11. おっぱい
ヒナちゃんが僕の手を引き連れて言った場所は飼育小屋で、先ほどもう世話になることはないと別れを言ったこの場所に、すぐに戻ってきてしまう結果となってしまった。
ヒナちゃんはここに着くや否や、僕の手を離し、非難するような目つきで僕を見た。
一体なんだというのか。しっかり約束を守った人間に対して向ける目じゃないぞ。
「なんだよ。ずいぶん不機嫌そうだな。何か問題でも?」
「...........はぁ。悠人くんってさー、女の子と付き合ったことないでしょ?もしかして童貞?」
「......はぁ全然そんなことないんだけどぉどこに根拠があるのよぉバカじゃないのもぉやめてよほんとにねぇー」
思わず早口のオカマのような反論の仕方をしてしまった。しかし、これだけ事実無根の誹謗中傷を食らってしまったからには、それも仕方がないだろう。城ヶ崎さんからの告白されたという事実からもわかるように、僕は結構モテるのだ。そんな僕を捕まえて、女の子と付き合ったことないとか.......童貞とか。本当に失礼な話である。
......まあ、ただ、僕は絶対に寝取られない、清純な女性を求めているわけであって、それでいて瀬戸内海の天使と呼ばれるほど性格のいい僕からしたら、自分にないものを他人に求めるのは考えるところがあって、つまりは僕も清廉潔白な男でなければならないということだ。
つまりはたとえ、たとへ僕が女性と付き合ったことのない童貞だったとして、それはむしろすっごくいい事だというか、一番女にモテるタイプということになるわけで、つまり僕は女と付き合いまくりのヤリチンということになるのだ。ふぅ〜完璧〜。
すっかり平静を取り戻した僕を、ヒナちゃんは変わらず冷めた目で見た後、ため息交じりに口を開いた。
「根拠はバリバリあるよー。だって、言おうとしたでしょー、結奈ちゃんに」
「え?何のこと?」
「.......はぁ」
ヒナちゃん大きく肩を落とし、かわいそうな子を見るような目で僕を見た。その後、少し恥ずかしそうな様子で口を開いた。
「それは、その、私が、君の彼女探しに協力する、理由だよ」
「ん?ああ、あの愛がどうとかこうとかの。まあ、そうだね。それを言わないと話にならないから」
ヒナちゃんはそう答える僕に軽蔑の目線をやったかと思うと、大きくため息をつき、呆れ口調で話し始めた。
「普通、私たち以外に話す?かなりないなー、それ」
「ええ?なんで?」
「.........」
ヒナちゃんはジト目で僕を見た後、何かを諦めたかのように肩を落とした。僕がエロゲにどハマりし始めた頃の母さんの態度とそっくりだ。
......まさか、ヒナちゃんは僕の母親になりたいのだろうか?だとしたら、非常に困る。確かに僕は新たな母親を欲しているし、その巨乳に母性のようなものを感じてはいる。だがしかし、流石の僕でも同い年で同じ学校の同じクラスの女の子にママになってもらう趣味はない。どうせママにするんだったら、逆に年下の方がいいってなもんだ。
.......そう考えると、僕の一番のママ候補は、僕の妹かもしれない。僕より年下で、何より血が繋がっているので、彼女が僕のママになっても一切違和感がない。胸は少し寂しいものがあるが、それもまた乙なものだろう。
よし、帰ったら早速妹に僕のママになるよう頼んでみよう。どんな絶交のされ方をするか今から楽しみだ。
僕が一つの結論を導き出した時、ヒナちゃんは僕の眼前に立っていた。彼女の豊満な胸が今にも当たりそうだったので、思わず半歩下がる。ヒナちゃんは僕を上目遣いで見て、少し恥ずかしそうに言った。
「だって、恥ずかしいでしょ。その......」
「........ああ、確かに。愛を求めてる、なんてこと、クラスの同級生にバレるのなんて最悪だもんね。まあ、そういえば昨日も恥ずかしそうにしてたし。今なんか一回睡眠挟んで冷静になってるだろうし、さらに恥ずかしいんだろうなー。これはごめん。僕の配慮が足りなかったよ」
僕の言葉に彼女は咳払いで答え、僕を睨みつけた。
「とにかく、絶対に言っちゃダメだから。特に結奈ちゃんには。わかった?」
「........んー」
僕の微妙な反応に、ヒナちゃんは苛立たしげな態度をとった。そして、自分の制服のブレザーを脱ぎ、ご自慢の胸を突き出してみせた。
「....はい、好きにしていいよ。その代わり、絶対に言わないでね」
「いや、ちょっと待って」
「何?ブラウスも脱げってこと?ほんと変態だねー」
ヒナちゃんは呆れた視線を僕にやる。
待て待て。なんだこの扱い。まるでヒナちゃんが被害者で、僕がど変態の痴漢野郎かのようだ。後ブラウスは着たままでお願いします。って違うっ!
