第一話
[ズルミックス株式会社、現代のゲーム業界において知らぬ者がいぬほどの超人気ゲーム会社だ、この会社の特徴としてもっとも目立つのがゲーム開始直後のキャラメイキングにある、まるでチートでもしたかかのようになんでもありなのだ、ステータス値もスキルも全て自由自在に選び放題選択し放題でゲームをスタートできる、これがストレス社会の荒波に揉まれたゲーマー学生ゲーマーサラリーマンに大ヒットして一躍人気ゲーム制作会社まで急成長したのである、そんな同社が出す最新作ゲームソフト―― チートテイマーズの発売日を心待ちにしている者は数知れない]
〈第一話旅立ち〉
…… …… 。
「次にお並びの方どうぞ」
休日のお昼なのにやけに混んでいるレジに並んでるとついに順番が来た。
もうすぐ待ちに待った新作ゲームが手に入るかと思うと、自然と緊張で滲んでいた手汗をジーンズに擦りつけ拭った。ドキドキした鼓動を必死で押さえつけ、レジに向かう。
「よろしくお願いします、これ予約シートです。」
予約証明の紙を店員に渡す。
「いらっしゃいませ、ご予約のお客様ですね、予約シートの方お預かりします、予約番号は387、と、チートテイマーズですね、こちらでお間違いないでしょうか?」
待ちに待った新作ゲームのパッケージを見せて確認を取ってくる店員に、興奮して首を縦にブンブンふると肯定を示した。苦笑いしてバーコードを読み込む店員にどこか気恥ずかしさを覚えて支払いを手早く済ますと店の外に出た。
「あっつーー 夏だから暑いのは当たり前だけど、それにしても暑い、早く家に帰ろ」
エアコンの効いた店内から一歩外に出ると刺すように熱を持った日差しに照らされ、どっと汗が出た。
すぐさま店先の自販機でコーラを買うと、勢いよくぐびっと飲み、自転車を素早く漕いで家まで帰った。
「ただいまー、 ふぅ、 っても誰もいないんだけどな、ははっ」
家に帰るとエアコンのスイッチを入れてて一息つく、両親は既に他界していて、高校生の身で両親の残した遺産で一人暮らしをしていた。決して寂しくないわけではなかったが、幸いにも残された遺産の額は結構な大金だったためなんとかやれていた。
「さーて、新作のゲームやりますか、にししっ」
ゲーム機の電源を入れると買ってきたゲームソフトのパッケージビニールを手早く剥がし、ディスクを入れる。
ブーン、円盤の回転する音がなんともここちいい。
ワクワクした心持ちでコントローラーを握り、このゲーム会社のソフト特有のキャラクターメイキングをしていく。
「よし、はじまった、まず見た目は銀髪のイケメンにしてっと、名前はラキオス・メイルズっと、うーん今回スキルが沢山あるなぁ、あまり選んでもキリがなさそうだし強くて汎用性のあるものを一つ選ぼうかなうん、これにしよう!魔物作成コスト無限Verっと」
手慣れたキャラクターメイキングを手早く済ませゲーム開始のボタンを押す。
「ゲームSTART! ってな、ははっ 」
瞬間―― 画面が一瞬にして眩いばかりの光を発した。
「うわ!? なんだコレ!? 眩しっ、うわっ あ゛あ゛あ゛゛゛あ゛゛ぁぁぁ゛ 」
あまりの光量に慌てて目を腕で塞ぐと、強烈な頭痛に襲われ、眠るように意識を失った。
…… …… 。
「うわっ」
飛び起きるように意識が覚醒して目を開けると、そこには綺麗な緑色の草が生い茂る草原が広がっていた。
「…… ま、まじか」
いきなりのありえない事態に混乱するも、この状況にはどこか似たような思い当たる事があった。
それはチートテイマーズの前作にあたるゲームソフト、チート転生伝の主人公に襲い掛かった展開である。
「はは、これはまさかなのか……? 」
誰がゲームの主人公と同じような突拍子もない展開に巻き込まれると思うだろうか。
そのありえないけど実際に身に起こった事態に、興奮と不安をないまぜにした気持ちで乾いた笑いをこぼす。
「スキルON―― ブゥン うおっ、」
ためしにスキル発動名を唱えてみると視界にうっすら透明の画面の様なものが映る。
「凄い、まさかキャラメイキングで設定したキャラクターのスキルも全て使えるのか、ふむふむなるほど、だいたい使い方はわかってきたかな」
グォーーン!
