~序章~
目・耳・鼻・舌・皮膚を通して生じる五つの感覚。
外界からの光を刺激として生じる「視覚」
音波が鼓膜を振動させ、内耳の渦巻管に達することで生じる「聴覚」
揮発性物質が鼻腔上部の粘膜に付着し、嗅覚器官を刺激する時に生じる「嗅覚」
味蕾が唾液に溶けた化学物質を刺激として受容することで生じる「味覚」
物に触れることで生じる「触覚」
人間は基本、大きく五つに分類された感覚器官「五感」を有している。
五感の中の一つが機能を失うだけで、日常生活は困難になるだろう。
五感全ての感覚を失うと、自分以外のすべての存在を知覚できなくなる程に、五感は生きていく中で必要となっている。
そんな中で五感とは別に、もう一つの感覚が発現する事が稀にある。
「第六感」というものを耳にした事は無いだろうか?
本来直接見ることが出来ないとされている霊が可視化するという「霊感」が良い例だろう。
この世界には第六感を持つ人間がたくさんいると僕、六道 歩は思っている。自覚できていないだけで、自然と使っている人だって多分いると思う。
そんな人達が何処で何をしているかなんて知る由もないけど、一度でいいからこの目でちゃんと確かめたい。あわよくば自分が経験したい。
テレビでよく見る霊感や超直感、第六感かは知らないけど、幽体離脱?とかそういった超能力みたいな感じのを一度生で見てみたい。
いや、一度だけ見たことがある。
というか、見たことがあるかもしれないという方が適切かもしれない。
あれが本当に第六感とか超能力とかいう類のものかは分からない。
遠目だったからか、なにをしているのかよく見えなかった。何かの撮影かとも思ったけど、周りにカメラがある様子はないし、ましてやCGはカメラで撮ったあとで付けるものなのだから、映像ごしじゃなく生で見ることなんて出来ないはずだ。
そう、確かに見た。はず。
今でも信じられない、人が消えるなんて、、。
あれは僕が学校の友達と夜まで遊んで、ゆっくり帰っていた日のこと。
街灯もない真っ暗闇の河川敷を自転車で走っていると、河原に誰かが二人で何かしているのが見えた。
周りには誰もおらず、河川敷なのだから、虫の鳴き声くらい聞こえてもいいというのに、川の流れる音だけが、辺りに静かに響いている。
僕は様子が気になり、自転車を停めて草影に身を潜めて盗み見る。
黒い服でも着ているからだろうか、一人はよく見えなかったが、もう一人は竹刀袋を背中に掛けた青年だった。
と、黒いやつが一直線に青年に飛び掛る。
するとその青年は軽やかに避けて、ある程度間をとったあたりで止まり、何かぼそっと言いながら竹刀袋を手に取る。手に取ったかと思うと、そこには僅かな光さえ反射させる程に綺麗な刀を持っていた。
竹刀袋に、刀!?
見惚れていると、今度はその青年が黒いやつに刀を振りかざしていた。
本当に一瞬だった。黒いやつが、避けようとする素振りさえ出来ずに切られたではないか。
はっ!と息を呑んだ。
声が喉のそこまで来て、今にも叫ぶ寸前だった。
僕は今すぐここを立ち去りたかった。
動揺して数秒間立ち上がることが出来なかったが、少しだけ落ち着いた。
時間を見ると思ったより時間がたっていた。いつも通り帰っていればもう家に着いていてもおかしくない時間だ。
ずいぶん見入ってしまっていて母からの着信にも気づかなかった。
今日はお父さんのお説教が待ってるな、、と思いながら家に帰った。