「なんでそんな話になった!?一回もそんな要求した覚えないぞ!」
「要求はしてなくてもわかるよー。だって悠人くん、私と話すとき、ほとんどおっぱいしか見てないよ」
.......そうだったのか。通りでヒナちゃんといるとき、彼女の胸の感想ばかり思いつくわけだ。
しかし、このままではまるで僕が、女の子の弱みを握り、体の関係を迫るNTRものによくいるチャラ男のようではないか。流石にそれは容認できないな。僕にとって一番忌むべき存在に、僕がなってしまっているなんて。ここはしっかり反論させてもらおう。
「やれやれ、それは誤解だよ。僕は確かに君のおっぱい見ているかもしれないが、揉みたいと思って見てるわけじゃないよ。ただ、ええ乳してはりまんなー、こんな乳一回は揉んでみたいもんやわー思って見てるだけだよ」
「つまりおっぱい揉みたいってことだね」
........参ったな。自分の本心を隠し、うわべで生きていくことが正しいとされるこの現代社会に反発して、常日頃正直に生きてきたのが裏目に出てしまった。うん、そりゃやっぱり、おっぱいは揉みたいもん。
僕は一つ大きな咳払いをした後、むしろ偉そうに胸を張って見せた。こういう時は自分の非を認めてはいけないのだ。
「確かにおっぱいはめちゃくちゃ揉みたい。それは認めるよ。ただ、卑劣な手段を使ってまで揉みたいとは思わない。大丈夫。ヒナちゃんの秘密はしっかり守るよ」
「.......ほんとにー?」
ヒナちゃんはいまだに僕に疑わしい目線を送ってくる。きっと僕が今も彼女の胸に釘付けなのが原因だろう。僕は渋々彼女の目を見つめた。
「大丈夫。僕だって君に約束を守ってもらわないと困るしね。自分がやられて嫌なことはしないよ」
「......ふぅん、そっかー。じゃあ、女の子の胸を見るのもやめないとねー」
いやなんでだよ。それは見てもいいでしょ普通。だって僕、同級生の男子に胸を凝視されても全然嫌じゃな.........いやめちゃくちゃ嫌だったわ!だってすっげー気持ち悪いもん!うわ、そう考えると僕はヒナちゃん相手とはいえ、女の子になんてことをしていたんだ。これからは悟られないようこっそり見ることにしよう。
しかし、そこまでして秘密のしたいことだったのなら、先に秘密にするよう言ってくれればよかったのに。それを怠っておいて、僕だけ悪者扱いは納得いかない。
その旨をヒナちゃんに伝えると、彼女は呆れた様子で言った。
「もー。わかんないかなー。何かを恥ずかしいと思ってるってことを言うのも恥ずかしい、それが女心というものなのだよ」
...........なんだそれ!しょーもなっ!
とても腹が立ったので、彼女の胸を思いっきり凝視してやった。そうしたら怒りの感情がすっと消えた。やっぱりおっぱいは世界を救うね!
⁂
「ふう〜、安心したらお腹減ってきたー。どっかに食べに行こうかー」
「....いやいや、もうとっくの前に授業始まってるぞ。というかまだ10時にもなってないし」
どれだけ大食漢なんだ。だからこんなにも乳が育ったのか、という視線を、彼女が伸びをした拍子にさらに強調されることになった胸に注ぐと、それに気づいたのか、ヒナちゃんは僕を見て苦笑した。
「君、本当におっぱい好きなんだねー」
「はい、大好きですっ!」
つい、いい返事を返してしまった。仕方ないよね、男の子だもん。
「あははっ、ほんとに正直者だねー。......そうだ」
ヒナちゃんは悪戯っぽく笑った。その笑顔がやけに妖艶に見えて、僕の胸は意志と反して高まる。
彼女は両手を使い僕の右手を持ち上げると、それを彼女も胸に押し付けた..........お”お”ぉんんっっっっっ!?!?!?!?!?