「な、なんだ!?」
後方から獣の唸り声のようなものが聞こえて慌てて振り向くと、青い毛並みの狼がいた。
「これは、ブルーウルフ!? 前作チート転生伝の主人公と同じ展開じゃないか!? あっ、俺武器なんも持ってないじゃないかっ、 やばいっ、 やばい」
グルルルルルッ!
「うわっ、こっちくんな! ス、スキル発動! 魔物作成! 黄金竜ディザイア!!」
今にも飛びかかってきそうなブルーウルフに恐怖を感じて、勢いで魔物作成のスキルを発動すると、
過去中二病を拗らせたときに思い描いた、俺の考えた最強のドラゴンを咄嗟に思い浮かべた。
キュイーーーン、ピカッ――
目の前の空間に光が凝縮したかと思うとその光源は、一瞬にして弾けて、
キラキラと光る粒子の降り注ぐ中、輝く黄金のドラゴンが現れると、ドラゴンは鼻息を一つする。
ブォンッ
ただの鼻息のはずなのに、その風量はブルーウルフの毛並みを全て逆立たせ、強靭な体のはずのブルーウルフを草原に転がした。
キュ、キュウーーン、キュウーン。
一瞬にして戦力差を悟ったのか獣の本能か、丸く白い毛並みの腹を上向きに見せる服従のポーズを取るブルーウルフは、怯えた瞳で鳴き声を上げると、くるりと回転して森の方へ逃げていった。
「さ、さすが俺の考えた最強のドラゴン……」
一瞬でついた決着に拍子抜けして唖然と黄金竜ディザイアの方を見上げると、どこか誇らしげな表情をしていた。
「ははっ、」
なにかとてつもなく面白くなってしまった俺は笑いが込みあげてきて腹をかかえて思わず笑ってしまった。
なんとなくだがディザイアも微笑んだような表情をしている。
瞬間、ほのかに優しい色の光を発光すると黄金色の竜は金髪の見目麗しい美少女になっていた。
「よろしくお願いします、ご主人様」
見惚れるような綺麗なお辞儀を一つするとディザイアは、こちらにまで寄って来た。
「っ!? あ、ああ、 こちらこそよろしくディザ」
そういえば俺の考えた最強のドラゴンは美少女に変身できる、そんな設定もあったなぁと思い出して過去の自分は本当に拗らせすぎてたな、と苦笑いした。
「はい、ご主人様♪」
ニコニコとした顔で隣に寄り添うディザにさっきから心臓がドクドクと早鐘を鳴らしている。
(俺はラキオス・メイルズ銀髪のイケメン俺はラキオス・メイルズ銀髪のイケメン……ど、動揺するな俺、し、沈まれ俺の心臓……)
「あ、ああ…… とっ、取りあえず一度ドラゴンになってもらえないかな、近くに町があるのか空から確認したい……」
「かしこまりましたご主人様、いきます。ドラゴンエレメント――」
ピカッ―― 一瞬眩く発光したかと思うと、次の瞬間には輝く黄金色の竜に変身していた。
顎を地面につけ目線で背中に乗ってくださいと伝えてくる。
「ああ今乗るよ、そういえば……」
まだこの体の性能の確認をしていなかった――
足に込めるだけ力を込めてみる、
ピシッ―― 地面に亀裂が入った。
ジャンプをしてみると一瞬で雲の上を軽く通り越した。
『ご主人様!?』
慌てたのか念話を飛ばしてくるディザ、
不安定な空の上に体を放り投げながらも俺の心は不思議と落ち着いていた。
わかる―― 感じる―― 空の大気―― その意思が――
天空神の加護エア・レイ―― 最強のドラゴン黄金竜ディザイアと契約した者に授けられるという、
空を支配するスキル、ソレを極める者はやがて宇宙までも掌握するという――
…… …… 。
俺が中学生の時に考えたちょっと恥ずかしい設定の一部である…… 。
「ハ八ッ 来い、ディザ!」
勝手知ったる俺のスキルってな、エア・スピリッツ!
