同時に剣を下から上へ払う!
ザリチェが素早く右へ避ける。その動きに反応し一閃、剣を斜めに振り下ろした。しかし、
「なにッ! どういうことだ?」
剣が男の肩に当たる瞬間、金属のような物に当たり、弾き返されてしまった。
彼女の顔が歪む。ザリチェは刃の当たる場所に、右腕を上げて防御の形を取っていた。
「ほほう、やっと当たりましたね。ですが……」
イズミはもう一度踏み込み、一太刀!
しかし今度は防御した左掌で、またもや金属音と共に弾き返される。
彼女は弾かれた剣の反動で一回転、勢いで逆方向の脇腹へ切りつける。ザリチェの防御は間に合わない。
だが、キィンと大きな金属音を立てて、三度剣を止めたのだ。
「無駄です。あなたは私に傷一つ付けられませんよ」
「クソ! バカな、ありえない!」
二撃目までは確かに防御の構えを取っていた。だが、最後のは確実に胴体へ入っていたはずだった。
「これが、私の特殊能力『アーマー』。すなわち盾です」
ザリチェは青い瞳をギラギラさせて口元を吊り上げ微笑する。
「どんな方向から攻撃しようとも全て防ぎます。もちろん強度は鋼と同等ですので、そのような剣の攻撃など全く無意味です」
剣の攻撃が利かないなど、そんな事はあり得ない。
何処かに穴はないかと、死角の存在を暗中模索するイズミ。
通常時は盾の存在が全く見えず、ザリチェの装いは至って普通である。
効果が現れるのは、攻撃を受ける部分に結晶のような模様が浮かび上がる。その結晶は鋼のように硬く、剣を弾いてしまう。
見えないバリアが全身を覆っていて、何処に攻撃しようとまるで効かない。ならば、攻撃場所を一点に絞り連続技を叩き込めば。
イズミが動く。一点集中の連続攻撃!
「いやいや、無駄ですよ。あなたは御承知かもしれませんけど私――」
ザリチェは右掌を前に構えた。
「鎌鼬!」
地面を削る魔風が発生、空気を切り裂きながらイズミに迫る。
とっさに反応し、間一髪避けた。なびく髪が切られていた。
「ちゃんと魔法も使えますので、お忘れなく」
恐らくこの魔法がゼグを切り刻んだ物の正体だ。鎌鼬、恐ろしく斬れる魔風攻撃であろう。
イズミの表情が曇る。しかし、ここで引く事は出来ない。
両手で持つ長剣を構え直し、気を引き締めた。
二人はまた激突した。