え、おっぱ、おっぱい、おぱい右手におっぱいがあるアルyo。なぜ?なぜにおっぱい?時は大おっぱい時代?おっぱい王の言葉で数多あるおっぱいたちがおっぱいを追い求めておっぱいラインを航海する追いおっぱい時代なの?いや意味わかんない。
.........落ち着け。落ち着くんだ。とりあえず深呼吸だ。深呼吸をするんだ。深呼吸さえすれば大抵のことが解決する。みんなも何か困難にぶつかった時は、一度深呼吸をして見ることだ。一気に冷静になれるよ。ということで、僕もやってみようと思いま〜す。皆さん、お先に〜。
すぅぅぅー。
はぁぁぁー。
やっっっわらかぁぁぁぁっっっっっっっっっっっっ!!!!!!!!!!!!!!!!!
不味い不味い不味い!!!!冷静になった結果彼女の胸の感触をダイレクトに食らってしまった!!!!堕ちる!!!!こんなの堕ちちゃうゔぉぉぉぉぉ!!!!!
ちょっと、いや、ほんとに真面目に不味い。このおっぱいは本当に不味いです。とりあえず一旦手を離そう。そうじゃなきゃほんとにやばいから。
一つの結論に至った僕は、彼女の手を振りほどき、彼女のおっぱいから手をはなし............てはいなかった。
いや、だってさ、確かに彼女は人を弄ぶ性悪女だけど、それでも女性は女性なわけで、その女性の手を力ずくで振り払うなんてことは、男として許されざることだから、ここはもう手を退けるっていうのは無理だわ。.......先ほどその女性の手を思いっきり掴み引っ張ったことは忘れてください。
うん、とにかく今は、僕の右手はヒナちゃんにくれてやろう。それよりも優先すべきことがあるんだから。
僕は高鳴る鼓動を抑え、冷静に彼女を問いただした。
「い、いいいいいったい何のつもりりりなんだっですかぁっ先程おっぱいの件に関してはしっかりとお断りさせていただいたと思うんですがががががまだぼっくのことが信用できないんですかかかか」
「ううん。そうじゃないよー。これはただ単に、おっぱい大好きな君へのサービスだよー♪」
サービス?こんな天国にサービスで連れてってもらえるの!?天使!?ヒナちゃんは天使なのか!?そういえば、旧約聖書に彼女の名前が載っていたような気がする。旧約聖書読んだことないけど。
.........落ち着け。何を考えてるんだ僕は。この悪魔のことを天使だと思うなんて、馬鹿馬鹿しい。未だ僕のことを疑っているか、何か他の狙いがあるに違いない。
僕は高鳴る鼓動を抑え、冷静に彼女を問いただした。
「うううううっうう嘘をつくななそんなわっけなだろ正直に言えええええたったら」
「もおっ、ほんとだってー。私は悠人くんと仲良くしたいんだからさー、悠人くんにサービスするのは当たり前だよー」
当たり前?サービスでおっぱいを揉ませるのが当たり前なのか、最近の女子高生は。もうっ、そんなんだから僕の理想の女性がなかなか見つからないんだ。もう少し女学生たちがしっかりとした貞操観念を持つよう、日本の教育は変わって行くべきだと思うな、本当にもうっ。
まあ、ただ、彼女が本当にサービスのつもりでやっているなら、僕はこの状況を受け入れるべきかもしれない。
いや、だってさ、彼女が好意でやってることを拒否して彼女の機嫌を損ねると、何しだすかわかんないじゃん?もしかしたら綾小路さんたちへの嫌がらせを再開するかもしれないし、ここは、仕方なく、仕方なくだけど、本当に悔しいんだけれど、このおっぱいを受け入れる他ないんだ。あぁ〜クッソ。腹たつ〜。
.............ああそうだよッ!!!このまま触ってたいんだよッッ!!!もう正直に言います!!!だっておっぱいなんて触ったことないですもん!!!もう本当にごめんなさい、僕堕ちます!!!
「.............あんたら、何やってんの」
その瞬間、その場の空気は完全に凍り、僕の全身から冷や汗が吹き出た。
恐る恐る振り返ると、そこには、仁王立ちで立つ城ヶ崎さんと、彼女の肩から僕たちを覗き込み、唖然としている綾小路さんがいた。