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天国のアパート事情


 武が地図を頼りに辿り着いた先は昭和感の漂うアパートだった。


 此処で良いものかと考え込んでいるとエプロンを掛けて箒を持った黒髪の女性が武に気付いて近付いて来る。


「貴方、北条武さん?」

「はい。そうですが……」

「私は此処の大家している風見かざみよ。貴方については死神さんから聞いているわ」


 風見と名乗る女性はそう言うと武が持っていた地図に触れる。


 すると地図が淡い光を放ち、"北条"と書かれた鍵に姿を変えたではないか。


「うん。本人で間違いないわね」


 風見はそう呟くとアパートに振り返った。


「此処の左から三つ目が貴方の部屋になるわ。

 まあ、何もない曰く付きの部屋だから安心して」

「はあーーって、え?」


 武は風見の言葉にアパートに歩き出そうとしていた足を止める。


「曰く付きって事は何かあるんじゃないですか?」

「まあ、このアパート自体、新築されたばかりなのに放火で全焼されてしまって未練の残った幽霊みたいなものよ。

 気にしていたらキリがないわ」

「そんな物騒なアパート、住める訳ないでしょ!?」

「こんなの大した事ないわよ。他の物件なんて、もっと曰く付きなのよ?」

「……天国なのに?」

「天国だからこそかしら?

 まあ、百聞は一見にしかずよ。まずは中に入ってみて?」


 風見にそう言われて、武は嫌々ながら扉の鍵を開けると二人して中へと入る。


 中は何もないシンプルな部屋だった。


「……曰く付きの割りには綺麗ですね?」

「ええ。幽霊だから塵も埃も湧かない安全物件よ。

 強いて、駄目なところを言うのなら、この部屋に入ると転生するまで時間が掛かる曰くがあるって事かしら?」

「なんだ。そう言う曰く付きの物件ですか。

 俺はてっきり、全焼した時に亡くなった人と住まわされるのかと思いました」

「そう言った物件もあるけど、この一室は当時、誰も住んでなかったから安心して」

「でも、何もないのは困りますね。せめて、ベッドとかーー」


 武がそう呟くと部屋が光り輝き、簡素なベッドが現れる。


「あらあら、この物件も貴方が住む事を歓迎してくれているわね?

 こんなサービスは滅多にないわよ?」

「そうなんですか?」


 武はそう言うとベッドに腰掛けて見る。


 ベッドは見た目の割りにフワフワして心地よい肌触りだった。


「うん。悪くないですね?」

「気に入ってくれて様で嬉しいわ」


 風見は武の様子を見て、満足そうに頷くと部屋から出ていく。


「それじゃあ、私は隣だから何でも言って頂戴」

「はい。ありがとうございます」

「気にしなくて良いわ。私も入居者がいて嬉しいもの」


 風見は顔だけ出してそう言うと武の部屋を後にする。


 一人残された武はベッドに横になると瞼を閉じる。


 勿論、幽体なので眠くはならないが、そうしているだけで一つの安心感があった。


 武はそのまま、しばらくの間、ベッドに横になって時間を過ごす。


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