昭和天国の遊園地
その遊園地は昔の面影のある場所だった。
「ようこそ!此処は昭和名物の盛り沢山の遊園地だよ!存分に楽しんで行って下さい!」
遊園地の入り口でスタッフが微笑みながら、そう言うと二人は遊園地の中へと入って行く。
その中の観覧車にジェットコースター、メリーゴーランドなど、昔ながらのアトラクションが目白押しだ。
『武さん!まずはあれから乗りましょう!』
死神がそう言って武を連れ込んだのはコーヒーカップの形をした乗り物がクルクルと回る物だった。
武と死神はその乗り物に乗り込むと中に敷かれた座席に座る。
しばらくすると乗り物が動き出し、クルクルと回転を始める。
「ああ。これって確か、この円いのを回すと早くなるんだよね?」
そう言うと武はカップの中央に設置された円盤を回す。
『キャー!』
死神も楽しげな声を上げると武が回す円盤を一緒になって回し、二人の乗るカップの乗り物が回転を速める。
乗り物が停止する頃には二人は満足した様子で降りる。
『次はあれに乗りましょう!』
そう言って死神が武の腕を引っ張りながら指差したのはジェットコースターであった。
「あ、ゴメン。俺、絶叫系は苦手なんだ」
『あ。そうでしたね?じゃあ、メリーゴーランドなんて、どうでしょう?』
「まあ、それ位なら……」
『じゃあ、乗りましょう!』
武と共に死神はメリーゴーランドの馬車の乗り物に乗るとメリーゴーランドが懐かしい音楽と共に動き出す。
『これはこれで楽しいですね?』
「うん。そうだね?」
武は死神の言葉に頷くと回転するメリーゴーランドから見える景色を眺めた。
実際、三大欲求の解放された武でも楽しむ事が出来ているから不思議なものである。
メリーゴーランドが止まり、二人が降りると死神が観覧車へと武を連れて行く。
『締めはやっぱり、観覧車でしょう!さあ、乗りましょう!』
死神はそう言うと観覧車の一つに武と共に乗り込む。
観覧車は二人を乗せ、ゆっくりと回転し始めた。
そんな観覧車の中で武は死神にある事を聞いてみた。
「ねえ。君はなんで俺が好きになったの?」
不意の問いに死神はキョトンとした顔をしばし、すると頬を赤らめてモジモジとする。
『武さんの事は赤ん坊の時から知ってます。
好きになった理由はやっぱり、誰にでも優しく接していたところでしょうか?
今時、捨て猫に傘を上げるとかしていたところも個人的にポイントが高いです』
「そうなんだ。でも、それってストーカーなんじゃ……」
『ち、違いますよ!これも仕事だったんです!
身辺調査をする為に必要な事なんです!』
死神は慌てふためきながら、手を振って弁解すると観覧車がてっぺんまで回る。
『あ、見て下さい、武さん!昭和天国が一望出来ますよ!』
誤魔化された気もしたが、武は死神がはしゃいぎながら見下ろす観覧車の外を眺める。
確かに死神の言う通り、此処からは昭和天国が一望出来た。
その光景は昭和独特の面影の残る風景だった。
夕陽があれば、その光景は尚、感慨深いものだったろうと思える程に……。
『武さん』
「ん?」
『私、こんな気持ち、初めてでなんて言えば良いか解りません』
「うん」
『でも、武さんがこの死後の世界でも幸せになる様に出来る事を約束します。だからーー』
「その気持ちだけで十分嬉しいよ。ありがとうね?」
武はそう言うと死神の肩に手を乗せて抱き寄せ、お互いに頭をくっ付けて、昭和天国を眺め続けた。
その姿は端から見れば、初々しいカップルにも見えただろう。
観覧車が一回転して元の位置まで来ると二人は観覧車から降りる。
『今日は楽しかったです。付き合ってくれて、ありがとうございます、武さん』
「俺の方こそ、ありがとう。良い思い出になったよ」
そう言って、武は死神の頭を撫でる。
頭を撫でられて死神は嬉しそうにする。
ーーと、携帯電話のベルが鳴る。
『もう次の仕事の時間ですか』
死神は頭を撫でる武の手から離れると携帯電話の着信履歴を調べ、寂しげに呟きながら再び携帯電話を仕舞う。
『それじゃあ、武さん。私はこれで』
「うん。またね?」
『はい!武さんも良い死後を!』
そう言うと死神は武に背を向けて駆け出して行こうとする。
ーーと、そこで立ち止まり、武の方へと戻って来る。
『そうでした。武さんの住む場所を教えないといけないんでした』
死神はそう言うと何処からともなく、地図を取り出し、それを武に渡す。
『此処に武さんの住む場所がありますので、そこへ向かって下さい。大丈夫です。
私が良い物件を選んだので』
「うん。ありがとう」
『それじゃあ、改めて、また今度』
死神はそう言って再び武に背を向けて、急ぎ足で去って行く。
「さて、俺も行くか……」
死神が去って行くのを見送った後、武は独り呟くと遊園地を後にする。