迷宮に潜りません。だって恐いの痛いの無理だから!下水の駆除で頑張ります。
迷宮都市に転移してしまった一般人のお話。
-迷宮都市ガーラン-
朝まだ他の冒険者達がやって来る前に彼は現れる。
「おはようございます。」
そう言うと彼は相も変わらずEランクの依頼を貼り出してるボードに行き、何時もと変わらぬ依頼書を受付に持ってくる。
「都市下水のスライムとラットマンの駆除の依頼ですね、では頑張って下さい。」
こちらの返事を聞くと彼は静かに頷き、ギルドを出ていく。
そして日が暮れてギルドの受付が空いた頃に現れる。
「スライムとラットマンの魔石の換金お願いします。」
そうして彼は銀貨十数枚を手にしてその場を後にする。
大概の冒険者は儲けの少ない都市のインフラがらみの依頼より迷宮内の依頼を好む、それはベテランもルーキーも一緒だ、しかし彼は、この街に来て1年、嫌な顔もせず安い依頼を受け続けてくれている。
他の冒険者はどう思うか知れないが私達ギルド職員にとっては有り難い冒険者だ。
-迷宮都市ガーラン-
僕の朝はとても早い実際朝方と言って良い時間だ。
「おはようございます。」
僕の挨拶にギルドの人達は嫌な顔をせずに応えてくれる。
僕は何時もと変わらぬ依頼をはがし受付に持っていく。
「都市下水のスライムとラットマンの駆除ですね。頑張って下さい。」
この一番ショボイ依頼ばかりをやっているにも関わらず受付の人達は優しい。
僕は静かに頭を下げてギルドハウスを後にする。
僕がこの世界に来てそろそろ1年になる。
何の変哲もない何処にでもいる中学生がこの世界に落とされ何の冗談か冒険者何てモノをやっている。
良くあるファンタジー作品の様にこの世界の僕の身体能力は格段に上がっている。
多分トップクラスの冒険者の人達にも引けを取らないと思う。
しかし僕は知ってしまった・・・なんぼ体が強くなってもケガの治りが早くても痛いモノは痛い!
初めての迷宮、初めての冒険に調子に乗った僕は迷宮にいたモンスターを相手に無双した。
親切なおじさんがくれた檜の棒を颯爽と振り回し敵をバッタバッタとなぎ倒した。
周辺にいたモンスターを退治した後、テンションが上がりまくった僕はカッコをつけて檜の棒をくるくると回し自分の脛を強打した・・・
イタカッタ・・・
筋力の上がった僕の脛への攻撃・・・半端なかった。
そして僕は理解した。
なんぼチートでも痛い物は痛い。
勿論現代人でも格闘技の経験者やヤンキーの人なら乗り切れるのかも知らないけど、僕はただの中学生、イヤ、敢えて言おうチョ~根性なしだと!
それから僕はこの街の一番弱いモンスターの駆除をメインに仕事をさせて貰ってる。
ここの受付の人達は親切でそんな僕の事を馬鹿にもせず扱ってくれる。
僕は朝から下水道の中に入り最弱のモンスターを夕方まで狩り続ける。
日が暮れて他の冒険者の人達がギルドハウスからいなくなる頃を見計らって換金に行く。
何故なら冒険者の人達って恐いんだもの。
暴力の世界で生きてますって感じで・・・異世界に来る前からその手の人達が苦手な僕にはとても他の冒険者の人達がいる時間にギルドハウスに行く勇気はありません。
こうして僕は週5日、朝から晩まで下水の中で最弱モンスターと戦う日々を過ごしています。
"帰りた~い"
-とある中級冒険者1-
最近妙な噂を耳にする。
何でもこの迷宮都市の冒険者の中に迷宮に潜らない冒険者がいるって、普通に考えたら有り得ない話だ。
なんたって迷宮とその周辺のモンスターじゃ採れる魔石の量と質が違うからだ。
モンスター退治は常に危険と隣り合わせの仕事だ。
同じ危険を侵すなら皆、躊躇わず迷宮のモンスターを狩る。
にも関わらずそいつは毎日都市下水に潜ってスライムやラットマンを狩っていると・・・もしその噂が本当ならば恐らくスライムやラットマンに相等深い怨みを持ってるんだろう。
奴等は迷宮のモンスターと違って駆除しないと地上に溢れ出てくる。
スライムは街を腐食して住居の倒壊を引き起こすし、ラットマンに至っては幼い子供を襲う。
