1. 告白
「私と..............付き合ってください!」
そう言って彼女は頭をさげる。学校でも一二とはいわないものの、かなり可愛い部類に入る彼女からの告白は普通の男子だったら誰でも嬉しいものであろう。
だが、残念ながら普通の男子とは程遠い考えを持った僕としては、この告白は心苦しいものであった。
これから彼女を傷つけてしまうことは明白なのだ。心苦しくもなる。
「ごめんなさい」
僕は彼女に合わせるように頭を下げながらそう言った。気の利いたことが言えればよかったのだが、そういうのが得意じゃない僕が下手に気を利かせても、逆に彼女を傷つけてしまうかもしれない。結局選んだのは謝罪の一言だった。
長い沈黙があり、耐えきれず顔を上げると、彼女は静かに泣いていた。僕から振られたことがそんなにショックだったのか。申し訳ないことをしたな。
やがて彼女は手の甲で涙を拭き、僕に向き直り言った。
「.........なんで、ダメなの?理由、教えてくれる?」
理由、か。
それを彼女が聞いたら気分を害することはまず間違い無いのだが、勇気を出して告白してくれたのだ。ここは誠心誠意を込めて説明するべきであろう。
僕は覚悟を決め、彼女の目を真正面で捉えながら言った。
「君が寝取られる可能性が高いからだ」
「.........................は?」
彼女はあっけにとられた表情で僕を見つめた。僕はかまわず続けた。
「君、二週間前までサッカー部の主将と付き合っていたね」
「.........え?あ、うん」
「君が僕に明らかなアプローチをかけ始めたのは一ヶ月前のことだ」
「................そ、それがなんなの!?別にいいじゃん!!」
彼女は顔を真っ赤にしながら怒って見せた。僕はかまわずつづけた。
「君はサッカー部の主将と付き合いながら次の交際相手を探していたということだ」
「そ、そんなの普通じゃん!!みんなやってるよ!!ていうか寝取られるってどういうこと!?私が浮気するってこと!?失礼すぎじゃない!?」
「浮気するとは言っていない。あくまで可能性が高いということだよ。それにまだ続きがある」
僕は怒る彼女を冷静に見つめながら続けた。
「一番大きな問題として言えるのが、僕が君の彼氏候補の第3番目だったということだ」
「...........は?」
「1番の候補は僕たちと同じクラスの緒方君。2番目はサッカー部の副主将。どちらにも断られたから僕に告白したのかな?」
彼女は口をポカーンと開けたまま硬直している。
どうやら図星だったらしい。
「君はとにかく恋がしたくてしたくてたまらない、というタイプの女性のようだ。そういった女性はどうしたって普通の女性よりも浮気の確率が高いと言わざるをえない。なので、今回の告白をこと」
僕が最後まで言い切る前に彼女からフルスイングのビンタが飛んできた。危うく吹っ飛びそうになるのをなんとか踏みとどまった。
「あんた、最低ッ!!!あんたなんかに告白したのが間違いだった!!!死ねッッ!!!」
そう言って彼女は怒りに髪をはためかせながら、この屋上から学校内へと続くドアを開け去って行った。
僕は彼女にビンタされジンジンと痛む頬を抑えながら、かなりきつい言い方をしてしまったなと反省する。
あまりにも彼女が寝取られるの丸出しの女性だったので、思わず興奮してしまったのだ。
僕の理想は高すぎるのだろうか、という考えがふと浮かんできた。
彼女がいう通り、彼女が今の時代の一般的な女子高生の考え方だとするなら、僕の理想、『絶対に寝取られない女性』というのを見つけるのは非常に難易度の高いものかもしれない。
もしかしたら、この世に存在しないのでは...........
「何を弱気になっているんだ、僕は」
一体この世の中に何人の女性がいると思っているのだ。それこそ星の数ほどいるわけだ。その中に『絶対に寝取られない女性』がいたっていいじゃないか。
「僕は絶対に寝取られない女性を見つけるぞ〜〜〜〜〜!!!!!」
おっと、無意識に屋上の柵から乗り出し夕日に向かって叫んでしまった。青春にもほどがあるな。
ただ、今の叫びのおかげで僕の中での決意はさらに強まったのは間違いない。
たとえこれからどんな苦難が僕を襲いかかったとしても、僕は絶対に『絶対寝取られない女性』を見つけ出してやる。
僕は沈みゆく夕日を見ながら、心の中でもう一度叫び、屋上を後にした。