11「魔獣との戦い、そして覚醒」
鋭い牙をむき出して、魔獣が物凄いスピードで突進してくる。
僕は戦槌を構え迎え撃つ。
いくら体が強化させているとはいえ、あの鋭い牙と爪、巨体の攻撃を食らったら一溜まりもない。
焦り、心臓の鼓動が速くなる。足が震えて動けない。
「ちくしょうォォ! 怖いものは怖いんだよォ!」
涙と鼻水を同時に流しながら、叫んだ。
大口を開けた魔獣の牙が目の前に迫る。
僕は慌てて戦槌を盾代わりにガードする。
運良く魔獣の鼻に当たり辛うじて防御成功。しかし、突進の勢いで後方に吹き飛ばされてしまった。
「なっっ!」
3メートル程後方へ、激しく地面に背中と後頭部を打つ。
「――――ッ」
一瞬目の前が暗くなり、呼吸も出来ない。
(マ、マジヤバイよこれ)
初撃を防がれた魔獣は、息を荒くしてゆるゆると近づいてくる。
「マサキ集中しろ。目標だけを見ろ。他の事は考えるな!」
先輩が激を飛ばす。
彼女の声に反応し、僕は額を押さえ半身起こす。だがすぐに、魔獣の大きな前足が降ってきた! 僕の腹に体重を乗せてきた。
「グエェェェェエェェェェッ!」
痛い、今まで経験した事無い痛さだ。
魔獣は叫び、幾度と無く踏みつける。
その度に、内臓をぶちまけそうなほどの圧力が掛る。全部吐きそうだ。
それと同時に鋭い爪が、あばら骨をミシミシと響かせた。更に激痛が走る。
だが、いくら踏みつけようとも僕が潰れる事は無かった。
明らかに魔獣は、目の前の獲物を壊す事だけが目的だ。鋭い牙を立て、強靭な顎で噛みついてきた。
「うぁァァァァァァァッ」
持っていた戦槌が若干盾代わりになったが、それでも鋭い牙は腕や胴体に刺さり出血。衣服が赤く染まってゆく。
しかし、それでも僕は壊れなかった。
ぼろぼろになりながらも、致命傷は全くない。
激痛に耐えながら、必死に抗う。
普段の相手なら即死級の攻撃のはず、魔獣は徐々に苛立ちを見せていた。
激しく吠え立て、トドメを刺そうと2回目の噛みつき動作へ。
まずい、このままでは本当に殺されてしまう。
「目を開けて相手を見ろ! 集中しろッ!」
先輩が叫んだ!
その声に反応し、僕は瞼を開いた。
刹那の瞬間。ドクンッと、鼓動が高鳴る。
その時、僕の視覚には今までにない感覚が飛び込んできた。
自分と対峙する魔獣のあらゆる角度のシーンが、無数のフラッシュ画像として脳裏に焼きつく。
それが束となって、コマ送りの映像となり、スローモーションで再生していく。
まるで自分が、この空間における時間の支配者になった感覚だ。
魔獣に吹き飛ばされて踏みつけられ噛まれ、これ以上ない痛みと苦しみがあり、心が折られるほどの恐怖が襲ってたのに。
脳と目はまるで別人が操作しているように、この状況を見つめ考える。
……マサキ、戦エ。
脳が現実に戻る。目の前の敵の動きは遅いままだ。
魔獣の体から、邪なるオーラが浮かび上がった。
鼻先だけオーラの色が違う。それが攻撃の色だと脳が告げる。
それまで見えていた背景や、他の人が一切見えなくなった。
魔獣と自分だけの世界。周りの音は一切聞えない。
更に脳が冴えわたり時間を支配する。今は止まって見えていた。
同時に、相手の息づかいや鼓動は、手に取るようにわかる。
ダメージだらけの自分の体にも変化が。
今まで恐怖と激痛で震えていたのに、ピタリと止まった。自由に動かせる。
覚醒した脳の支配下になり、魔獣よりも早く。
ガシッンと牙が噛み合わさる。
骨を砕いたと確信した魔獣だが、口の中には何もなかった。
下に倒れていた少年の影が無い。
魔獣は驚いて顔を起こすと……正面に無表情の少年が立っていた。