12. 修羅場
「な、なななななななんでっ、どど、どゆことっ!?えっ、桜庭くんとヒナちゃんて付き合ってたの!?」
綾小路さんは絶叫したかと思うと、口を押さえ、隣をちらりと見て、顔を真っ青にした。
きっと僕の顔色も同じようなものだろう。
僕たちだけでなく、この城ヶ崎さんの鬼の形相をみれば、誰だって血の気が引けてしまうに決まってる。城ヶ崎さんはそれほどの表情を浮かべたまま、再び口を開いた。
「何やってんの、って、聞いてるんだけど」
「うわ、恥ずかしいところ見られちゃったねー。ちょっとさー、悠人くんが頼むって聞かないからー」
ヒナちゃんは相変わらず軽薄な態度で、城ヶ崎さんの態度に答えた。どうやら彼女は『誰だって』の中に含まれなかったようだ。本当にいい根性してるよな.............................って、
「何言ってんだコラッ!!!!そんなこと一切頼んでないです!!!!君が無理やり、僕の手を掴んで胸に押し付けたんだ!!!ね、綾小路さん!?」
「.,...うぇぇぇ!?!?い、いや、あたしっ、知らないよっ!?今きたばっかだからっ!?」
「あ、そうだよね」
混乱のあまり、綾小路さんに無茶振りをしてしまった。非常に申し訳ないことをしてしまったな。だが、おかげでなぜか冷静になれたぞ。
とりあえず今、僕がすべきことは何か。簡単な問いだ。ヒナちゃんのおっぱいから手を離せ。まずそれをしなくては話にならん。
僕は断腸の思いで彼女の胸から手を離した。....って、あれ?ものすごく簡単に手を離せたぞ?なぜだ?
.......あっ、いつの間にかヒナちゃんの手が僕の手から離れてる!うわ、この女、いつの間に!?これじゃ僕が能動的にヒナちゃんの胸を揉んでいるかのようじゃないか!
「.......いちゃつきは終わった?じゃ、あんた、どっか行ってくんない?。私、比奈と話あるから」
城ヶ崎さんは怒りに燃えた目で僕を睨みつけた。
ヒェッ。僕が普段から尿道を鍛えていたからよかったものの、そうじゃなかったらちびっているところだった。同級生の女の子のおっぱいを触り、その後失禁するところを、同級生の女の子たちに見られでもしたら、流石の僕でも登校拒否をせざる終えなくなる。
......しかし、話とは、一体何についてのことだろうか。今の所一応ヒナちゃんは城ヶ崎さんたちに対して嫌がらせをするつもりはないわけだし、この微妙な均衡を崩してしまうような話だったら、非常に芳しくない。
「その、話っていうのは」
「いいからあっち行けって言ってんだろッ!消えろッ!」
「は、はいッ!!!」
僕は背筋をピーンと伸ばし、今にも敬礼してしまいそうな右手を抑えて返事をした。うん、ここはもう仕方がないって。城ヶ崎さんの気分を害してはいけないし、ここは一時撤退だ!少し経ってからこっそり様子を見に来ればいいんだ。
僕はダッシュでその場を立ち去ろうとした。
「ちょ、ちょっと待ってっ、桜庭くん!ちょっとアイカっ、言ったよね!?桜庭くんはあたし達のために頑張ってくれたんだよ!?」
振り返ると、綾小路さんが城ヶ崎さんに詰め寄っていた。これに城ヶ崎さんは、強い不快感を示しながら、
「比奈の胸触ってニヤついてたような男が、私たちのために犠牲になったって、本気で言ってんの?」
「うぐっ......そ、その、それはちょっとわかんないけどっ......でもっ、あたしたちのために頑張ってくれたのはほんとだからっ。ねっ、信じて」
涙目で懇願する綾小路さんを見て、城ヶ崎さんがうっと呻く。そして、うっとおしそうに頭をかいた後、僕の方に向き直った。
「別にいてもいい。でも口は出すな」
「あ、はい」
射抜くような目線に晒されて、僕は頷くほかなかった。予想はしていたけど、とんでもない嫌われっぷりだ。
「ちょ、アイカ!絶対言い過ぎっ!!....ごめんね、桜庭くん」
綾小路さんはこちらに駆け寄ってきたかと思うと、僕に耳打ちをした。
「桜庭くん、絶対助けるから、安心して」
助ける?え、何、何かするつもりなのか?ただでさえ変な状況なので、さらなる混乱は持ち込んでほしくないんだが。
僕は不安になって綾小路さんの顔を覗き込むと、彼女は親指をぐっと立てて、ものすごいドヤ顔を披露した。だめだ、不安しかない。
