序章「生徒会長親衛隊員集合セヨ」
僕は朝起きると、無意識にテレビのスイッチを入れてしまう。
夏休みに入って、既に1週間が過ぎようとしていた。今日は友達との約束があるため、手早く朝食を済まそうとしている。
『昨夜10時ごろ都心の○○駅の東通り交差点で、通り魔による殺傷事件がありました。被害者は付近に在住の女性。犯人がナイフのような刃物で切りつけ重体、病院に搬送されましたが間も無く死亡が確認されました。犯人は未だ逃走中とみられ、目撃者の情報によると――――』
殺人事件か……。
東京や大きな都市では、殺人や誘拐など大きな事件が頻発するようで、毎日何処かのテレビ局で報道されているのをよく視る。
それに比べて僕の住んでいるこの小さな町は、お年寄りの行方不明や交通事故はあるものの、殺人や誘拐事件などは滅多に無い。
はっきり言えば、過疎化が進んでいる山奥の田舎町なのだ。
実は最近、そんな穏やかな町で誘拐事件が2件連続して起きていた。
現場を包囲する警察や消防、駆けつけたマスコミなどで物静かな町は一変。付近一帯はしばらく騒然となっていた。
1件目は、町の病院で入院中だった少女が行方不明。
たしかゴールデンウィーク頃だったと思う。
2件目は、つい1週間前に女子高生の失踪が発覚したのだ。名前は小野イズミ、僕と同じ高校に通う3年生。今年の生徒会長を務めていた。
流石にこの報道には世間のみならず、僕も大きなショックを受けた。
学校創設以来初の女子生徒会長。華麗な容姿と、雄弁な演説や独特の口調でカリスマ的人気があり、全校生徒から慕われていた。
何を隠そう、僕も彼女の虜になった一人である。
夏休みの初日に女子生徒失踪が明らかになると、同日学校から緊急の連絡があった。テレビでは校長先生が会見をしている姿が放送されていて、事態の深刻さが伝わってきていた。
『――――警察は情報提供を求めています。続いては天気予報です。○○さ~ん。
はい天気予報です。今日の天気も全国的に晴れの見込みです。暑さが更に厳しくなりますので、こまめな水分補給を忘れずに。そして、今夜はスーパームーン、皆既月食の天体ショーと重なり――――』
何かの事件に巻き込まれたか、未だ真相は掴めていないらしい。なので学校からは万が一の事を考慮して、一人での外出は控えるようにと注意されたのだが……。
彼女の事を一番良く知っている我々が動かなければなるまい。
ピロッ! 着信音が鳴った。
僕はスマホの画面を確認する。
あ、メッセージだ!
《生徒会長親衛隊員二告グ。本日ハチマルサンマル、ワガ自宅ニ集合セヨ!》
了解、親友A君からだ。
なんと言っても今は夏休み真っ最中だから、学校の注意もお構いなしだ。
僕達、自称生徒会長親衛隊(仲間内で)は、行方不明となった小野イズミを探し出すべく行動しようと連絡し合った。警察やマスコミなど信用出来ない! ってね。
たとえそれが、どんな結果になろうと後悔しないと誓ったんだ。
おっと時間だ、親友A君宅集合!
……って出掛けたのが運の尽きだった。
「何だぁこの暑さ、異常だよなぁ。おお、雲ひとつない」
などと独り言をいいつつ歩いていた僕は、人気のない路地に入った瞬間。
濃いサングラスをした黒いスーツの男達に囲まれてしまった。
「な、な、なんですかあなた達は――」
背後からスタンガンを浴びせられた僕は、目の前が真っ暗になって、そのまま意識を失ってしまった。
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「……あれ、ココは?」
再び意識を取り戻した時は、既に異世界に召喚されていた後だった。
それも人里離れた密林の中で、疾走する女の子に担がれていた。
僕と彼女は、得体の知れない何かから逃げている最中だった。