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3. 協力者

 彼女、綾小路結奈は、まさしくクラスの女王様と言っていい存在だ。

 まっ金金の髪に、制服を着崩したギャルっぽい美人というだけで、この進学校ではかなり周囲を威圧するのだが、それに加え、毎回テストの総合順位で一桁をとる成績優秀ぶり、スポーツも万能らしく、テニスの大会で優勝だか準優勝だかで、校舎に垂れ幕が飾られていたこともあったな。

 そんなリア充になるべく生まれてきた彼女の周りにはいつも人が集まっていて、彼女を楽しませようと必死に頑張っているのが嫌でも目に入ってくる。そんなところに基本的に人見知りの僕が参加するはずもなく、彼女と関わったことは数える程度だったと思う。

 彼女がなぜここに.............まずいな、そういえば彼女と城ヶ崎さんが一緒にいるところを何度か見たことがある。

 自分の友達が傷つけられたことへの報復か何かか。彼女から敵視されたらもうまともな学校生活は送れないだろう。まあ、思い悩むことがなくなってある意味スッキリするか。

 ところが、彼女の口から出た言葉は、意外なものであった。


「本当に、ごめん!」

 

 彼女はそういうと、僕に向かって頭を下げた。

 僕は突然の事態にただただ混乱した。先ほども言った通り、彼女との関わり合いはほとんどなかったように思うので、謝られることなんてないはずだ。

 彼女は頭を下げたまま続けた。


「アイカたちが嫌なことしちゃって、あたし止めたんだけど、アイカ全然聞かなくって、ほんとごめん!」


 アイカ、というのは確か城ヶ崎さんの下の名前だったはずだ。

 なんと、彼女は友人の報復に来たのではなく、友人のしたことの謝罪に来てくれたらしい。これは大逆転、一気に希望が見える展開だ。

 そういえば、彼女はこちらを見て、ニヤニヤと笑っていた集団の中にいなかったように思う。今回のいじめに反対していたからか。

 彼女は顔を上げると、さらにすまなそうな顔をして続けた。


「アイカって、そんなに悪い子じゃないんだよ?.......ただ、プライドが高すぎるというか、今も.....桜庭くんに、振られちゃったショックで暴走しちゃってるというか.......ほんとに、ごめん」


 彼女は、再び頭を下げたかと思うと、次は、綺麗な顔をいっぱいに歪め、苦しそうに言った。


「それで、ね.......こんなこと、いうの、ほんとに、申し訳、ないんだけど...........アイカに、アイカにね.........」


「謝って、欲しいの」


「えっ?」


 あれ?僕が謝られる流れじゃなかったか?なぜ僕が謝ることになってるんだ?

 僕の疑問が表情に表れたのか、彼女は慌てて付け加えた。


「そ、そうだよねっ!普通そっちが謝れって話で、ほんとに申し訳ないんだけど.........アイカ、ほんとにプライド高いから......そうでもしないと、おさまんないと思うの.......アイカさえ納得させたら、絶対おさまるから」


 なるほど、そういうことか。それで解決するなら、いくらでも謝ろう。僕にだって非はあるわけだし、もともとそのつもりだったからね。


「.....うん、わかった。謝るよ。それで済むなら、こちらとしてもありがたいしね」


 途端、彼女の顔はぱぁっと明るくなり、僕の手をぎゅっと握りしめて、


「本っ当にありがとうっ!この恩は絶対忘れないからっ!なんでもするからっ!」


 と言った。

 よほど自分の友人がいじめをするのが嫌なようだ。

 しかし、『何でもする』とは。

 これだけ美人でスタイルもよかったら、彼氏も間違いなくいるだろうし、その発言はいかがなものだろうか。

 相手が無類の寝取られ好きで、寝取りは大嫌いな僕じゃなかったら、その発言をいいことに、彼女に数々のいやらしい屈辱を与え、最終的に寝取っているところだ。


「じゃあ、アイカ呼んでくるからっ。ほんとありがとねっ!」


 彼女はそう言い残すと、全力疾走でその場を後にした。

 その時に彼女のスカートがめくれ、パンツが丸見えになるというハプニングがあったのだが、彼女は全く気づいてない様子だった。

 彼女の彼氏は気が気ではないであろう。あれだけ寝取られやすそうな彼女がいたら、僕だったら一日の2/3を神への祈りに捧げることになるであろう。

 あ、またパンツ見えた。ラッキー。

 