「よしっ、じゃあ、ヒナちゃん、早速言いたいことが」
「待てって。私が先だろ」
城ヶ崎さんは綾小路さんを手で制し、そのままヒナちゃんをじろっと睨みつける。
「結奈から全部聞いた」
「んー?なんのことー?」
ヒナちゃんはわざとらしく首をかしげる。城ヶ崎さんはさらに苛立ったようにヒナちゃんを睨みつける。
「アンタ、本気で誤魔化せるって思ってるわけ?それともそれ以外に言うことないって思ってるわけ?」
「.......うーん」
ヒナちゃんは顎に手をおき首をひねって、考える仕草をした。
「結奈ちゃんに何吹き込まれたか知らないけど、愛佳ちゃん知ってるでしょー?結奈ちゃん私の事嫌いだって」
「...そっ、それはヒナちゃんがっ」
「結奈、黙って」
反論しようと口を開いた綾小路さんを、再び城ヶ崎さんが止めた。綾小路さんはウッとうめき声を上げて、しょんぼりと頭を下げる。
ヒナちゃんはそんな様子を微笑ましそうに見つめる。いやなんだその表情。良くもまあそんな顔できたもんだ。
「私のことが嫌いな結奈ちゃんが、私と愛佳ちゃんのラブラブ関係を崩そうとしてるのかもよー?」
「.....私とあんたはラブラブじゃないし、結奈が考えたにしては話が出来すぎ。結奈の頭じゃ思いつくわけない」
「ちょっ、アイカ酷いっ!!あたしはそんな悪い子じゃないって言ってよっ!」
涙目で訴えかける綾小路さんを、城ヶ崎さんはうっとおしそうな視線を送る。だが、その表情には、どこか優しげなものが感じられた。
......よかった。どうやら仲直りできたようだ。
しかし、ホッとしている場合でもない。修羅場は今だに続いている。
「......それに、結奈の話、あんたの今までの行動と完全に辻褄が合うしね.....私のためにやってると思わせて、私を操り人形にしてたんだ。楽しかった?」
「そんなことないってー。てゆーかアイカちゃん、私を信じてよー。アイカちゃんのために今まで色々とやってあげたでしょー?」
「.........それだけ?」
そう言う城ヶ崎さんの表情は、怒り、そしてそれ以上の困惑が、ありありと浮かび上がっていた。
「なんか、もっと言い訳とかないの?.......私のアカウント、乗っ取られてたって何?なんであんたがそんなこと言えんの?あんたが乗っ取った本人だから言えるんでしょ?あんたが乗っ取って自分の悪口書いて、被害者になったんでしょ?.....ねえ、言い訳があるんだったら、なんか言ってみなさいよ.......」
「........うーん」
ヒナちゃんは人差し指を頬に当て、わざとらしく『悩んでます』ポーズを取った。そして、僕の目が狂っていなければ、彼女は、城ヶ崎さんに向かって、爽やかに笑いかけた。
「ごめん、思いつかないや」
「.......................は?」
城ヶ崎さんは、しばらくの間、唖然とした様子でヒナちゃんを見つめた。そして、我に返ったように体をビクッと揺らし、みるみるその目に怒気を込めた。
「.........それ、全部認めるってこと?」
「うーん、まあそうなっちゃうかなー」
ヒナちゃんがそう言った途端、何かが破裂したかのような音が響き渡った。飼育小屋の動物たちが不安そうに鳴くほどのその爆音は、城ヶ崎さんにビンタされたヒナちゃんの頬から出たものだった。
はたから見ても頬が痛くなるような強烈なビンタを食らったヒナちゃんは、驚くでも、痛みで顔を歪めるでもなく、不気味なまでの無表情で虚空を見つめていた。が、それも一瞬のことで、すぐにいつもの笑みを取り戻したヒナちゃんは、城ヶ崎さんに向き直った。
「もう、ひどいよ愛佳ちゃん。そんなに思いっきり叩かなくてもいいのにー」
「........比奈、あんたに言いたいのはこれだけ」
城ヶ崎さんは変わらずヒナちゃんを睨みつけていたが、その瞳はここから見る限り潤んでいるようだった。
「もう二度と、私たちに関わんないで。次私たちになんかしたら、絶対に許さない」
震えるその声には、間違いなく怒り以外の感情も含まれていた。それに気づいていないはずがないのに、ヒナちゃんの表情は一切崩れない。変わらぬ笑みで、城ヶ崎さんの言葉を受け入れた。
