page5 ビンチと女性騎士
今回から少し文の書き方を変えております
視点の切り替わりなど、まだまだ読みにくいとは思いますが読んでいただけると幸いです
「マジかよ…」
転生早々ピンチである、生まれてそのまま死にましたなんて洒落にもならない。
(確か野犬と対面したときの対処法は…)
基本的に言われている野犬から逃げるための対処法、それは後ろを見せず目を合わさずゆっくりと後ずさる…。しかし、後ずさりをしようにも囲まれているためどうすることもできない。
とりあえず目をあわさないように正面の野犬と対峙する、後ろは見えないが左右の野犬の行動も気にする。そんな中、ふと本で見た出来事を思い出す。
(こいつら…魔物だ!)
野犬と思っていたが全身は黒く、本の世界では確認ができなかったが目が赤い。ゆっくりと周りを確認すると全部で6体の魔物に囲まれていた、恵太に攻撃の意思がないと感じたのかじりじりと距離を詰めてきている。
(6匹とも動いているってことは魔法を使ってくる奴らはいないのかな…?)
(後ろにも下がれないとなるとやることは1つだけだな)
周りの動きに注意してその一瞬を待つ、魔物との距離が5m程になったとき魔物が動き出した。
正面の魔物が3匹とも恵太に向かって駆け出す、後ろの魔物も同じように向かってきているだろう。恵太との差が2mほどになったとき、正面の魔物が跳躍する構えになった。
(来る!)
魔物が飛び出したタイミングと同時に地面を蹴る、向かう先は飛んできた魔物の方向。飛び出した魔物の横を走り抜けそのまま全力で走り出す、後ろを確認すると6匹ともこちらに向けて走り出していた。
その後、後ろを見ることなく一心不乱に走り続ける。隙をついて逃げ出せたといっても相手は魔物、しかも犬型の魔物だ。追いつかれるのは時間の問題だった。
暫く直線に走ると魔物の息遣いが聞こえてくる、すぐ後ろまで追いついてきているようだ。恵太は地面を横に蹴り直角に方向転換を行うと、すぐさま直線状に走り出す。
少し息遣いが後方になり、魔物との距離ができたことを感じながらひたすらに走る。
「はぁ・・・はぁ・・・」
どれくらい走っただろう、息が上がり足が重くなってきた。魔物の息遣いも近づいてきている、早く方向転換しないと追いつかれる。
「おわっ」
方向転換しようと地面を蹴ったが踏ん張りが足りず体制を崩す、すぐに魔物が飛び乗ってきて恵太の顔を見下ろす。
「くそっ・・・このっ・・・」
腕を振り回し抵抗を試みるがギリギリのところで顔を引っ込ませかわされる。
「どけっ・・・ぐっ・・・」
振り回していた腕に痛みを感じ腕を確認する、腕は後続の魔物によって噛みつかれ自由を奪われていた。予想以上のあごの強さに牙が食い込む、振りほどこうと腕を動かすがガッチリと噛まれているため思うように動かせない。
上に乗ってきている魔物も見た目以上に重く、肩を押さえられていることもあり体をひねることすらままならない。そんな中もう一方の腕にも痛みが走る。
「はぁ・・・ここまでか・・・」
転生早々魔物に襲われ、逃げきれずにこのまま殺される。短い転生生活だったと思いながらあきらめたように目をつむる。
目をつむる直前に見たものは魔物が口を開き、恵太の喉元に噛みつこうとする瞬間。
(どうかせめて痛みが続くなんてことありませんように)
そんなことを思いながら魔物のとどめを待つ。
・・・・・・ザシュ、ザシュ
「ギャン!」
(・・・・・・・・・・・・・・・・ん?)
覚悟していた痛みが喉に感じない、その代わりに何かを切る音と犬の鳴き声が聞こえた。
(これはあれか?よく見るお約束の・・・)
そう思いながらゆっくりと目を開けると覗き込んでくる顔があった、それは犬ではなく・・・騎士か?
「大丈夫か?青年」
「あ、はい、ありがとうございます」
騎士が差し出した手を握り体を起こす、周りを見回すと黒い砂の塊が6つ魔物の残骸だろう。その他には先ほど声をかけられた騎士の他に2名の騎士と1人は杖を持っている、魔導士か?
魔導士の後方、少し遠くに馬車が止まっているのも確認できる。
(助かったのか・・・)
ほっとしながら再び騎士を見る。逆光で顔は見えないが立派な鎧を着ており、腰には剣を携えている。
「立てるか?」
「あ、はい」
地面に手をついて立ち上がる。
(そういえば噛まれたはずの腕、痛くないな・・・)
立ち上がって腕を確認すると、服は破れていたが噛まれたはずの傷口は見当たらなかった。
「魔犬に噛まれたところはそこの治療師がなおしたぞ」
そう言って杖を持っている人を指さす、なるほど治療する魔法使いってところか。
「ありがとうございます」
治療師の人にお礼を言い、この場所のことなど聞いてみようと騎士へと向き直る。
(!?・・・女性だったのか・・・)
立った状態で改めて見ることで先ほどは逆光で見れなかった騎士の顔がはっきりと見える、身長は恵太の肩ぐらいで長髪を後ろでポニーテールしている顔立ちのはっきりとした女性だった。
可愛いなぁ・・・
「なっ!お前!何を言っている!」
突然女性騎士の顔が赤くなり狼狽えだした。どうやら声に出ていたようだ。
「すみません、急に変なことを口走ってしまって・・・」
「いや・・・いい、ところで君はどこから来た?」
「どこと言われましても・・・気づいたらここにいたとしか」
「記憶喪失か?名前はわかるか?」
「はい、星間恵太です」
「この辺りでは聞いたことがない名前だな・・・」
女性騎士はしばらく考え込むと、突然こちらをじっと見つめてくる。
「な・・・何か・・・?」
「今から星間、君を王都へと連れていく」
「いえ、結構です」
「なぜだ?」
「王都に行ってもどうすればいいかわからないし」
「寝床や食事は気にしなくてもいいぞ、記憶が戻るまでは面倒を見てやる」
何言ってんだこの人は、出会って早々王都へ連れていく、しかも寝床も食事も面倒見るって・・・。いきなり言いだして周りの騎士たちが何も言わないってことは、この女性騎士が王都の人間で王族かそういった権力があるということだろうが・・・。
「一般人である僕が王都だなんて、それにいきなり面倒を見ると言われても・・・」
「一時保護みたいなものだから別に気にすることはないぞ?」
「それでもちょっと・・・」
「何か訳ありか?」
「はい、まぁ・・・」
「そうか・・・」
再び考え込む女性騎士、それを傍らで見ていた騎士から提案が上がる。
「では、王都の近くの村ではどうでしょうか?そこなら何かあったらすぐに駆け付けられますし、星間さんも王都でなければ問題ないでしょうし」
「ふむ・・・星間はどうだ?」
「それならまぁ・・・」
騎士の提案に乗り王都行きだけは免れることはできた、それにしてもこの人なぜここまでしてくれるのだろうか?やはり自分が助けた者が知らないところで死んだりしたら夢見が悪いということなのだろうか。
騎士の人に促され、僕は馬車へと乗り込んだ。