       ×             ×             ×



「ちょっと!亜里沙!嫌だって!!!離せよっ!!!!」


 数分後、綾小路さんに腕を引っ張られやってきた城ヶ崎さんは、頭から角が10本は生えていなければ割りに合わないような、鬼以上の表情をしていた。

 今にも腕を振り切って何処かに行ってしまいそうな城ヶ崎さんを何とか抑えながら、綾小路さんは僕を促すような視線を送ってきた。

 え、今この状況で謝るの?間違いなく受け入れられないと思うんだけど。せめて角が一桁の時に謝りたいんだけど。ここは綾小路さんには申し訳ないが無視させてもらおう。


「まあまあアイカ、桜庭くんが言いたいことあるってさ」


 あ、もう完全に言わなきゃいけない感じだ。まず間違いなく失敗すると思うけど、仕方ないか。


「城ヶ崎さん、昨日はごめんなさい。もう少し言い方に気をつけるべきだっ」

「うるさいっ!!!死ねこのクズッ!!!!」


 うん予想通り。むしろ角が10本から13本になると言う結果になった。うわ、不吉。


「ちょっとアイカ!!せっかく桜庭くんが謝ってくれてるんだよ!!!ちゃんと聞きなよ!!!」

「うるさいなぁ!!!結奈にも説明したでしょ!!!こいつが私に何したか!!!!」

「だから、それは絶対誤解だって!!!!!桜庭くん優しいんだから、そんなこと言うわけないもん!!!!!」


 あらら?なんか雲行き怪しくなってきましたねぇ。これ大丈夫かしら。


「言ったって言ってんでしょ!!!私のことすぐ浮気するビッチ扱いしたんだよ!!!!」

「だから、絶対誤解!!!桜庭くんそんなことしないって!!!!すごく優しいんだよ!!!!」


 あ、これ、完全にまずいですねぇ。


「結奈に何でそんなことわかんだよ!!!!こいつと全然仲良くねぇだろ!!!!!」

「.........そ、そうだけど......い、犬拾ってたもん」

「はぁ!?!?」

「捨てられた犬拾ってたの見たことあるの!すっごい優しいでしょ!」


 あ、見られてたんですね。恥ずかしいな。ちなみに拾った犬は僕の家では残念ながら飼うことはできず、今はサッカー部の副キャプテンの家で元気に暮らしているそうだ。


「......そ、それはいいかもしんないけど!!今回は絶対こいつが悪いって!!!!」

「悪くないよ!!!アイカ落ち着きなよ!!!自分のしてること冷静に考えて見なよ!!!アイカ、最低だよ!!!」


 綾小路さんの言葉を聞いた城ヶ崎さんは、顔を怒りで真っ赤にした後、とても悲しそうな表情で俯いた。


「.......結奈は、私のこと、信じてくれないんだね....」

「っ........そ、そう言うわけじゃ」

「そう言うことでしょ!!!私よりもこいつのこと信用してんだろ!!!」

「.......だって、仕方ないでしょ!!!アイカのしてること考えたら、信用なんてできないよ!!!!」

「ッ...........も、もういい!!!結奈となんてもう友達じゃない!!!二度と話しかけてくんな!!!!」


「ちょっと待った」


 今まさに友情に亀裂が走ろうとしているのを、黙って見ていることはできなかった。このまま黙っている方が、僕にとって都合がいいことくらいはわかっているのだが。


「城ヶ崎さんが言ってることは本当だよ......ビッチ扱いしたつもりはなかったんだけど。君は、浮気すると思うから付き合えない、って言った」


 綾小路さんは呆気にとられた表情で、僕と城ヶ崎さんを交互に見比べた。

 

「.................言ったでしょ。こいつが悪いって.........行くよ、結奈」


 城ヶ崎さんは綾小路さんの腕を掴み、そのまま校舎の方へと歩き出した。

 綾小路さんは僕の方を見て、何か言いたげな表情をしていたが、城ヶ崎さんに引っ張られぐんぐんと離れていき、校舎の中へと消えていった。

 ........しかし、不味いことをしてしまったな。せっかくのいじめから逃れられる最高のチャンスだったのに、見事に不意にしてしまった。これからも綾小路さんは城ヶ崎さんとの仲裁を取り持ってくれるだろうか。綾小路さんは城ヶ崎さんが言っていることが嘘だと思い、僕に協力してくれたわけで、それが真実だと知った今、気持ちに変化が現れているかもしれない。


「...........はぁ」


 まあ、これ以上ここにいても仕方ない。今日はさっさと帰って寝よう。

 

 僕は肩を落とし帰宅した。

 


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