「わかった。そうする.......といっても、同じクラスだから、難しいこともあるだろうけどー。でも精一杯頑張るよ」
「......................あっそ」
長い沈黙の後、城ヶ崎さんは吐き捨てるように言った。そして、綾小路さんを方を振り返り、彼女の手を掴んだ。
「結奈、いくよ」
「あっ、ちょっと待ってっ!あたしも話がっ....」
「.......話?これ以上あいつと話すことあんの?」
城ヶ崎さんの問いに、綾小路さんはこくりと頷く。
「うん、愛佳にも関係ある話だから、一緒に聞いてくれる?」
「.........わかった」
城ヶ崎さんから了承を得た綾小路さんは、城ヶ崎さんの手を握ったまま、一歩前へと出た。ヒナちゃんはそんな綾小路さんの方を見ないで、城ヶ崎さんに笑いかける。
「あはは、随分早い再会だねー」
「........結奈、さっさと話つけて」
城ヶ崎さんはヒナちゃんの言葉に眉をピクリと動かしたが、ヒナちゃんの方を一切見ようとはしない。彼女たちの視線の矢印は三角関係を描いていて、彼女たちの良好な関係が戻ることはもうないことを示していた。
綾小路さんは城ヶ崎さんの言葉に、覚悟を決めたかのように頷いて、口を開いた。
「ヒナちゃんってさ、桜庭くんと付き合ってないんだよね」
「うん、付き合ってないよ」
ヒナちゃんの答えに、綾小路さんはぱあっと顔を明るくする。え、なにその感じ。もしかして、僕のことが好きとかそういうこと?だって完全にそういう態度だもんね。さっきのOLの件も勘違いじゃなかったし、僕信じちゃいますよ?
「......じゃあ、まだ桜庭くんの彼女探してるんだよね」
「うん、そうだよー」
城ヶ崎さんは、目を見開いて表情だけで綾小路さんに説明を求める。ヒナちゃんの方は一切見ない徹底ぶりだ。しかし、綾小路さんは気にせずに続ける。
「それ、もう必要ないよ。だって、桜庭くんにはもうふさわしい人いるもん」
「えっ!?」
驚きのあまり声を上げてしまった俺に、城ヶ崎さんからの刺すような視線が送られてくる。はいすみません。邪魔しません。
.....しかし、もうこれは完全に桜庭くんの彼女に立候補的な展開だな。うわ、どうしよう。嬉しいのは嬉しいんだけど、綾小路さんには申し訳ないが、彼女は付き合ってから二日で寝取られてもおかしくないほどの、寝取られ界の逸材だ。ヒナちゃんの邪魔が入ってしまう今、彼女と付き合うというのは、カモがネギを背負って異世界転移するようなものだ。そんなラノベ絶対売れない。
「......ふーん、それは初耳だなー。一体だれなの?その人って?」
ヒナちゃんの問いに、綾小路さんは、しめた!とでも言いたげにニヤッと笑った。
そして城ヶ崎さんの肩に手をおき、ぐいっと前に押し出した。
「ここです!ここにいます!!アイカが桜庭くんと付き合うからっ!だから桜庭くんを解放しなさいっ!!」
「「...........は?」」
僕と城ヶ崎さんは同時に声を上げ、綾小路さんの顔を凝視した。綾小路さんはまず僕の方を、あのドヤ顔四天王でも憤死するレベルのドヤ顔で見た後、城ヶ崎さんの方を見てにっこりと笑った。
「アイカ、そういうことだから、いいよね?」
「いいわけあるかっっ!!!!!!」
城ヶ崎さんは怒りの表情で、手の甲で綾小路さんの胸をビシッと叩いた。それに合わせ綾小路さんの豊満な胸が揺れる。いや、本当にその通り。見事なツッコミだ。なので後53回はお願いします。
「なんでそうなるのあんたっ!?!?胸に栄養行きすぎて頭おかしくなったんじゃないの!?!?」
「....も、もうっ!アイカセクハラだよっ!それと頭は健康そのものっ!なんでそんなこと言われなきゃいけないの!」
「な、なんでって...........はぁ」
城ヶ崎さんは苦悶の表情で眉間を抑え、固まってしまった。気持ちはよくわかる。僕もよく母親にそんな顔させてしまっているからな。あ、加害者側だった。ごめんやっぱりわからない。
「.....あんた、私があいつにどんな風に振られ.....振らせてやったか覚えてないわけじゃないでしょうね?」