この街でも年に何回かは冒険者に強制的に依頼して都市下水の駆除をしていたハズだが・・・そう言えばこの1年そう言った依頼が出たとは聞いてないな・・・こりゃ本当に噂は本当かも知れないな・・・
-とある中級冒険者2-
最近、朝方と夕方冒険者ギルドに怪しげなカッコをした奴が入っていくって噂話を聞いた。
冒険者何て大概は怪しいが、そいつは輪を掛けて胡散臭げに見えるらしい。
大きな幅広い帽子を被りマントとマフラーで顔と体を覆い隠していると云う。
うん、そんなのがコソコソしてたら確かに胡散臭い
。
しかしそんなのが居たら街中を巡回している兵隊にとっくに引っ張られているハズだ。
其でなくても此の手の街は気の荒い冒険者の多く、そいつらを取り締まる為の兵隊も気の強い奴が多い。
そんな中を顔を隠してフラフラ・・・無いな~もし居るとしたら余程、警備関係者に顔が利くんだろうけど、そんな奴が冒険者何てやらないだろう・・・うんっ無いな。
-ルーキー冒険者御用達宿屋-
ギルドハウスを出た僕は真っ直ぐに宿屋に向かう。
他に寄る所もないし、何より自分が臭い事を自覚している。
此の格好のまま寄り道は出来ない。
僕がこの1年、常宿にしているのは街外れにある新人冒険者御用達の宿だ。
僕の稼ぎでは街の中心地に在るような宿には泊まれない。
他の新人冒険者は早く高級宿に泊まろうと迷宮に潜るらしいが僕はこの宿が案外気に入っている。
僕みたいに下水の臭いをさせている人間を泊めてくれるだけでも有り難いのに、ここの人達は僕の事をあれこれ面倒みてくれる。
僕は宿に帰ると最初に裏庭に回る。
裏の井戸で体を洗う為だ。
僕が体を洗っていると、この宿のおかみさんがなにも言わすに替えの服を置いてくれる。僕は頭を下げてその服に着替える。
おかみさんは僕が脱いだ帽子やマントに嫌な顔もせず消臭剤を掛けて渡してくれる。
さっぱりとした僕を待ってるのは温かい食事。
本来は別料金のはずなのに何故か僕だけは通常料金に含まれているらしい・・・他の冒険者がおかみさんに文句を言っていたが彼は次の日にこの宿を引き払ったらしい・・・理由は分からないけど、何か聞くの恐いし・・・
他の宿がどうなのか知らないがこんな親切にしてもらえる宿屋を僕は出る気にはならない。
-冒険者御用達宿屋女将-
うちの宿はあまり立地が良くない。
場所が街の中心から大分外れている為にどうしても値段の安さで勝負する事になっちまう。
俗に言うところの新人冒険者用の安宿だ。
あたしは冒険者何て奴等が嫌いさ、下品で乱暴でおまけに臭い。
それでも生活の為に嫌々泊める。
当然泊まり以外のサービスは別料金さ。
ただし、たった一人を除いてだけどね。
1年ほど前ギルドからの紹介で一人の新人冒険者がこの宿にやって来た。
あたしは当然他の冒険者と同じ様に扱ったさ。
しかしその冒険者は明らかに他の冒険者と違っていた。
ナニがって、兎に角臭いのさ、迷宮に潜る奴等は大概臭いがあいつのはちょっと違う。
あたしはあんな冒険者を寄越したギルドに文句を言いにいった。
そしてあの子がどうしてあんな臭いをさせてるのかを知った。
誰もが嫌がる都市下水に潜り安い金額のモンスターを狩っている・・・それを聞いたあたしはその日からあの子をサポートする事に決めたのさ。
毎日泥だらけになって帰ってくるあの子を裏庭の井戸で汚れを落とさせ、洗い立ての服に着替えさせる、マントや帽子の汚れを落とし飯を食わせる。
どっかの馬鹿が文句を言って来たけどその日の内に追い出してやった。
当然さ、他の冒険者が下水に潜るのは街にスライムやラットマンが溢れて、ギルドが強制依頼を出した時だけだ。
そんな奴等に何であたしがサービスしてやらなきゃならないんだい。
この街でたった一人だけ、街の者の為に働いてくれる冒険者、そいつ以外は当然有料に決まってる。
あの子の様な冒険者がもっと居てくれたらあたしの子供がラットマンに襲われる事もなかったんだ・・・
読んで下さった方、すいません。
思いつきだけで書いちゃいました。
盛り上がり無しのふわふわで本当すいません。