風に暴れてた体のまわりを優しい風が包むと意のままに空を滑空できるようになる、
それにしても空を泳ぐのは気持ちいいな―― たい焼き君の気持ちが少しだけわかるそんな気持ちになれる、海じゃねーけど(笑)
後から追いついたディザの背中に体を半回転させて手慣れたような動きで滑らかにそっと乗ると、
ディザから念話が飛んできた。
『もー!びっくりさせないでください! ご主人様!』
「ハハ、すまんすまん」
ディザをなだめながら空をしばらく飛んでいると南西の方角に大きな街が見えた。
「ディザ南西にいますぐ飛んでくれ!」
『急にどうしたんですか?』
「緊急事態だ!街が魔物の大群に襲われている!」
遠目で見えた街に群がる魔物の軍団に焦りながらディザに急げと伝える。
『了解しました!しっかり捕まっててください、ゴールデントレインッ』
ギュン――
『着きましたよご主人様!』
「え!? 早っ! えっ?」
『ご主人様助けにいかなくていいんですか?』
一瞬にして街の前上空まで飛んだ事に混乱して素が出てしまうも、ディザの声に我に返って街の方に視線を向けると冒険者らしき人達と騎士っぽい恰好をした人達が魔物の軍団と戦っていた、あきらかに劣勢で街まで突破されるまで秒読みといったところだ。
「やばそうだっ、スキル発動! 魔物作成! 聖剣型物質魔物、X狩り場―(エクスカリバ―) 続いて魔物作成! 超耐久鎧型物質魔物、金剛石王! いくぞ!ステータスON!」
ステータスをちらっと確認――
攻撃力9999→10億(文字化け)
※EX特殊スキル 指定全破壊 アウトブレイク使用可能
防御力9999→10億(文字化け)
※EX特殊スキル 物理攻撃吸収HP回復 Mの極意使用可能
勝った――ッ
「ディザ! いくぞ! 魔物の近くによってくれ!」
グォンッ
「聞こえるか! 旅の者だ! 助太刀に入る!! EX特殊スキル発動! 指定全破壊 魔物指定! アウトブレイクッ――」
チュドーーン!!
辺りを閃光が埋め尽くした。
(やりすぎたか……??)
内心冷や汗をかきながら光が収まるまで待つと、そこには光の刃で八つ裂きになって絶命した魔物の軍団があった。
一瞬何が何だか理解出来ないというようにシーンとした戦場に、爆発のような歓声が巻き起こった。
ハ八ッ、EXスキルの攻撃より音が大きいじゃないか、
「なぁ、ディザ、人間って強いな」
『???、ご主人様を人間の基準にしたらだめですよ? 』
「ブフッ、そういう意味じゃなかったんだけどさっ ディザってさ天然だよねっ はははっ」
『なんですかーそれー!どういう意味ですかー!なんで笑うんですかー もー』
そうだよな…… 俺も人間なんだよな…… 自分にゲームキャラの力があるとわかった瞬間、命の危機が去った瞬間からか気が大きくなっていって、そっからいつの間にかゲームの感覚でいたんだな、俺って…… 。
反省だな、これじゃ死んだ両親に申し訳ないわ、力を手に入れても俺は、俺だ、
まー、こういう俗物っぽさも含めて、人間なのかな(笑)
I LOVE HUMAN 【私は人間を愛している】
…… …… 。
それはこの世界に送った神が伝えてくれた意思なのか、偶然によって気付けた事なのかさだかではない、
ただ一つ言える事は、俺は人間の生き様が大好きで俺はどうしようもなく人間だ――
来世があるかどうかわからないが、もし来世があったなら何の力も無くても全力で生きようと、
そう決意した。 ただこの世界で力があるなら精一杯、今を楽しんで大往生してからかな!(笑)
ディザと念話でじゃれながらゆっくり下に降りていくと、竜騎士様万歳や、いやアレは間違いなく神様だ! などの大歓声で迎えてくれる。
英雄待遇も悪くない!
そして旅立ちへ―― 完。
【異世界へ旅立った者へ】
【ILOVE HUMAN】【私は人間を愛している】
どこかの神より。
…… …… 。
第二話につづく。
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