閻魔の裁判
閻魔のいる場所は白と黒で塗装された大きな建物だった。
『さあ、中へ入りましょう』
死神にそう言われて、武は恐る恐る扉を開けるとそこには慌ただしく仕事をする他の死神達の姿があった。
『あの俳優急死したぞ!急いで誰か向かわせろ!』
『おい、このじいさん、今日が命日だろ?……え?延期?
早く連絡しろよ!こちとら暇じゃないんだぞ!』
『おい!この少年、死んだのに連絡ないぞ!
え?女神が独断で異世界転生した?
またかよ!仕事するこっちの身にもなれってんだ!
ああ、解ったよ!じゃあな!』
プルプル鳴る電話の応対をしたり、急いで現地に黒いローブを身に纏って出ていく死神達。
"……なんか、いかにも職場って感じだね?"
『先程も話しましたが、あの世も進化してるんです。これ位はなんとなく察していると思いますが……』
"うん。そんな気はしてた"
死神の言葉に武は頷くと椅子に座って電話対応している眼鏡を掛けた女性の死神が此方を見る。
『武さんですね?
ようこそ、冥府へ!』
"あ、はい。ご丁寧にどうも"
『最近はやれ、異世界転移だ転生だ異世界転生だと言う方が多いです。その中でも貴方の様な、あの世行きの方は珍しいんですよ。
貴方なら素敵な死後を送れるでしょう』
そう言うと眼鏡を掛けた女性の死神は武は閻魔の間へと案内する。
『ここが閻魔様のいる部屋です。中へお入り下さい』
そう言われて中へと入ると室内は裁判所の様な風情になっており、その裁判で使われる台の所に赤い顔で大柄の裁判官風の男ーー閻魔が佇んでいた。
『被告人ーー北城武は前に』
武は緊張しながら前へと出ると閻魔は台の上に置かれた鏡を見詰める。
『その生活は慎ましいものだな。人柄も悪くはないが、コミュニケーションが下手か……。
ベッドの下にいかがわしい本が隠されているが思春期の男には珍しくない。まあ、性犯罪も犯してないし、大目に見よう。
ーーが、転生の通達が来てない以上、あの世に止まり続ける事になるがな』
閻魔はブツブツ呟くとやがて、槌をカンカンと鳴らせる。
『北城武の半永続的な天国行きを許可する!』
武はふうと一息吐くと死神に振り返る。
『良かったですね、武さん。では、天国へ案内します』
『待て。死神の役目は終わったろう?
天国への道のりは他の者に任せる。大体なんだね、そんな私服で、君は?』
『あ、それなのですが、私、本日付で死神の仕事を辞めさせて頂きます』
『……はあ!?いや、そんな突然、それは困るよ、君!!』
狼狽える閻魔を無視して死神は辞表を出すと武の腕に抱き着く。
『私、今日から武さんの伴侶になります』
『伴侶!?いかんぞ、死神がそんな勝手な事を……』
『その為の辞表です。そもそも死者と死神が付き合ったら駄目だなんて法律もありませんし』
『……むう』
裁判官風の男は死神はそう言われて眉間に皺を寄せて武を睨む。
『北城武よ。お前はどう思っているのだ?』
"え?いや、いきなりの事なんで困惑していると言うのが本音でして……"
『ーーで、あろうな』
武の言葉に閻魔は溜め息を洩らすと死神に視線を戻す。
『死神よ。勝手な辞職は許さん。
この案件は保留としよう。聞けば、一方的な片想いではないか』
『ええっ!そんな事ありません!
私達、ちゃんと愛し合っています!』
『いや、北城武は困惑しているではないか。
まあ、死神の仕事をこなしつつ、北城武の面倒を見ると言うのなら許可しよう。
本当に両想いになったのなら辞表も認める。それまでは死神として仕事を全うしたまえ』
『そ、そんな~』
死神はガックリと項垂れる。
『だが、まあ、今回は特例だ。今までのその功績に免じて共に天国へ行くのを許可しよう』
『え!?本当ですか!!』
その言葉に花が咲いた様に明るくなる死神。
そんな死神に閻魔は頷く。
『部下を労うのも上司の仕事だ。ただし、送ったらキチンと帰って来るのだぞ?』
『はい!解りました!』
閻魔の言葉に死神は元気に頷くと武と一緒に部屋を出ていく。
そんな死神を見て、閻魔は溜め息を洩らすとどっかりと椅子に座り込む。
『死神と死者の恋愛か……。まあ、前例がない訳ではないが、未だ上手くいった試しはないぞ。
殆どが死者が転生してしまうからと言う理由で死神が失恋で終わるのだからな。
だが、今回の死者ーー北城武は半永続的な天国行きの死者だ。
はてさて、半永続的な天国行きとなった北城武はどんな答えを出すのだろうな』
閻魔は独り呟くともう一度溜め息を吐き出してから次の裁判の準備を始める。