城ヶ崎さんはものすごい斬新な物言いとともに、僕に鋭い視線を投げかける。その視線に僕が出血死する前に、綾小路さんが城ヶ崎さんの手をぎゅっと握って、再び城ヶ崎さんの視線を独り占めした。
「それは二人の間に誤解があったからだよ!それもヒナちゃんのせいなんだよ!普通にいってたらうまく行ってたっんだってっ!イツキくんのことだってあたしから説明するから、絶対大丈夫だよっ!」
「............大丈夫って、ひとまず結奈、私付き合いたいなんて言ってないから」
「そんなことないっ!言ってるよ!」
「いやだから言ってないって言ってんでしょ!!!!本人が!!!!!」
城ヶ崎さんはぜえぜえと肩で息をした後、深く深くため息をついた。
「........だいたい、私があいつになにしたかわかってんの?あれからまだ二日もたってないのよ?それなのに付き合うって......あんたホント馬鹿だわ」
「バカじゃない!それだってヒナちゃんにやらされたんじゃん!」
「...........違う。私が私の意思でやったの」
「違うっ!ヒナちゃんにやらされたの!」
「.......だ!か!ら!本人が自分の意思でやったって言ってんでしょ!!!それをあのクソ女に利用されただけ!!!わかった!?!?」
「だからそうじゃないって言ってるもんっ!アイカはそんな娘じゃない!」
「.....あんた、私のこと一切わかってないね。私は自分の気に食わないやつには、いつだって嫌がらせしてきたから.
....そうやって今まで生きてきたの。わかった?」
「わかんないっ!!!てゆーかアイカよりあたしの方がアイカのこと分かってるから!!!あたしが言ってることの方が正しいのっ!!!!」
「............ッ、あんた、ほんと馬鹿だね」
「バカじゃない!ほんとのこと言ってるだけだもんっ!」
「......ふふふ」
綾小路さんたちの言い合いを、肩を揺らしながら聞いていたヒナちゃんが、ついに耐えきれなくなったのか、声をあげながら笑い始めた。
城ヶ崎さんはそんなヒナちゃんをキッと睨みつけたが、すぐにぷいっと視線を逸らした。綾小路さんは不満げにヒナちゃんを見つめる。
「ヒナちゃん、なにがおかしいのっ!?」
「ふふっ.......ごめんごめん。相変わらず仲がいいなーって。あ、それと、私は別にいいよー?」
「....へっ?」
綾小路さんは一瞬首をひねったが、すぐにぱあっと顔を明るくした。
「それって桜庭くんとアイカが付き合ってもいいってことだよね!?やったよアイカ、これで全部おーるおっけーだよっ!!」
「お前ちょっと黙れ」
感動からか城ヶ崎さんに抱きつこうとした綾小路さんを、城ヶ崎さんはアイアンクローで出迎えた。綾小路さんが小顔だったのが災いして、綺麗に決まってしまっている。
「ちょ、アイカアイカ、いたいいたいって、アイカいたいっ!」
「二度とふざけたこと言うな。分かったか?」
「わかったわかったわかりましたっ!言わないです言わないから離してっ!」
綾小路さんの必死の懇願が身を結び、彼女は城ヶ崎さんの手から解放された。綾小路さんは頭をさすりながら、涙目で城ヶ崎さんを見つめる。
「ひ、ひどいよっ、アイカっ」
「仕方ないでしょ。あんたがしつこいんだから」
「そ、そうかも知んないけど.....桜庭くん、このままじゃ大変なんだよ!?」
「........大変?どこが?彼女探してもらうんでしょ?.....よかったじゃん。私みたいな尻軽女じゃない、素敵な彼女探してもらえるんだから」
そう言って城ヶ崎さんは、向けられたもの全てが凍てついてしまいそうな、冷たい視線を僕に送ってきた。当然僕の体は凍りつき、唯一無事だった首を使ってブンブン頭を横に振った。そんな僕を見て城ヶ崎さんはふんっと鼻を鳴らす。そんな彼女の耳元に、綾小路さんは口を近づけ、ひそひそ話の体勢をとった。
「ちょっとアイカ、よく考えてっ!桜庭くんは私たちの代わりになってくれたんだよっ!?私たちが嫌なことされる代わりに!だったら桜庭くんも何か嫌なことされちゃうに決まってるよ!相手はヒナちゃんなんだよ!?いいことだけするわけないじゃん!」
.......残念ながら、丸聞こえである。僕でこうなのだから、ヒナちゃんはもっと快適に聞くことができただろう。現にヒナちゃんは口元に手を当てて笑いを堪えているし。
