EndLife 天使とひねもすと人々と……
町に着いた人々は町中を探し回り、ついに呼びかけを行っている女性を見つける。
女性を見つけた人々が見た光景は、町の住民達に罵倒されながらも声を張って呼びかけを行う女性の姿だった。
人々は、すぐに罵倒している住民達を止めにかかった。人々はこの光景を見ていられなかったのだ。女性の呼びかけている内容もろくに聞こうとせず、誰かが罵倒しているから便乗しようという、住民達の醜い姿をこれ以上見てはいられなかった。
もしかすると真剣な気持ちで罵倒しているのかもしれない。しかし、人々にはどう見ても面白半分に罵倒しているようにしか見えなかったのだ……
人々が止めにかかっても、住民達は反抗するばかりで埒が明かない。人間同士の怒りと怒りのぶつけ合いで重い空気が流れているその時である。「いい加減にしろよ!!」という、重い空気や怒りの怒号を貫くほどの大きな叫び声が聞こえてきた。
声を上げたのは、宇宙人と交信が出来る男の友達。あの時、男が宇宙人と交信しているところを追跡して目撃したあの友達である。
「あんたたちさっきから何してんだよ! 罵倒なんかして得することあんのかよ? わーわー叫んでたらこのテレパシーから救われんのかよ? 多分、この女性が呼びかけてる内容もろくに知らないんだろうな。馬鹿じゃないの」
これには流石に住民達も黙った。そして、また友達が口を開く。
「こっちもこっちだよ。俺達はこの女性の応援に来たんだろ? なんで喧嘩してんだよ。更に迷惑になってるだけじゃん。みんないい大人なんだから冷静にならなきゃ。さぁ。黙って話を聞こう。そうじゃなきゃいつまでたっても天使は現れない」
言いたいことを言った友達は、息を荒くしながらもとりあえず落ち着き、人々の下へ戻っていこうとした。しかし、それを呼びかけを行っている女性が呼び止める。
「すいません……どうして天使の事を知っているのですか?」
呼び止められた友達は女性の方を振り向き、笑顔で言葉を返す。
「やっぱ気になる? とっても不思議な話でさ。俺の友達に宇宙人と交信できるって男がいたんだよ。今はもう、テレパシーの手によって死んじゃったんだけど……そいつがさ、死ぬ前に俺達の前で宇宙人と交信したんだ。そしたら機械が現れる天使とか、俺達が知るはずも無い話を話しだしたんだよ。ビックリでしょ? 俺も初めは宇宙人と交信できるなんて信じてなかった。なんせ病気だと思ってたし。でも、あいつは本当に出来たんだ。ありえないってのは俺達が勝手に決め付けてるだけで、真相は蓋を開けてみないと分からないんだよね。だから俺達はあなたの応援に来たんだ。口だけじゃなくて体を張ってテレパシーから人を救おうとしているあなたをね。だから、今ここで機械の話してさ、罵倒してるみんなに分からせてやってよ。今からやろうとしていることがどれだけ重要なのかさ」
友達は、ニコッしながらそう言うと、人々の下へと帰っていった。
女性はみんなに説明した。一つ一つ分かりやすく丁寧に。そして心を込めて。みんなは黙ってそれを聞いている。罵倒していた人の中にも頷いている人がいた。
心を込めた言葉には魂が篭る。どれだけいい言葉でも魂が篭っていなければいい言葉には聞こえない。しかし、どんな言葉でも魂が篭っていれば心に響いてくるものだ。
魂は言葉でも表情でも分かるものではない。魂が篭っている言葉は心に直接響くのだ。あれこれ言葉を解釈して響くのではなく、そのままの言葉で……
罵倒していた人達も、女性が話し終わった時には、既に罵倒の声など上がらず、応援の声が上がっていた。
それは、女性の話し方が上手かったとかそういうのではない。女性が話す説明には魂が篭っていた。ただ、それだけのことなのだ。
この瞬間から、あのいがみ合ってばかりの近寄りがたい町ではなく、一体感のある、親しみやすい町に生まれ変わった。
ついさっきまで怒号が飛び交っていた空間が嘘のように、その日から全員が一丸となって機械の製作に取り組んだ。やはり、人手が多いと作業もはかどり、一心不乱に作業に打ち込み、機械は出来あがった。
町中で、機械が完成した事への喜びの声が上がった。
だが、まだ人々が救われたわけではないので素直には喜べない。人々は緊張した顔つきで機械を地面に置き、祈るようにして機械に思いを念じた。
すると、思いを念じられた機械がコトコトと動き出し、光りを帯び始める。しばらくすると、光を帯びた機械から一筋の光が空へ放たれた。
そこに現れたのは、天使ではなく光を帯びたキラキラと輝くものだった。
その、キラキラと輝くものが空一面に広がる。
「すげぇ……これが天使か……あいつの言ってた通りだ……世界……いや、きっと宇宙最強の超能力者を味方にしてたんだなあいつ」
「堅二見てる……? でてきたよ天使。堅二は一つも間違ったこと言って無かったよ……人々を救えたよ。堅二の設計した機械で……人々……救えたよ」
それは天使ではなかった。しかし、人々の目にはそれが天使に見えたのだ。そして、ひねもすから救われたと直感した。
案の定、その日を境にひねもすは無くなり、ひねもすの恐怖は幕を閉じた。
これでこの作品は完結です。読んでくださった方に感謝します。
この作品はもともと、知る人ぞ知る、筋肉少女帯の機械という曲を聴いて思いつきました(Life5なんてパクリといわれても仕方が無い)
では、本当にありがとうございました。