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カレーをコトコト煮込んで待つ

作者: 倉田京

 私はカレーをコトコト煮込む。豚肉、人参、ジャガイモ、玉ねぎ。どこにでもある普通の具材を入れて。おたまの持ち手のプラスチック部分を触った。デートの途中に寄った百均ショップで買ったおたまは、ある日、味噌汁を火にかけたまま忘れていたら、持ち手の部分が熱でフニャフニャになってしまった。


 彼のアパートで家デートする時、私は彼のスリッパを履いてご飯を作る。作るものは大体カレーか煮物。それを選ぶのはただ単に私が不器用なだけで、とくべつ家庭的な所をアピールしているわけじゃない。でも私は待っている。彼が一緒に家庭を築こうと言ってくれる日を。


「はぁ〜…」

 私はため息という嫌味な隠し味を鍋に入れた。いっそのことストレートに彼に言ってしまおうか。でも追い詰めたくないという気持ちが、いつも正直な私にブレーキをかける。カレーと一緒に私の心も重くグツグツと沸騰していた。




 私はカレーをコトコト煮込む。ふとあの日の自分を思い出した。いつだっただろうか、彼のアパートで同じように鍋に入れたおたまをグルグルかき回していた。持ち手がフニャフニャのおたまは今も私の手に握られている。


 待つことが増えた。待つ時間も増えた。

 今は夫が仕事から帰ってくるのを待っている。

 命を抱えて大きくなってきたお腹をさすってみた。もう一つ、この子の誕生も私は待っている。


 歳をとるということは、待つことが増えることなのかな。

 仕事でも恋愛でも人間関係でも。ふとそう思った。


 そういえば何かを待つ時、私はいつもカレーを煮込んでいた気がする。どこにでもある普通の具材で。どこにでもある普通の幸せを。

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