「.......はぁ.......それで、それがどうしたっていうのよ」
もはや注意する気も失せたのか、城ヶ崎さんは呆れたように綾小路さんに問う。途端、綾小路さんは顔を真っ赤にして城ヶ崎さんに詰め寄る。
「どうしたって、アイカなにも思わないのっ!?!?桜庭くんはあたしたちのために犠牲になってくれたんだよ!!だったら、次はあたしたちが桜庭くんを守ってあげなきゃ!!!アイカもそう思うよねっ!?!?」
もうひそひそ話をするつもりはないらしく、綾小路さんは手をブンブン振りながら大声で言う。それに対して城ヶ崎さんは眉をひそめて不快感をあらわにする。
「まったく思わない。私そんなの頼んでない。あいつが勝手にやっただけでしょ。だったらあいつが一人でなんとかすべきでしょ」
「ちょ!なんでそんな思ってもないこと言っちゃうのっ!!!アイカのバカっ!!!」
「馬鹿とはなによ馬鹿とは!!!思ったこと言ってるし!!!」
「言ってない!!!ほんとは助けたいって思ってる!!!」
「思ってない!!!あんた本当にしつこい!!!!!」
「ううん、思ってる!!!アイカほんとは優しい娘だもんっ!!!!」
「.............だぁ!かぁ!らぁ!思ってないって本人が言ってんでしょ!!!!!!あんた本当に馬鹿なんじゃないの!?!?!?」
「..あはははははっ」
再び耐えられなくなったヒナちゃんの笑い声に遮られ、彼女たちの言い合いはピタリと止まった。ヒナちゃんは目元の涙をぬぐいながら、彼女たちに歩み寄る。
「結奈ちゃんの言いたいことも、愛佳ちゃんの言いたいこともわかったよ......それを踏まえて、私から提案があるんだけど、いいかなー?」
「いいわけないでしょ。あんた話しかけて」
「いいよっ、言ってみてっ!」
城ヶ崎さんの口を両手で塞ぎながら、綾小路さんはずいっとヒナちゃんに顔を寄せる。
「うん。結奈ちゃんは、私と桜庭くんを引き離したいんだよね」
「......えっ、なんでわかったの!?」
「..................」
その場に白けた空気が流れる。流石のヒナちゃんも戸惑い気味だ。城ヶ崎さんなんて抵抗をやめて、死んだ魚のような目で綾小路さんをみている。きっと僕も同じような目をしていることだろう。
ヒナちゃんは一つ咳払いをして、
「まあ、それは置いといて.....それで、私からの提案なんだけどー、結奈ちゃんと愛佳ちゃんも一緒にさ、桜庭くんの彼女探ししない?」
「「は?」」
「わかった!!そうする!!!」
僕と、綾小路さんの手から逃れた城ヶ崎さんが、疑問の意を表明するのとほぼ同時で、綾小路さんは大きく頷いていた。僕たちが信じられないようなものを見る目で綾小路さんを見ると、綾小路さんは親指をぐっと立てて、あのドヤ顔三銃士でも溺死するレベルのドヤ顔を見せた。
「そっか、よかったー。じゃあ、これからも仲良くしようねー」
「うんっ!!わかったっ!!!」
「なに勝手なこと言ってんのよあんた!?!?!?」
元気よく頷く綾小路さんに、城ヶ崎さんは鬼の形相で詰め寄った。
「え?何か嫌なことある?アイカが彼女になれって言ってるわけじゃないんだよ?だったらいいんだよね?」
「良くないっ!!!!あんた私が言ったこと聞いてなかったの!?!?こいつとはもう関わんないって言ったばっかだろ!!!!!」
城ヶ崎さんはヒナちゃんを指差しながら綾小路さんを怒鳴りつける。しかし、綾小路さんは一切怯まない。
「それ、無しっ!」
「.........はぁ?」
「それ、無かったことにしよっ!ねっ?いいでしょ?」
「.....................」
城ヶ崎さんはしばらくの間、苦悶の表情で目頭を押さえた。そして、綾小路さんを手をぐいっと掴むと、そのまま彼女を引っ張ってその場から立ち去ろうとした。
「ちょっとアイカ、どこ行くの!?」
「あんたとあいつが話すことを許した私が馬鹿だった。戻るよ」
「え、ちょ、ちょっと待って、ヒナちゃん、約束っ、約束したからねっ!?」
「うん、わかってるよー」
「あいつと話すなって言ってんでしょ!!ほら行くよ!!!」
そうして綾小路さんは城ヶ崎さんに引きずられる形で去っていった。