page4 異世界観察と異世界
「「おやすみなさい」」
「はい、おやすみ」
「ちゃんと寝ろよ」
風呂から上がって暫くリビングでくつろいだあと、両親に就寝の挨拶をする。ねねは既に僕の胸の中で寝息を立てている。
ねねを部屋に寝かせ自分の部屋に着くと、机に座りゼナスペリアを開く、起動音と共に本から淡い光が放たれた。
はじめに世界地図が映し出される、中央に1つとその周りを囲むように4つの大陸で成り立っているようだ。
「さて、色々見てみますかね」
地図を拡大していき街や村を探す、平原のような場所に舗装されていない道を見つけ、それを辿っていくと小さな村が現れた。
家は木造で畑が多く見え、村人と思われる人たちが働いているところも確認できる、村の外周は木の柵で囲まれていた。
「村の名前とかあるのかな?」
村の入り口と思われる場所にアーチ状の看板があるが、上からしか見れないため何か書かれているか確認することはできない。
暫く村人を観察していると急に村人の動きが慌ただしくなった、子供と思われる村人は家に入っていき、代わりに家から斧や鍬を持った村人が上の方に走っていく。
その方向に視点を動かすと、村の入り口で犬のような黒い魔物と村人が対峙していた。魔物は3匹、村人は徐々に集まりだし村に入ってこないように入り口を固め、その後ろでは別の村人が村を囲んでいるものと同じ作りの柵を入り口に設置しようとしている。
外にいる村人は10人ほどだろうか、各々が武器となるものを構え魔物と向き合っているが、後方にいる2人だけ武器も何も持っていない。指示を出す役なんだろうか。
さて、どうなるかと見ていたら魔物側が先に動いた。
2匹が村人に向かって駆け出す、同時に村人は武器を前に突き出し守る体制にはいる。飛び掛かった1匹は村人の鍬によって打ち返されたが2匹目が村人の上へ飛び頭を噛み砕いた。直後に別の村人の鎌が魔物の首をはねる。打ち返された魔物が体制を立て直しその村人の腕に向かって飛びかかろうとする、その時後方の2人に動きがあった。それぞれの前方に突き出された両手から火の玉が打ち出される。
(あの2人、魔法使いだったのか)
魔物は空中で最初の火の玉を躱すが、2つめが命中しその身を火で焦がした。残る魔物は1匹、決着が着いたかと思ったその時その1匹の体が赤く光る、それに気付いた村人が数名魔物に向かうが魔物の発動の方が早く、2つの火の玉が先頭の2人に当たる。燃える2人の横を通り過ぎた村人が魔物の首をはね、戦闘は終了となった。
燃えている村人に水をかける村人、暫くして1人は入り口に近い小屋の中へ、もう1人は頭を噛み砕かれた村人と一緒に別の方向へと運ばれていく。魔物は体が砂のようになって崩れていく、拡大すると砂の中に黒い石のような物がある。村人がそれを拾い村へと戻っていく。
日常生活では見ることがない人の死ぬ瞬間を見た恵太は、何とも言えない顔をしてスクリーンを移動させる。
本などで写真として見る事はあったため吐き気を催す程ではないが、やはり見慣れていないため気分は悪い。見慣れていればそれはそれで問題だろうが···。
暫く移動させていると道が舗装されたものに変わる、そのまま道を辿ると大きな門が見えた。少し映像を引いてみると中心に城が見えた。
「王都かな?」
再度拡大し街並みを眺めていく、やはり先程の村より活気があり人通りも多い。
「声とか聞けないのかな?」
そうつぶやくと左側の奥の画面、ステータスと呼ぶらしいものが発光し《隔離空間》の下に《傾聴》という文字が現れた。何となくその文字を触ると手前に新たな画面が現われる。
画面の上部に《傾聴》と書かれており、下にはその説明らしき文が書かれている。
《傾聴》
全体、個体に関わらず管理者の任意の声、音を聞くことができる。
なるほど、全体的なざわめきもピンポイントで人や物の声や音も聞くことができるのか、でも異世界なら言葉も違うだろうし意味がわかるか別なんじゃないだろうか。
そう考えていると手前のステータスが光り、新たな文が追加される。
尚、言語は管理者の世界に自動翻訳される。
都合がいいなおい
まぁ、管理者を示しているのが僕だろうから、ある程度は管理者の思うように変化していくってことなのかもな。
手前のステータスに触れると画面が消えた、ついでに他のステータスも確認してみる。
《観察》
管理者の任意のものを観察することが出来る。
尚、建物の中に関しては観察不可。
《隔離空間》
管理状態の間、継続して管理者の存在する空間を外部から隔離し、時間以外の外界からの情報を遮断する。
やはりねねの件は《隔離空間》が原因だったらしい。
因みに《権限レベル1》に関しては触れても何も表示されなかった。
大きく伸びをすると時計を見ると間もなく日が変わるところだった。
「もうこんな時間か···寝るか」
本を閉じベッドへと移動する、布団に入ると身体がベッドへと引きずり込まれる感覚に襲われた。
そのまま身体をベッドへあずけ、恵太は眠りについた。
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肌に感じる心地良い風、新緑の香り、まるで草原のど真ん中にいるような······。
ガバッ
部屋の中で感じるはずがないその情報に咄嗟に身体を起こす、眼前には青い空と広大な草原が広がっていた。夢か?
そう思い自分の頬を抓る、痛い···。
マジかぁ、死んだかぁ······。
たまに読むラノベの中で同じ様な表現を見た事がある、前の世界で死んだ者が別の世界で新たな生を受ける。所謂【転生】だ。
しかし、交通事故にあったわけでも、突然雷に撃たれたわけでもない。強いて言うなら安楽死になる。
安楽死で転生なんて聞いたことないぞ?
そう思いながら身体を起こすと何となく「ステータス」と心の中で唱えてみる、······出た。
正面に半透明の青い画面が出現する、取り敢えず確認することにした······が。
白紙?
画面をあちこち押してみたが反応がない。
「何だこりゃ?」
バグか?いや、ゲームじゃあるまいし···。そう考えながら画面を閉じ顔を上げる。
グルルルル
いつの間にか恵太は野犬の群れに囲まれていた。